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生きて、いたくても(長編/完結)

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昔書いたもの。多少の手直しにとどめ、当時の書きたかったものを重視して、ストーリーなどには一切手をつけないつもり。
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記事一覧

生きて、いたくても――Prologue#1

 不幸と幸福は必ずしも対義語ではなくて、ただ不幸のないと言うだけの時間をも、僕は幸福と呼…

Neb-u1a
6年前
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生きて、いたくても――Sep#2

   屋上へと続く扉には南京錠が掛かっているけれど、それを開けるのには、何も番に作られた…

Neb-u1a
6年前
2

生きて、いたくても――Sep#3

   僕が振り向くと、一人の小柄な女子生徒が居た。僕だって高身長ではないけれど、その僕よ…

Neb-u1a
6年前
2

生きて、いたくても――Sep#4

 そもそも三日後、何故偶見は屋上に来るのだろう。その疑問は後になって浮かんだものだけれど…

Neb-u1a
6年前
3

生きて、いたくても――Sep#5

 絵具のついた筆を浸けた水が作る模様みたいに、景色がゆらりと揺れている。見慣れない天井。…

Neb-u1a
5年前
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生きて、いたくても――Sep#6

 正確には言えないけど、と前置きをして、彼女は話し出した。子供の頃から能力は発現していて…

Neb-u1a
5年前
3

生きて、いたくても――Sep#7

 我ながら情けないのだけれど、よかれ悪かれ僕の人生は、主体も主張もない僕が主役とは言いがたくて、そして主役の居ないと言う部分だけが滑稽な、退屈を極めた喜劇だ。自分で舟を漕がない、流れに任せただけの航路。現下、なる様にはなっているし、僕もそれに合わせて舵を取るくらいはして来た。故に、見られて困る様な事はあまりないと思う。逆に平坦だからこ そ、悪目立ちする記憶が掘り返される可能性もあったけれど。  小学校時代、中学校時代と、僕の海図には殆ど何の発見も書き込まれていない。それ以前の

生きて、いたくても――Sep#8

 中学校二年生の時、僕は家に帰る途中で捨て犬を見つける。  七月も半ばの頃で、その日は前…

Neb-u1a
5年前
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生きて、いたくても――Oct#9

 あれから偶見は不定期に、見た未来を教えてくれた。 「それまであった未来は見た瞬間に失わ…

Neb-u1a
5年前
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生きて、いたくても――Oct#10

「当たったんだよね。図録」  個人的な内容だけどさ、と前置きして、偶見は今回の「未来視」…

Neb-u1a
5年前
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生きて、いたくても――Oct#11

 屋上、と言うよりはその扉の前で僕たちは合流し、美術室に向かった。  本館と特別棟は一階…

Neb-u1a
5年前
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生きて、いたくても――Oct#12

 日の内に一度として屋上に行かないのは、初めてだった。  彼女が来るのは昼休みに限られて…

Neb-u1a
5年前
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生きて、いたくても――Oct#13

 ここから見える空は、手が届かない方が不思議だった。  いつだって僕の為にあって、いつだ…

Neb-u1a
5年前
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生きて、いたくても――Oct#14

 喫茶店は、多くの緑に囲まれた場所にある瀟洒な建物だった。やや古めかしい感じが雰囲気を盛り立てている。いかにも、と言う外観だった。いつの間にか冷え込んで来たこの秋の空気に、凛と立って見える。  今日が二八日だから、文化祭はまでもう一週間もない。授業を終えた僕たちは、予定通り三上に連れられて、学校から一五分程歩いた所にあるその店へと向かっていた。三上の家とは近所らしく、また喫茶店のマスターが趣味で絵を描いており、月替わりで五、六点を壁に飾っていて、それでよく通うのだと言う。 「