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僕は毎年晩秋に死を思う

11月の前半は不思議と僕に縁の深い人たちの命日が多い。
一年は12カ月もあるのにどういうわけかこの月のそれも前半に集まっている。
父親も。師匠まで。
全員じゃないよ。他の月にももちろんあるのだけれどさ。
それにしても11月は集まっているという感じがある。
たまたま偶然。だとしても。
遠い空にいる人を想う時間を長く過ごすことになる。
15日に龍馬忌がやってきて、そこでいくつかの命日は終わる。

死生観というものは確固としたものではない。
想像以上に日々変化し続けていくものだ。
病になったり、歳を重ねたり、近しい人を亡くしたり。
宗教的な考え方すら無意識のうちに更新され続けていく。
けれどそれにあまり気付くことはない。
昨日の自分と、今日の自分とで、哲学的な核心でもある死生観が違っているはずはないと考えてしまう。
けれど僕はようやくわかったけれど、実は死生観こそ日々変わるもののようだ。
だから昨日まで笑っていた誰かの思考が急に死に向かったりもする。
そしてそれはきっと誰かだけじゃなくて、誰にでも起こりうることなのだと思う。
時に衝動的に、時に情動的に、大きく振り子が触れるように。
綱渡りをしているかのように。

ここ何年かで僕たちは知らない間に大きな影響を受けている。
パンデミックで学んだことは、自分が明日倒れる可能性と、自分が誰かを間接的に感染させて殺してしまう可能性と、その誰かが大事な近い人たちかもしれないということだった。
それはまるで突然、強烈なパンチを受けたかのように無意識をぶん殴ってきて、それまでよりもずっと死を近いものとして感じるようになったはずだ。
そして戦争が始まった。
ミサイルが、爆弾が、銃弾が、映像で流れ続けた。
センシティブな映像を見てしまった人もたくさんいただろう。
その理不尽な死を、悲しみの連鎖を、愚かな人間を僕たちは目の当たりにしている。
それもポケットに入る小さな世界の窓から。

阪神淡路大震災や東日本大震災のときも大きく死生観が変わった人がたくさんいた。
自覚的に変わった人もいたけれど、無自覚に変化している人もたくさんいた。
当然のことだけれど、その変化は人それぞれバラバラで、生への衝動が高くなった人もいれば、生への執着のようなものが生まれた人もいた。その逆の人もいただろう。刹那的な生き方を選ぶ人もいただろう。
きっとあの時と同じかそれ以上にこの数年をくぐりぬけた人たちの心には何かが刻まれたはずだ。

死を思う。

スマフォの中の出来事はまるでフィクションのようだ。
自分の生きている世界と地続きなのにモニターを介するだけでまるで鏡の向こうの世界のように距離感を感じてしまう。
ニュースアプリを開いたら、中東情勢による生活への影響は?なんて見出しがあって、めまいがする。
誰かが血を流している戦争を自分の政治的意見の材料にする人もいれば、戦争で動く原油価格や為替に注目している人もいる。
それを厭だなぁと思うよりも、それを何かから逃げ回っているようにも感じた。
死を自分からなるべく遠ざけたいのかもしれない。
生きていくことはそれを回避することは出来ないということなのだけれど、それを思うことはそれほどに生きることに大きなストレスになるのだろう。
ほんとうは誰だって死が隣にあることを知っているからだ。
そりゃあ、逃げたくもなるか。

人間一人の心とはなんと複雑なものなのだろう。
生まれてから今日までの様々な出来事が刻まれ続けている。
本人の知らないところで刻印が増えていく。
日々それは更新され続ける。
たった一人でそうなのだから、それが集まることは大変なことだ。
それにしても、大勢の人がいる場所へ爆弾を落とせる神経とはどういうものなのか僕には想像も出来ないよ。

死を思う。
馬鹿みたいだけれど思う。

もう逢うことも、話すことも出来ない人を想う。
どんな声だったっけ?なんて思う日もあるのに。
夢の中ではっきりとその声が聞こえる日もある。

お前は誰だ?
声が聞こえた。
僕は生きている。
ほんとうに?
僕が生きているとしたら、何がほんとうだろう?
フィクションの中の登場人物ではない証明など出来ない。
誰かにとっては僕はフィクションなのかもしれない。
うすい目に見えない透明な膜が張ってあって。
誰かが僕を指先でフリックするかもしれないよ。

遠い空を思う。
僕は肯定したいよ。
あなたを。僕自身を。
僕の中のほんとうが震える。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/
劇場窓口にて特別鑑賞券発売中
先着50名様サイン入りポストカード付

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。