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父のこと、遺伝と宿命

父は「呑む、打つ、買う」三拍子揃った遊び人だった。しかし女遊びを「買う」と言っても、素人の女を騙していたのは、プロの女を買うよりもずっとタチが悪い。

既婚の子持ちでありながら、自らを親のない独身だと嘘を言い、妻である私の母に妹を演じさせ、側で泣く私を「妹が預かっている本家の赤ちゃん」と言っていたのには呆れてしまう。私が父をロクデナシと呼んでいい理由がそれだ。

ある日、女から母に「週末に妹さんに挨拶に行く」と電話があった。このまま家に居てはいけないと思った母は私を連れて実家に避難する。家族からなぜ帰ったのかを尋ねられても母は何も答えなかった。というか答えられるわけがない。

何も知らず遠い街から訪ねてきた女は、近所の誰かから本当の事を聞かされ、泣きながら帰って行ったらしい。気の毒な話だ。クズというのは、こういう男を言うのだろう。

怪我をして入院し、麻酔のためボケた父を私の妻と娘が見舞った。妻が「わたし誰だかわかる?」と訊ねると父は「わかるよ、長崎のユミだべ」と答えた。

家族の誰も知らない名前を口にしてニコニコ笑う父。長崎が地名なのか店名なのかもわからない。昔の女と間違えたのか、単にボケが原因の戯言だったのか。たぶん前者だろう。

「呑む」ことは父に似てしまった。若い頃に飲んで喧嘩すると「父さんの血」だと母に言われた。父は若い頃は愚連隊で、飲んで暴れていたらしい。

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