はじめてのお取引き。ハンドメイド作家の試行錯誤18年間(中編 vol.5)
こんにちは金曜お昼になりました。手芸作家兼若手イラストレーターの展示をメインとしたギャラリーを運営している大図まことです。イラストレーターとハンドメイド作家のための「仕事とお金の授業」45回目となる今回はデザインフェスタやハンドメイドイベントなどで直接一般のお客さんに販売するのではなく企業を相手としたお取引きについてのお話です。
前回までのあらすじ
ハンドメイド作家としてその日暮らしの生活を送っていたところ、ひょんなことからモノづくりに特化した創業支援施設「台東デザイナーズビレッジ」にアトリエを構えることになった私はインキュベーションマネージャーのアドバイスを受け企業相手の展示会「ギフトショー」に出展することになりました。そこで束になるくらいの名刺交換を行うことに成功し個人相手から企業相手のビジネスへと足を踏み入れます。
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今日の授業はここから
ギフトショーのブースに立っていると沢山のバイヤー(お店の商品を仕入れる決定権がある人物)が商品を見に来てくれました。その場でブランドの成り立ちやこだわりなどの説明をし商品を売込みます。その後取引に興味を示したバイヤーは必ず聞いて来る事になります。それは大事なお金の話。そう取引条件です。今でこそ一般的になったかもしれませんが知らない方もいると思うので説明すると商品をお店に卸す(並べてもらう)際の取引形態としてお店側は2つの仕入れ方法があります。
•1つは「買取仕入れ」
読んで字のごとく商品をお店がメーカー(作り手)から買い取って販売します。
•もう1つは「委託仕入れ」
商品をお店がメーカー(作り手)から預かって代わりに販売し一定期間が過ぎて残ったものは返品する取引です。
※デパートとの取引などは消化仕入れという方法も多いですが今回は説明を省きます。
なぜ書店は街から消えていくのか
最近よく本屋さんが街から無くなっていくというニュースを見ませんか?スマホの普及、人口減少、娯楽の多様化など理由は色々考えられますが、もっとも大きな理由の1つとして書籍の取引形態が委託仕入れだからと言われています。書店に在庫のリスクが無い代わりに儲けがとても少ない取引条件だそうです。調べて見ると書籍の委託取引条件は販売価格の80%(8掛け)が一般的なようです。それだと確かに書店の利益は少ないように感じます。ただし毎月数千冊という新刊が発行されている世の中で全てを買取仕入れにするのは現実的では無いようにも思えます。
みなさん10年くらい前から書店が雑貨を多く置き始めたのを気づきませんか?このあと出てきますがその理由は単純にそちらの方が取引条件が良く利益が出るという事例が増えていったことによると考えられます。
ハンドメイド作家やイラストレーターの扱うアイテムの取引き条件は?
私達ハンドメイド作家やイラストレーターが扱う雑貨に関しては以下の取引条件が一般的です。(100社以上の取引きがある私調べです。)
買取の場合 50%前後(5掛け前後)
1,000円のポーチを買取5掛けの条件でお店へ卸した場合は私の手元に500円入ります。お店は売れると500円の利益が出ます。売れないとお店はその分在庫となります。これを在庫リスクと言ったりします。こだわりのアイテムを作っている小さなブランドなどはあえて条件を60~70%などに高くして取引先を絞るという戦略を取る場合もあります。バイヤーからしたら魅力的なアイテムであれば高くても仕入れてくれます。
委託の場合 50~70%(5~7掛け)
1,000円のポーチを委託7掛けの条件でお店へ卸した場合は売れたら私の手元に700円入りますが売れないとそのまま戻ってきます。お店は売れると300円の利益が出ます。お店は返品出来るので在庫リスクがありません。※家賃や人件費などは掛かっているのでお店にとって全くリスクが無いということではありません。
この取引条件を見比べて見ると作り手側からしたら一見、買取取引の方が良いように見えますよね。私も当初そう思って委託取引は全て断っていたのですが、実績がない作家の雑貨をいきなり買取で扱ってくれるお店は実際そんなに多く無いようです。だとしたら委託でも掛け率を少しでも高くするなどの交渉をして商品をお店に沢山並べてもらうということは間違いではなくむしろ積極的に行ってもいいのかなと最近は思います。実績がない段階では臨機応変に条件を変えることをオススメします。まずは色々経験してみてください。
具体的なアイテムを例にしてビジネスを考えてみよう!
ここからは具体的に当時展示会に並べていたこちらの名画ブローチを例にして初めてお店と取引する際に決めた取引条件と実際の利益を書きたいと思います。どうやって条件を決めたかというとその時周りにいた他の出展社の話を参考にしてその場で決めました。笑
でもあながちおかしくなくて今でも小さな雑貨メーカーは大体みんなこのような取引条件だと思います。
▼取引条件
買取6掛け。初回は下代合計3万円以上からのお取引き開始。リピートは下代合計1万円以上
この場合1,800円のブローチのお店への出し値は6掛けなので1,080円になります。下代合計3万円以上からのお取引きなので分かりやすくこのブローチだけの発注の場合28個の注文でお取引き開始となります。※必ず最低の取引き金額を決めておくことが重要です。
ちなみのこのブローチの原価は約600円なので単純に計算すると1個売れると480円の利益です。28個の注文だと1回の取引きで13,440円の利益です。これを読んでみなさんどう思ったでしょうか?まぁまぁ儲かるなと思いましたか?そんなにだなと思いましたか?
実際このブローチを原価600円で作るためには1度に300個以上作らないといけないのです。よくよく数字を見直すと一見売上は大きいので儲かっているように見えましたがアトリエに在庫が沢山余っていたので最終的な利益は微々たるものでした。
利益を得るためにどうすればよかったのか?
今冷静になってこのブローチで利益を得るためにはどうしたら良かったかと考えると以下の案が浮かびます。
・値段を上げる
1,800円の販売価格では無く3,800円くらいでも良かったのでは?原価の3倍が上代の目安という考えが頭にあったのと安い方が色んな人に手に取ってもらいやすいのではという
考えでこの値段にしてしまったような気がします。市場に似たようなものがないのと自分で言うのも恥ずかしいですが当時書籍を何冊も出していてブランド力があったので高く出来たはずです。
・少量で作れる生産背景を探す
オリジナルで作った箱のロットが300個必要でした。それ以外はそこまで必要では無かったので箱にそこまでこだわらなければ良かったと思います。でも当時そういう細かい所をこだわりたかったんですよね。箱のロットは変えられないとして余った箱の原価を上代に乗せると言う考えも今なら出来ます。
・発注がまとまるまで作らない
ある程度の発注数がまとまらない場合(利益を確保してから)はそもそも商品化しない。展示会ベースで発注を付けるアパレルではよくあることです。魅力的なアイテムであれば納品まで時間があってもバイヤーは待ってくれます。
・そもそも作ろうと考えない
これは冗談のように聞こえてしまうかもしれませんが今冷静に考えるとブローチは大量に売れる物では無いです。テレビで清水ミチコか光浦靖子さんしか付けていることを見たことがありません。ビジネスとして考えたらそれを安い値段にして売るべきでは無い。そもそも作ってはいけない商品なのかもしれません。
冷静と情熱の間
私たちはついつい好きだという気持ちだけでモノを作ってしまいます。それは創作活動を続けて行く上でとても大事な事です。どんどん作っていきましょう。でもビジネスとして考えた時どうでしょう?世の中に大量に出回っている安価でかわいいものと比べられるようなものを作っていませんか?値段を抑えるために量を作ろうとしていませんか?いったん冷静になりましょう。数百円、数千円で売るものを私たちは作ってはいけません。それは大企業がやる仕事です。私達がそんなことをしてたらほんとにずっと貧乏です。
事実私が入居していた台東デザイナーズビレッジの卒業生を調べて見ると単価が高い革雑貨やジュエリーを作っている方たち以外、私を含めて布小物雑貨ブランドは苦戦しているように思えます。
刺しゅうのブローチを作るなとは言いません。作るなら数万円出しても欲しいと思ってもらえる刺しゅうのブローチを考えてみましょう。大量に売ることは考えなくていいです。少量でもちゃんと利益を出していくことを考えましょう。お店に卸さないで自分で売るのも1つの手です。
私の経験上、誰かが苦労して成り立つ関係は必ず破綻します。外注先も卸先もお客さんも、そしてなにより自分を大事にしましょう。
来週の予告!
1,800円のブローチの利益が全然無かった私ですが気がついたらその年の売上は3千万近くになり個人の収入として1千万以上のお金を得ることになってしまっていました。どうしてそんなことになってしまったのか?!
来週金曜お昼にまたお会いしましょう!