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末期癌の母と過ごす病室

緩和ケア病棟の個室にいる母。

まだ痛みや苦しみが出ているわけではない。

ただ、癌は確実に骨にまで転移し

いつ痛みや苦しみが出るか分からない状態。

葬儀屋を決めておいて欲しいとまで言われたけど、

母は健やかに楽しそうにベッドで寝ている。

仕事の合間を縫って、毎日、病室に顔を出して会話をする。

母はずっと夢の世界の中にいる。

病室にいない人と会話したり

急に脈絡のない話をしだす。

だけど、全てが楽しそう。

お互いの会話の中身が食い違っていても良い。

ただ、楽しそうに話す母を見ているだけで良い。

そんな母を見て昔を思い出す。

昔話をしてみる。

覚えていなくても話してみる。

よく作ってくれた料理のレシピを聞いたり

旅行に行った時の話をしたり

覚えていなくて寂しいけど

言葉と言葉が重なり合うだけでも嬉しい。

もし、母の意識が途絶えてしまえば、

こんな、ひとときすら、思い出になってしまう。

言葉を重ね合わせることもできなくなったら

こんな日々も思い出になってしまう。

どうか、思い出になってしまうことを

一分でも一秒でも、

先に伸ばしてほしい。


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