菊山宰

菊山宰という存在が自分の中に生きるのは必然だったと思いたい。この肉体とそれは全くの別物…

菊山宰

菊山宰という存在が自分の中に生きるのは必然だったと思いたい。この肉体とそれは全くの別物であるかのように不思議なのに、私が菊山宰であることは確かである。

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最近の記事

朝の口づけ。

今朝の目覚めは心に何の負荷もなく、振り向けば安らかに眠るパートナー。抱きついて髪の匂いと朝を嗅ぐ。もう一度眠りに落ちてしまいそうな安心感と温もり。 脚を曲げればTバックが食い込み、昨夜の熱とキッシュが蘇る。 「おはよう」 オレンジジュースで口を潤して眠気も一緒に飲み込む。二人だけの秘密基地のような布団に潜り、頬とおでこに唇を乗せる。空気は私たちの熱で充満していて、外の世界が動いてるとは到底思えない。 「お尻に朝のキスをして」 Tバックで飾ったお尻に彼女の唇が優しく弾む

    • 性自認?水でできた彫刻に聞いてみてちょうだい。

      「あれ?自分男か?女かおもたわ」 60代くらいの男性から嗄れ声で言われた一言。男性ですと笑顔で答えると相手も「ありがとう」と笑って買ったものをポケットに入れて出ていった。 「ねーちゃん、たばこ頂戴」 たくさん汚れた作業着で入り口からレジへ直行しながら一言。足跡もたくさん残して。いつもお疲れ様です。 「それお姉さんに渡して、ピーしてもらお」 若いお母さんがお子さんの手に持つお菓子をレジへ誘導する一言。未来が詰まった小さな指先が徐々に解けていく。私はそれをすぐにピーだけ済ませ

      • 読者の虚像と執筆者の味。

        顔も雰囲気も知らない誰かのnoteを読みながら「これを書いてる人も生きてるんだなぁ」と当たり前のことを思う。 その誰かはたしかに生きていて、今日という疲れも私と同じように感じているはず。どんな幸せを感じる人で、誰といるのが好きで、何に不安を感じながら生きていて、明日への期待は抱く人なのか、何の実態も知らないからこそ生きている不思議にたどり着いてしまった。 今日一日を振り返る記事、夫婦のあれこれを書いた記事、ライフスタイルを魅せる記事、時には小説や詩。拝読している私は仕事着

        • 夜が言葉を迎えた。

          昨夜、恋人と言葉遣いについて話す機会があった。「もっと女性らしくなりたいな」と言った彼女に対して、これは絶好の機だと思い「容姿よりも言葉遣いや所作に気をつけるだけでもより素敵になれると思う」と言った。 実は私はもっと前から言葉遣いについて彼女と話し合いたかった。けれど言おうとすると数秒先のことを考えてしまって「相手の機嫌を損ねるかもしれないしまぁいっか」となって逃してきた。だから彼女自らそれについて話してくれてとても嬉しかった。 一緒にいる相手が暴言を吐いたり、ネガティブ

        朝の口づけ。

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        • 短編小説
          4本
        • エッセイ
          41本
        • 7本

        記事

          とある一文を見つけて独り言。

          「せっかく女性に生まれたのだからセックスを堪能したい」 こんな一文を目にした。意識的に何度も読み直したけれど「そうよね」と返すには少し時間がかかった。 せっかく女性に生まれたのだから、には男性だったら違っていたというのような意味が含まれている気がする。それとも同じようにセックスを求めていたのか。 これを書いた人に興味を持ったわけではなく、この文章に対して愉しいなと感じた。女性の身体である自分に誇りを持っていて凛とした佇まいで放った一言にも感じ取れるし、絶頂を受け止める者

          とある一文を見つけて独り言。

          膿を剥ぐ。

          娯楽とは、生きる意味を悟らせないために人か神かが生んだ薬なのかもしれない。などと、ふわふわ雲の上に正座しているかのような心地で思考している。どんなに柔らかい表現を試みたって脚には氷が刺さっている。 考えることを考えてしまう時間は良くないな。私にとってのストレスはどうやら噛み砕いた哲学らしい。言葉の破片が心に溜まりすぎる。それが膿になって心が疲れてしまう。気づいた時には表情を作ることさえ億劫で、人の営みにも上手く交われそうにない。そのくせ心地いい声だけは探しているようだ。

          膿を剥ぐ。

          そういえば弟やった。

          「自分、ゆうちゃんの弟やんな」 誰だったかな。顔は覚えてるけど誰かの親だったことは確かだけれど、まぁいいか。 「はい、そうです」 「昔よう家遊びに行っとったな」 「はい、覚えてますよ」 他のお客さんと変わらない接客スマイルで対応するしかない。正直まったく覚えていない。 知り合いと出会したときの気まずさが好きじゃない。誰か覚えてないからじゃない。向こうが昔の自分を知っているから嫌なのだ。うちの家庭がどうなったかなんて知らないはずの人が「そういえばこの子の実家どうしたんだろう」

          そういえば弟やった。

          書きたい私と赤いリボンの卵。

          私は何か一つのテーマに沿って書くのが苦手なのかもしれない。過去の文章を見返すことが多々あるけれど、評価の数字がそれを物語っているし、自分自身が客観的に見てもどこか胡散臭いような説明的な文章である気がして面白くない。 テーマに沿って狙った文章を書いたものは書き上げた当初は自己評価が高いのだが、ハートの数が明らかに少ないし、後から読み返すと「なんでこれがあんなに満足してたんやろ」と思う。だから逆にテーマを決めずに、その時あたまの中にある感情をただ綴っているだけの文章は思ったより

          書きたい私と赤いリボンの卵。

          縁ロマン。

          多分この人とは歳をとってもずっとこの関係なんだろうな、なんて数年前に思っていた人とは会わなくなり、その頃あまり会っていなかった人と今は一番よく会うようになった。 職場が変わるのもきっと必然で、今笑顔になれる先輩と巡り会えたことも同様。おかげで前の職場の先輩とは距離感が変わったり、学ぶことも変われば自分自身も変わっていく。 関わる人で変わるものを尊ぶ気持ちが育まれていると感じる。 小説を好む人間になったおかげもあるかもしれない。幼い頃は国語に限らず勉学は放置していた私が活

          縁ロマン。

          「好きだった」に浸る数秒間。

          文章には表情も性格も染み付いているもので、その人の息まで伝わってきそうだ。実際に会ったことがなくても文章を追っているだけでその人の細部まで知っている気になり、想像世界は読者だけのものであるから、この人をほんとに理解しているのは自分だけなのだと錯覚まで起こしてしまう、なんてこともある。恋は盲目なんていうけれど、まるで恋しているかのような目で視線が撫でる。 知名度に影響されず誰でも物書きとして世に発信できる時代だからこそ、個々にとっての偉人がどこかに埋もれていて、恋にも似た火を

          「好きだった」に浸る数秒間。

          父親みたいになるくらいなら。

          私は父親からモラハラを教わりました。 父親とすら呼びたくないほど怪訝していて、声を聞くだけ、姿を見るだけで拒絶反応を起こして吐き気が襲うような人になってしまったけれど、今では反面教師として思い出すことで人間性に影響与えてくれていると思ってます。 時にはDVをするような人でしたが、体感としてはそれよりも日常にあるモラハラの方が恐怖心を植え付けるものだと知りました。道徳がない、と断言してしまえるほど思考回路が不思議で全く理解できない言動ばかり。おかげさまで秒単位で安心と不安が

          父親みたいになるくらいなら。

          車内の香りとBirdy。

          Come on,skinny love,just last the year...♪ 車に入った瞬間、篭っていた冷気と共に香水の香りが鼻腔を冷やして癒す。風が遮断された空間で立ち上る香りは、ずっと私が欲していた私だった。Birdyの美しい歌声が私を祝福している。 前から欲しかった香水をようやく買うことができた。今月の給料日までの仕事はこれがやる気を出させてくれていた。 店で再び手に取ったそれはやはり変わらず私の好みの香りだったけれど、他の商品にも目移りしてテスターをあれこ

          車内の香りとBirdy。

          そこにないものを話す時。

          何処にいて誰といるかで会話の内容も違えば、見せる自分もテンションも違うことがあるように、言葉の通じ方も違う。通じ方が違うのに全部同じように話していては想像してほしいことが何も伝わらないまま曖昧な返事しか返ってこない、なんてことが起きてしまう。話の面白さ以前に伝わるように話しているかが重要なのではないかと最近よく思います。 とある小説の一節で「そこにないものの話ができないのはしんどい」という台詞があり、私はそれを何度も読み直して胸に刻んでいました。強い共感を生んだ文章はつい何

          そこにないものを話す時。

          「サラダとワインと夫の」【短編小説】

           結婚して五年。夫婦のセックスレスは世間的にどのくらいの年月で訪れるものなのか。ご近所の山田さん、坂口さん、森井さん、その他の奥さんは未だに旦那様に抱かれているのかしら。  容赦の問題。ええ、わかるわ。いつまでも女として見られるための努力。それは怠らず毎日磨いているはず。山田さんの皮膚の垂れた首元、坂口さんの大きな腹や尻、森井さんの手入れのされてない髪、それぞれと見比べても私はまだ保っている方じゃないかしら。入浴前は必ず体型を確認し、男が欲情するのはどんな身体なのかまったく理

          「サラダとワインと夫の」【短編小説】

          あぁ...これだから好き。

          私が愛してやまない小説家、村山由佳さんの「放蕩記」を読んでいた時のこと。 私が人に対して感じてきた興奮や好意が言語化されていて「まさにそう、その通り」と鳥肌が立ってしまった。きっと自分だけにしかわからないと思っていた感情や考えが、鏡のようにぴったり同じ形をしたものを見つけた時こんなにも胸高鳴るものかと、声にならない声がため息みたいに漏れ出ていた。 多少本文より省いているが、上記の文章を読んだ時は脳内を覗かれているのかと思ったほど驚いた。「ほんとにその通りだわ」と何度も心の

          あぁ...これだから好き。

          店員に手と顎で喋る人。

          このタイトル「喋らない神様」と名付けるか迷いました。 接客業をしたことある方ならこれだけでいるいる、と頷いてくださるかもしれませんが、コンビニのような客層が幅広い店ではそれはもう様々なキャラクターがいらっしゃいます。 名付け迷った「神様」には皮肉も込められてますが、実際「お客様は神様」というのは「お客様によっては神様」が正しいような気がします。 店員の質問に対して声を出さず手のジェスチャーか顎で命令。あなたのジェスチャーで全部伝わるほど私たち深い仲じゃありませんけど?な

          店員に手と顎で喋る人。