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【ファンタジー】ケンとメリーの不思議な絆#50 (最終話)

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第八章 未来への希望


ふたりの未来

「そ、そんな。お願いだなんて。こちらからお願いをしなければいけないくらいです。こんなにもてなしを受けるとは思ってもいませんでした。とても嬉しいです。本当に来てよかったと思っています。素敵なご家族に出会えてとっても嬉しいです。では、こちらからお願いします。一晩お世話になります」

 ケンが樽から注いだ白ワインを入れたデキャンタを持って戻って来た。すでに準備されているワイングラスに順に注いで四人分のグラスに綺麗なワインが注がれた。ケンは意識することなくゲストのメリーのグラスに自分のグラスを当てた。両親はグラスをちょっと掲げる仕草をしてグラスを口に運んだ。

 メリーはキヨシとの縁を創ってくれたケンのことを思い出して口には出さず、心の中で思い自分に呟いた。

『そういえば、あの時ケンがここにきた時も白ワインをグラスに注いであげたわね。今はそれを息子のケンが初めて会ったお嬢さんに対して私と同じことをしている。ふふ、運命って不思議ね。きっと、今回のことは妖精さんの力もあったんだろうけど、最初のケンとの出会いは本当に偶然だったわ。そしてそれからみんなの未来が変わり、今息子のケンはメリーに出逢っている。こうして人の時代は受け継がれていくのね。お父さん、お母さん、このワイン工場を残してくれてありがとう。色々あったけど、もう大丈夫よ。そして、ケン、私に出逢ってくれて本当にありがとう』

 今日の新しいゲストであるメリーがグラスを口に運んだ時、フワッと白い蝶のような妖精が一瞬姿を現し母親のメリーに合図するかのように、消えていった。母親のメリーも妖精に目で合図して、心の中で呟いた。

『妖精さんありがとう。これからは息子たちをお願いね』

 ケンはメリーとそれぞれの生い立ちなどの話で盛り上がっている。キヨシとメリー夫婦は、さりげなく若い二人を残して星空を見にワイングラスを片手に何も言わずに立ち上がり星空の綺麗な外へと向かった。

「この後は、ケンに任せましょう」

 メリーはキヨシの耳元でそう囁き、キヨシの手を取ってワイングラスとともにその場を離れていった。ケンも特に気にするようなこともなくいつも仲がいい両親に目で合図して、また楽しい会話に戻っていった。どうやら新しいお似合いのケンとメリーというカップルが偶然なのか必然なのか導きなのかはわからないが誕生した。

 キヨシは星空の下に向かう途中、メリーに話しかけていた。

「いろんなことがあったけど、メリー、君に出逢えて本当によかった。もしかしたら君はケンと結ばれる運命だったのに何かの間違いで僕と一緒になったのかもしれないって時々思ったりしていたんだ。今日の子供達の出逢いを目の前で見てまたそう思ってしまったよ」

「バカね。ケンとは数日しか会っていないのよ。あなたとはもう何十年になると思っているの。私が愛しているのはキヨシだけよ。もちろん、ケンにはとっても感謝しているけど。こうしてキヨシと出会ってワイン工場も継続できたんだから。それにケンというやさしい子供も授かったわ」

「ありがとう、メリー。そう言ってくれるだけで僕の人生は間違いじゃなかったって思えるよ。愛しているよメリー」

「私も愛してるわ、キヨシ」

 メリーとキヨシはワインが半分くらいなくなっているグラスを合わせて、これからもよろしくと言うような目で見つめあいそっとキスをした。その時、メリーは心の中で、ケンに謝った。

『本当はあなたを愛し始めていたの。でもキヨシにはそのことを絶対に言えないわ。ごめんなさい、ケン』

 もちろんキヨシはそんなことは全く気づくことなく、優しいキスを交わした後、まだグラスに残っているワインを口に運んでいた。それでも、幸せな夫婦であることには間違いない。今頃は、ケンも天国で転生の準備をしているころだろう。もしかしたら、次の時代でまた偶然の出会いが待ち受けているのかもしれない。その時にはワインの精たちもきっと手助けしてくれるだろう。ひょっとすると若い二人の子供として転生してきて新しい人生を歩むことになる可能性だってあるのだから。

 ワイン工場の名称が、「ケンとメリーのワイン工場」となるのもそう遠くないかもしれないとキヨシとメリーは感じていた。二人は空になったワイングラスを持ち、お互いの顔を見て「今日は縁を感じた特別な日だからもう一杯飲もうか」と言わんばかりに二人はワイン樽に向かって手を繋ぎ歩き始めた。その背中は幸せに満ち溢れている。樽の後ろから、ワインの精たちも嬉しそうに二人を見つめて微笑みかけていた。


連載を終えて
 長い間、お付き合いいただきありがとうございました。当初の予定より少し長くなってしまい、年を越してしまいました。最後のお話は若い二人の未来とキヨシとメリーの未来へ向けたお話なので、年を跨いだ話として良かったのかなとも思ったりしています。

 最後のお話を除き、一回の話を1000文字程度のサクッと読める内容として連載しました。まるで連続したショートショートのように感じていただけたら幸いです。お楽しみいただけましたでしょうか?

 ケンとメリーのスカイラインは私自身の若い頃の憧れの車でもありました。そんな思いを散りばめながらファンタジー小説として連載ものに挑戦してみた小説でした。全体としては4万文字を超える中編小説程度の長さです。

 皆さんにとって今年が良き一年となりますようお祈りして、連載を終わらせていただきます。最後までお付き合いくださりありがとうございました。


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