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「上カルビ」と「下カルビ」の違いとは

社会人一年目の盆休み。
友人と二人で焼肉屋に行った。
大学生のころから毎月通っていたなじみの店だ。


盆休みだからか、いつも以上に混雑していた。
店員はタオルで汗を拭きながら忙しそうに働いている。


席につき、肉を注文する。
普段なら「カルビ」を頼むが、社会人になった僕たちは懐に余裕があった。


「おぃ、ひとつ“上カルビ”というのを頼んでみようぜ」
「いいな、たらふく食べてやろう」


アルバイトらしい新顔の店員に声をかけ、上カルビ六人前、ビール、白ごはんを注文した。


「少々お待ちくださいッス」



変な敬語を使うアルバイトは、威勢よく厨房に向かっていった。


しばらくすると、すっかり顔なじみのおばちゃん・・・・・・・・・・が、肉を運んできた。



「お待たせ!」

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上カルビは、見た目からして違った。
点在する白い脂肪分と赤身のグラデーションが美しい。
上カルビが焼けると、慎重に箸でつまみ、口中に含んだ。


「うめぇ~!やっぱ上カルビは違うぜ」


二人で感動し、夢中になる。
左手にごはん茶碗を持ったまま、右手の箸を動かし続けた。


食べ進めていると、おばちゃんがやってきた。
そして、恐ろしい一言を告げた。


「ごめんよ。さっき出した肉、上カルビではなかったの。ただのカルビ・・・・・


と、おっしゃっる。


「え・・・・・・?」
「は・・・・・・?」


おばちゃんが言うには、今日は格別に忙しく、人手も少なかったらしい。
いつもカルビばかり注文する私が、上カルビを頼むとは思わず、普段どおりカルビを出してしまった、ということだった。


「た、たしかにあんまり違いを感じなかったかな」
「そ、そうそう。俺なんか『これなら普通のカルビで十分じゃん』なんて思ってた」


引きつった顔でなんとか答える。
当時、食事は質より量を重視していた。
肉質の違いに気づくほど舌が肥えていなかったのだ。


「いや、なんかおかしいと思ってたんだ。ただ、『これって普通のカルビと同じじゃん』なんて言ったらしらけるかと」
「俺も俺も!味も柔らかさも変わらねーもん」


すると、新顔のアルバイトが慌ててやってきた。


「違うッス。注文をとった僕が間違いに気が付いて、大将に上カルビを準備し直すようお願いしたッス。だから、おかみさんが運び、お二人に食べてもらった肉は上カルビッスよ」

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