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昔、昔、あるところに善蔵というそれはそれは、卑屈な男が村のはずれに住んでおった

善蔵は毎日、毎日、道になにか落ちてないかと村人が通る道をくまなく探しながら歩くのが日課じゃった

善蔵はもういい年なのだが、何にもせず日がな拾い物をしたり、落としものを金品にかえたりしてなんとか暮らしていた、というのも14の頃、村の大層大金持ちで有名なお大尽の久べいという庄屋が、その庄屋は放蕩に耽り晩年は肥え太り、養生が悪かったのだが、善蔵がちょっと道でうずくまっていた久べいを見つけ、医者に連れていき、お世話したりしたら、あの世にお金は持っていけないと、なんの気まぐれか14の善蔵には持ちきれないほどのお金を褒美にもらいうけたことがあったからである。濡れ手に粟。それがきっかけで、善蔵はその日暮らしの味を覚えてしまったのである

ある嵐の晩である、善蔵の鼻がひくつき、喉を緊張が走った。いつもの金の匂いである、あわてて羽織を着てその金の匂いの方向へと駆け出す善蔵

眼前には、賭場の博徒とその敵対勢力の博徒の抗争が繰り広げられていた、

「あちゃ~血の匂いと間違ってしまっただか…」

と思ったのもつかの間、善蔵のギラリとした眼光が鋭くそれをとらえた

その抗争は村のどぶ川の橋の上で起きていたのだが、博徒の頭の腕に光る黄金の数珠が見えたのである

グサ、バサッ

「ぐわ!」

勝負は一瞬であった、その親分の腕ごとバサリと切り捨てたから、親分はひとたまりもない

「く…早く馬を出せ、、ぐわ!」

逃げるようにして、親分と半分に減った子分はその場を去っていった

「ヨッシャ」

善蔵は喜びの笑みを浮かべるのであった

次の日から善蔵の日課は変わった、来る日も来る日も、その抗争現場である橋のたもとのどぶ川にて、どぶさらいを続ける善蔵

何を隠そう、善蔵には金目のものをかぎ分ける嗅覚がある、その才能と根性があった「楽して儲けたい」という異常なる一念があった

「あの嵐の晩に見た、斬られた腕についた金の数珠がこのどぶ川のどこかに眠っている」
自然に力が入る作業。


村ではいつしか、善蔵がボランティアでどぶさらいをしてくれていると勘違いされるようになった、善蔵は確かにどぶさらいをしていたのである、それはどぶさらいしなければ、お宝にありつけないからである 

村人たちは精が出るなとねぎらいにおにぎりや饅頭などを差し入れるようになった、善蔵もまんざらではない気持ちにもなっていた

しかし、お宝はなかなか出てこない、焦る善蔵

へそを曲げそうになるのも辛抱して善蔵は前より範囲を広げてどぶさらいするようになった

とうとう、善蔵はどぶ川を愛す、村の良心的存在に見られるようになり、子供たちにも尊敬されるようになった

村ではいつしか村の誇り善蔵様という銅像を建立する話まででるようになった、ただそれは予算の都合で話だけで終わった

そしてその話が出た翌年、村の英雄に祭り上げられた善蔵はおに退治に出ることになる。その戦闘の際に負傷した傷がもとで、5年の歳月を経て絶命する




ーー「善蔵のどぶさらい」完ーーー

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