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酔い覚め

学者の言葉がすべて正しいわけがない。
むしろ彼らは研究している半ばに常に立っているわけで、発表と同時に多くの批判を受け入れて更新し続けているのだから、いつだってそれは結果とは違うものなのだと思う。
ただ膨大な資料と歴史と、思考経緯を背景にした言葉がある。
権威だとか名誉がつく学者はともかくとして現役の学者はそういう存在なのだということはわかる。

コロナ以降だろうか。まだ世界がその正体を掴めない頃に学者たちはその正体について発信していたわけだけれど、それになんというか文句を言う人がざわざわと集まり始めた。
良心的な学者は資料を添付しソースも公開していた。予測の場合は予測だと書き、絶対だとは書かなかったと思う。
そこに資料もなく、ソースもなく、絶対だという立場で意見をする人が集まるという現象が生まれた。実際にこうなんだという強い言葉で絡む。それが多くのケースなのか、別の事象と重なっただけなのか、レアケースなのかもわからないままに。

僕が驚いたのはその文句を言う人たちがなんといわゆるイデオロギー的に反発している人たちだったからだ。いわゆる左だ右だとか関係なく、どちら側でも強く発信している人たちほど、同時に同じ場所を攻撃していた。普段は反発し合っているのに、そこは同じなの?と不思議な気分になった。
コロナがそれほどの目に見えない恐怖だったのだと僕は理解していたのだけれど、それがそうでもないのだということを最近感じ始めている。社会的ヒステリーで説明できるんじゃないかと思っていたがそうじゃなかった。
というのも、コロナがある意味で世間的関心が落ちついている今に至ってもあらゆる場面で同じようなことが起きているからだ。

一番顕著なのは安保関連だとか、ウクライナ関連だろうか。
ソースもあり、資料も提示されていても、強く攻撃する。原典の紹介でしかないtweetにも攻撃している。その攻撃している人はイデオロギー的な偏りが見えるのだけれど、その偏りがやっぱり右も左も存在しているという。
つまり、事実の認定を拒否している。

まぁ、あたりまえのことながらこんなことはごく少数だ。
圧倒的に芸能ニュースやらスポーツニュースの方が大人気だ。
ファッションニュース、最新の化粧品、占いやらのが大人気だ。
いつの頃からだろう?僕たちは現実や事実を直視していては生きていけないことを学んでいるような気がする。
生きていれば当然それぞれの現実というものが目の前にある。
病気のこと、家庭のこと、生活のこと、恋愛やその他もろもろ。
恐らくは誰にでも無視できないような現実が一つや二つあるのだろうと思う。
いずれ直視しなくてはいけないとしても順延したいということも多いだろう。

ただ政治色の強い場所や、イデオロギーの偏った場所。
そういうところでも同じように現実や事実を直視しないとすれば。
それは時代の病理として実はかなりのところまで来ているんじゃないだろうか。
まぁ、それでも発信し続ける学者がいるのだから行って来いのような気もするけれど、もしそういう人たちがいなくなればその時点でこの世の中は現実から乖離したファンタジーの世界になってしまう。
学者に交じって扇動ばかり考えているような人もいるしさ。

常に酒に酔ったまま生きているようなものだ。
まぁ、それはそれで悪くないのか。

良い悪いは別に判断するべき事でもない。それはそれでいい。
ただシンプルに思うのは、現実や事実が醜悪なのかどうかだ。
見たくない現実、知りたくない事実、それは醜悪なのだろうか。
いや現実に善も悪もないだろうし、美醜もないのだろうけれどさ。
だとしてもだよ。
世界をどう認識するのかっていうのは、つまり生きることそのものな気がしているからさ。そしてその世界を少しでも良いものにするためにたくさんの人が歴史を刻んできたわけで。

ふわふわと夢の中を生きるのもいいさ。悪くない。
でも、同時に現実がそこにあって、それも悪くないよねと僕は言える世界であってほしいなぁと思う。
都合がいいかもしれないけれど。
構えないと立ち向かえないのが現実や事実になっているのかな。

学者という探究者は実に大変な道だと思うよ。

映画『演者』

企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル

「ほんとう」はどちらなんですか?

◆終映◆
2023年3月25日(土)~31日(金)
K'sシネマ (東京・新宿)

2023年4月15日(土)16日(日)
シアターセブン(大阪・十三)

2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)

出演
藤井菜魚子/河原幸子/広田あきほ
中野圭/織田稚成/金子透
安藤聖/樋口真衣
大多和麦/西本早輝/小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟 録音 高島良太
題字 豊田利晃 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希 制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。