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とりとめのないこと

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天才セッターの如く

一つ歳上のいとこが結婚するそうで大変おめでたい。
今日は結婚を祝う親戚の集まりが開かれているらしく、いとこがみんなの前で「今までお世話になりました」とスピーチする動画が母から送られてきていた。小柄でシャイな彼女は親戚内でちょっとだけ特別可愛がられている趣があり、私はそのことにほんのり嫉妬していた。その子の真似をしてピアノを習い始めたりしていたんだっけ。今日行われているという親戚の集いではいとこの次

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2020年4月19日

午後3時40分。洗濯物を干しにベランダに出る。「海の匂いがする」と思ったのは気のせいで、そのとき着ていた波模様の柄シャツからする日焼け止めの残り香だった。昨年の夏によく着ていたので、洗濯しても落ちなかったのだろう。
怠惰な性分なので、洗濯物を干し始めるのが日が翳り始めるこんな時間になってしまう。田舎だったらあそこの娘は、などとご近所に笑われていることだろう。こんなとき、都会はいいと思う。それと同時

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つなぎ多めのハンバーグ

父母、特に母は個人主義者で、私がやりたいことをやること以外一切何も求めない。そしていつでもわがままでありなさいという。進学も、就職も、結婚も、その先のことも何一つ子どもに口出ししたことがない。

ある日私が、仕事で常に成長することを強いられるのがしんどい、といったようなことをこぼした時には、その土俵から降りちゃえば?と軽やかに言う。その土俵から降りたって十分に生きていけるし、世間の言う「立派な人」

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えにくす、寅さん、鯛

今のところだが、自分には長くひとところに留まっていられない気質がある気がする。RPGの勇者っぽい気質だと思う。あるいは寅さん。居心地の良い村があったとしても、時が来るとどうしても次の村へ向かわずにはいられない。安寧に暮らしていても、ある日突然「時が来た」と感じ、そこを立ち去らねばならなくなる。「時が来た」という感覚があった瞬間に「次の村へ行きますか?」というウィンドウがポップアップする。選択肢を選

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引っ越し準備

引っ越し準備のため、部屋のありとあらゆるものを引っ張り出してはみたが、床を埋める大量のモノを前に茫然としてしまう。

3年前に引っ越してきたこの部屋は田舎のアパートタイプの独身寮だが、本当に住み心地が良く、私は心から気に入っていた。ワンルームではあるけれど、11畳の広さの居住スペースと、カウンターのついた対面式キッチンがある。風呂トイレは別、日当たりは良好。これだけ広さがあると、気に入った家具をサ

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名曲にマジレス

富士の高嶺に降る雪も
京都先斗町に降る雪も
雪に変わりはないじゃなし
溶けて流れりゃ皆同じ

富士の高嶺にはいくら降っても構わないし、溶けたらミネラルウォーターになるけど、
先斗町に降る雪は、そこに住む人を凍えさせ、子どもにはしもやけをつくらせる。溶けたら泥濘みになる。

2018.12.15

其を寿ぎ歌う

退屈な仕事の最中、携帯を盗み見ながら、新元号の発表を待っていた。

「令和」

私はそっと私の中の蜷川幸雄(気難しい部分)の顔色を伺う。彼は黙っていたけど意外にも満足気で、それに何よりもほっとした。

元号が変わったからといって私の生活は何一つ変わることはないが、それでも新しいものは清潔で嬉しい。ふと、音楽の授業で習った「おおひばり」というメンデルスゾーンの唱歌が頭に浮かんで再生された。

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遠いところへ近づく

呂布カルマ(私の好きなラッパー)がたまにする「遠いところへ近づく」という表現。意識的ではないにせよ、人間の根源的な「信仰」の感覚を言語化している感じがして、好きだなと思う。

この場合の「信仰」は、単に、体系立てて確立された、一つの宗教への帰依という意味ではなくて、それよりもっと根源的な、何らかの深淵なるものへ近づこうとする、無意識に萌芽するパッションとしたい。
逆に言えば、この「パッション」

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匂い立つ日

今日は蒸し暑くて、まるで梅雨明けの日みたいだった。生温い湿った空気がまとわりつき、髪は梳いてもちりちり広がり、リュックサックと背中の間が汗ばむ。たまたま出張でゆりかもめに乗ったのだけど、今日ばかりは暗い水を湛えた東京湾が鬱陶しかった。帰りに自転車に乗り、街路樹のハナミズキの前を通ったとき、なんだか良い匂いがすることに気づく。次に、例年同じ紫の花の鉢ばかり執念深く並べることでおなじみの家の前を通ると

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2019/04/16の日記

今日は何だか、夏の夜に露天風呂で星空を仰いでいるような変に壮大な気持ちがして、ソワソワしてしまい、集中できなかった。とりあえず広い空の見える露天風呂に入りたくなったので、一緒に岩盤浴施設に行こうと(訳:車を出せ)同期を誘ったけど、今日は部署の飲み会だと断られてしまった。
なんで今日はこんな気分になるのだろう、としばらく考えて、ふと黄砂のせいかもと思い至る。中国黄土の広大な砂漠の成分が体内に入りこん

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春雷

雨もややぬるくなってきた春の夕方。なるい仕事を騙しだまし片付けていると、突然、久しく忘れていた懐かしい轟音。熱帯夜に飲む氷水みたいにしんと身体に染みわたる、その音のなんと爽やかなこと。頭の芯がキンと冷えた気がした。

夏の豪雨の中で聞くのは暴力的で恐ろしくて嫌いなのに、春一番のそれは、始まりを告げる福音みたいで喜ばしい気がするから面白い。

調べると春雷は、冬眠していた地中の虫たちを目覚め

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歳を重ねること

黄色い粘菌が網目状に広がって、成長していくように、歳を重ねるごとに、積まれていく体験を通して、知っていること、分かることが増え、それに伴って感覚と感情が分化し続けている。
半年前に見えていたものと、今見えているものは
違う。構造がより分かるようになっているし、それに対しての自分の反応も違うものになっている。面白い。
折に触れてその増加と分化に気づくと、面白くて嬉しくなる。進化してるじゃん、と思う。

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西方

お風呂、トイレ、布団の中、とか思考が整理されてインスピレーションが働く状況って人それぞれあると思うんだけど、私のそれは「出張中の晴れた日の午後、電車に乗ってる」っていう複数の条件が重ならないといけない局地的な状況だから困る。

西陽が眩しいなって思いながら、ぼーっと電車に揺られてる時が一番そういう時間というかんじがする。日々の中で拾ったものや、うっかり拾ってしまって捨て損ねていたものが不思議と

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公孫瓚とカオリさん

今なんやかんやあって北方謙三の三国志を読んでいる。その中で、公孫瓚という(劉備の地元の先輩的なポジションの)武将について説明している一文
「公孫瓚が笑った。昔から明るい男だった。失敗も笑い飛ばすようなところがあり、それで失敗と見られなかったりするのだ。」
と言うのがあって、これは滅茶苦茶わかる…となった。自分が失敗したときに、謙虚に自分を責めて落ち込んで謝ったりするよりも、むしろ笑って流したりヘラ

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