見出し画像

消えることのない熱源

上映が終わったのに。
あまり何も変わらなくその日はやってくる。
虚脱感が襲ってくるのかと思えばそうでもなく。
恐らく少しギャップがあるのだろう。
数日後にどっとくるのだろうか。
なんとなくいつもの土曜日をいつものようにすごしていた。

Twitter(現X)をみたらFilmarksへの投稿のリンクがあった。
そういえば観ていなかったなと思って開いてみる。
SNSなどで感想を書いてくださった方以外の方の言葉がそこにあって、想像以上に高い評価を頂いていた。
映画に採点するということ自体になんとなく僕は違和感があるから普段からあまり見ないようにしている。
その上で採点を付けるとすれば映画『演者』は簡単に否定しやすい作品だろうなという感覚があったりもした。
ツッコまれるだろうと思っている箇所を自覚している、、、というか、意図的にそうしている部分がいくつかあるから。
ところが高い評価ばかりだったから感動した。
そして、どの感想も僕の心に響くものだった。

この手応えは何なのだろう。
あまり虚脱感を感じていないのもそれが原因なのだろうか。

上映が終わったというのにSNSに映画『演者』を薦めてくださるコメントがいくつか上がっていた。
薦めても観る機会がないのにだ。
それはもう熱意としか説明のしようがない。
それも、これまで応援し続けてくださった方ではなく、今回知ってくださった方もいらっしゃる。
毎日のようにそんな皆様に出会ってきた。
試写や映画祭、先行上映のときにはこの手応えの感覚がなかった。
そこでも褒めてもらえたのだけれど拡がるという感覚を感じなかったのかもしれない。
誰かの心に触れることができたとは確かに感じたのだけれど。
今、感じているのは、誰かの熱意が周囲に届いているという不思議な感覚だ。
口コミ、噂、なんとなく気になる、そういう方がざわざわと増えていると感じている。

実に厄介なことにそれは感じることしか出来ない。
目に見える記事になったとか、そういうことじゃないからだ。
ただ着実になんか面白いみたいだぞという噂がまわっていると僕が感じているということだ。
僕自身もそうだからかもしれない。
面白い作品あるかなぁとアンテナを貼ってる。いつも。
そのアンテナにどういうわけか情報が届いてくる。
そこからいくつかの「でもなぁ」を乗り越えると足を運ばざるを得なくなる。
僕のそのアンテナが何かを感じているとしか説明が出来ない。
目に見えるものではない熱源という根拠。

さすがユーロスペースはいい作品をみつけるねぇってロビーで言ってくれた方がいて、あ、これなんかちょっとすごいって思ったりした。
映画館についているお客様もいらっしゃるわけだけれど、その方々のネットワークに少し触れているのかもしれないと感じたからだ。
実際、僕もユーロスペースが選ぶ映画はかなり信頼しているから嬉しかった。
それは僕のアンテナと近いアンテナなのかもしれない。
映画館にはそれぞれ常連のお客様がいて、それぞれのネットワークがある。
映画館のロビーで顔なじみになって、最近面白いのありました?なんて会話をしている方々が普通に存在している。

それと役者を経験されていた方々の評判がすこぶる良い。
演者というタイトルで演者だった人が楽しんでくれるというのはすごく勇気をもらえることだ。

このまま上映が続いていたら、さらに噂が噂を呼んで口コミが拡がっていったんじゃないだろうかとドキドキしてくる。
内側に向かっていない外側に向かっているこの感覚はそんなことまで考えさせる。
実際にはそういう作品は数年に一本しかないのだけれど。

映画「セブンガールズ」の時を思い出す。胃の痛かった日々。
多くの映画好きな皆様に足を運んでいただいた。
そして、少しでも話題になるようなことをたくさん企画した。
SNSの更新も毎日写真を撮影してレポートをつくってと続けていた。
あの頃も拡がると感じた瞬間はあったのだけれど、同時にここから先は難しいという大きな壁も感じていた。
それは映画好きな皆様の一部は避けているなと感じたことだ。
女優が衣装を着てイベントをする。そのイベントを楽しんでもらう。
そのこと自体は素晴らしかったし成功したと思っているのだけれど。
それも含めて楽しんでくださった映画好きな皆様もいらっしゃったけれど。
同時にそういう感じはと、避けていく映画ファンが確実に存在していた。
お客様の年代や性別に偏りが生まれ始めた。
そこまでわかっていながら、それでも盛り上げようと僕は企画し続けた。
それは今も正しかったと思っている。

そういう壁をこの渋谷の上映で感じなかった。
古くからの映画ファンの皆様や、インディーズなど好きな方、ミニシアターという場所が好きな方、たまたま予告やチラシで知ってくれた方。
いつも応援してくださっているお客様だけではなくそんな皆様が毎日のように足を運んでくださって声をかけてくれたという実感がある。
そしてあの頃多かった「頑張ってね」という声はあまり聞かなかった。
インディーズの映画ではお客様が「頑張ってね」とか「頑張ってください」なんて声をかける場面をよく見かけるのだけれど、それがあまりなかった。
まぁ、頑張るんだけれど。

この手応えはそれでもまだまだ大きい壁の前にある。
映画好きな皆様が好印象を持ったその先に。
そこを突き抜けて映画ファンではない皆様が気になってくるという段階。
恐らくそれはざわつきがピークになって記事が出たりした時に起きる。
そこまで上映が続いていたら起きただろうか?なんて考える。

現時点で上映予定がないのに。
未だにミラクルを信じている僕が存在していることに戸惑う。

映画「演者」の最終日。
映画「セブンガールズ」でも「破壊の日」でもお世話になった、横浜シネマ・ジャック&ベティが閉館危機でクラウドファンディングを始めた。
その日はかつてユーロスペースが存在していた渋谷の桜ケ丘に新しい商業ビルが開いた日でもあった。なんという皮肉だろう。あんなものが街を覆いつくしていくだなんて。道玄坂再開発なんて噂もあがってる。
僕に出来ることはほんとうならヒット作品を映画館に届けることだ。
別府ブルーバード劇場の名物館長がカメ止めで満員になったことが嬉しかったんだとおっしゃっていた。
全国のミニシアターは厳しい状況にあるけれど、欲しいものはヒット作品なのだ。多くのお客様で溢れかえることなのだ。
ああ、悔しいなぁ。そういう作品を全国に届けたいなぁ。

両手をじっと見る。
そこには何も残っていない。
これからどうするか?
そう思いながら。
やはり確実のその手には手応えだけが残っている。
その熱が今も消えない。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【次回上映館】
未定

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映◆
・2023年11月18日(土)~24日(金)
ユーロスペース(東京・渋谷)

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。