見出し画像

『足立美術館』の庭園は突然変異ではない。層の厚い出雲の庭園を旅行で巡る魅力〜山陰中央新報の特集記事に寄せて〜

山陰中央新報デジタルの特集記事《名園、なぜ島根に多い? 「日本庭園ランキング」上位常連を訪ねてみた》にコメントを寄せました

毎年恒例の、海外の庭園専門誌による「日本庭園ランキング」
『足立美術館』が19年に渡り連続1位を記録——という点でもお馴染みのランキングですが、島根県には足立美術館以外にも毎年ランクインする庭園が多い。

そのことに関する山陰中央新報デジタルの特集記事《名園、なぜ島根に多い? 「日本庭園ランキング」上位常連を訪ねてみた》にコメントを寄せさせていただきました。ぜひご覧ください。

…で、寄せましたよという報告だけのつもりだったけど、元々2020年11月に松江〜出雲で庭園をブワーっと巡った時に「個別の庭園紹介だけじゃなくて総括する記事を書きたいなあ」と思っていたことを思い出して。
思いつきだけどブワーっと書いてみます。

個別の紹介記事を読みたい方は「出雲流庭園の一覧」をご覧ください!

日本一の庭園『足立美術館』は突然変異で生まれたわけじゃない。

「日本庭園っていいな」と興味を持って序盤に知る庭園って、だいたい日本三名園、京都や鎌倉・奈良の庭園、そして『足立美術館』だと思います。(もちろん「地元の庭園」という例もあると思うけど)

足立美術館のことを知った時、「なんで島根県?安来市って??」と思う方ってきっと多いはず。自分も「安来市」の存在は足立美術館で知った(ゲゲゲの女房ではなく)。

『足立美術館』の公式サイトでは同地方の別の庭園が紹介されていないので、ピンポイントで足立美術館だけ巡る旅行者もけっこう居ると思うんですよね(自分も初めの2度はそうだった)。たぶん出雲大社→松江城→足立美術館というパターンとか。

そんな風に単体で見ると、『足立美術館庭園』は突然変異で現れたような存在に見える——んだけど、決してそうではなくて。

自分も紹介する時に、昭和〜平成を代表する作庭家・中根金作や京都の庭師・小島佐一の名前をピックアップすることが多いけど(クリエイターの名前はわかりやすいので)、決して彼らが一般的な知名度まであるかと言うとそうではなく——

そもそも、お金持ちになって出来ることに色々幅がある中で、“大規模な日本庭園を作り、美しいまま維持する”という選択をされたのは、その地域の文化・土壌によるものも大きい——

足立美術館の創設者・足立全康が若い頃に出入りしていた?という庭園も紹介しているけれど、↓

そんな風に『江戸時代以前から続く“出雲地方の庭園文化”の上に、足立美術館がある』ということ。

島根の庭園、3つの潮流。

これはちょっとだけ記事の中でもふれたけど——

①室町時代、雪舟が作庭した庭園。

これは国で言うと出雲国ではなく石見国ではあるけど…益田市・医光寺庭園、萬福寺庭園、江津市・小川家雪舟庭園など。

②江戸時代以降、松江藩主・松平不昧が広めた茶の湯の文化に紐づく庭園

松江市・菅田庵、出雲市・康国寺、奥出雲町・櫻井氏庭園〜そしてその流れを近代に発展させた糸原氏庭園、八雲本陣の庭園など。

③昭和年代以降の、出雲流庭園と現代の京都・東京の作庭家が掛け合わさった庭園

先述の足立美術館のほか、重森三玲の子・重森完途による松江市・島根県庁庭園や、伊藤邦衛による雲南市・石照庭園など。

島根の庭園の面白いところ:自社運営の庭園の多さ。ホテル・旅館の庭師の自社雇用。

そして島根の庭園が面白いなと思うことは、その造形だけじゃなくてこの2つもそう。

①《造園家が自分で作庭した庭園を公開、経営している》ケースが多い。

ウェブで言うと「オウンドメディアを持ってる企業が多い地域」みたいな。足立美術館…は美術館のコレクションも強いからちょっと違うかもだけど、『由志園』『石照庭園』はこのケースに当たる。

②ホテル・旅館が庭師を自社雇用している。

足立美術館が庭師を数名専属雇用しているのは有名?ですが、今回の記事でも紹介された『湯之助の宿 長楽園』も自社で複数名の庭師を雇用されている。

もちろん、その分(その枠の雇用を維持すること)の苦労や、うまくいかないこともあると思うけど、「そこまでして庭園を綺麗に保つ」ことへの理解が企業にもある。これが出雲の庭園文化か…!と。

『原鹿の旧豪農屋敷』が素晴らしい話

自分が前回島根の庭園をめぐった時に衝撃を受けたのは『原鹿の旧豪農屋敷』。ここを推した部分はカットされていたので自分で紹介(笑)
元々の紹介はこちら↓

造形的な素晴らしさはもちろんなんだけど——「庭園」って施設名についてない、アクセスも良くないので2020年の年間来場者は4,000人強、決して庭園メインじゃないのにこんな素晴らしい庭園があり、砂紋も含め庭園が綺麗に保たれている——それはもうやっぱ“庭園が文化として根付いてる”からなんだよなあ、きっと…。

他にも出雲平野はチャリや原チャリでノロノロ走ってると、「このお宅の前庭もめちゃめちゃ立派だな」「めちゃめちゃ本格的だな」というお宅が多い。現役の個人邸は紹介できないけれど。

日本各地の日本庭園の存在や素晴らしさが再評価されるきっかけに。

そんな素晴らしい庭園文化も、やはり立地的なところ(発信者が集積してる東京から遠い)もあってなかなかスポットライトが当たる機会は少ない——いや、この日本庭園ランキングでランクインしてるだけスポットライトは当たってるけど、“出雲の庭園文化”まで深堀する特集がキー局で組まれることは現実的にまあ無いじゃん?

新潟の豪農の庭園も京都なら何十億と価値がつきそうなクオリティなもんだけど、なかなかそんな風に紹介されることはない。
まあそんな素晴らしい庭園が入場料500円〜1000円で見られるので見られるのでありがたさしかないのだけどーー

「京都ではない」ことのハードルは本当に大きい。先日紹介した吹田市の『旧西尾氏庭園』も京都の一流文化財施設とほぼ同じクリエイターが関わっているのに、大阪北部地震前で年間4,500人。

後日紹介するけど、“日本最古の庭園”とよく紹介される『城之越遺跡』は年間来園者が数百人台とか…。桁足りてなくね…?って思うじゃないですか。いえ、本当に。伊賀市の統計資料では2019年も600人と明記。

そんな状況では今後の人口減少の中で「後世に残したい!」と主張することも難しいのだけど——維持が不可能になる前に、多くの方々に見ていただきたい、そのために当サイトでは《注目されなくても、美術として素晴らしい庭園》——を多く紹介できたらいいなあと思うばかりです。

おまけ:萩(長州)の庭園と出雲流庭園の関係性。

最後に。出雲流庭園の素晴らしさを語ったところで、2021年めちゃくちゃ気になったのは《出雲流庭園っぽい庭園が山口県萩市に多い》《そして萩から山口に政庁が移った影響か?近代以降の山口市の庭園もその流れを汲んでいる》ということ。

出雲の庭園が“映える”のと同じように、萩の『菊屋家住宅』の庭園とか、山口市の『十朋亭維新館』とか…あと鬱蒼として観光客は見なさそうな『露山堂』の庭園も“好まれそうだな”と思うんだよな〜。

どうかな?たくさん紹介した島根や山口の庭園、行きたくなりましたかね?

「海外日本庭園専門誌」からは高評価の出雲流庭園も、ビジネスとして収支を考えたら単体で書籍になるのは難しい。
だからこんな風に気軽にふれてもらえる、ネットで発信することに意義がある。いやそれは「出雲流庭園だから」ではなく、(京都以外の)日本庭園全体でそうあるべきだと思っている。

『足立美術館』を起点に、山陰・中国地方の庭園カルチャーが広く注目されることを期待して!

(*2021年の「日本庭園いいねランキング」の記事は次回こそ…GW前には公開したい…)

[おにわさんーお庭をゆるく愛でる庭園情報メディア]( https://oniwa.garden/ )の中の人が、庭園について思うことなどを綴ります。 サイトでは日本全国約1400の庭園と2万枚以上の庭園写真を掲載!