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【照葉の小説】ショートショート集

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照葉のショートショート集 : 各種企画への応募作品を含むショートショートを集めたもの (ショートショートnote、掌編、ショートショートなど、4000文字以下の小説集) http… もっと読む
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小説のマガジンへの入り口

 現在、創作した小説は以下の四つのマガジンに分散して整理しています。  今後、それぞれのマガジンの役割は以下になります。 照葉の小説の断片マガジン もともとは、ここに全ての小説を集めていました。これからは、完結していない小説だったり、連載小説の時の分割した話を格納するマガジンとして運用します。つまり、小説のパーツの集まりのためのマガジンみたいな場所になります。 【照葉の小説】短編以上の小説集マガジン 独自のルールを適用して短編以上(4000字以上)の小説を格納するマガジ

【SS】 消えた春の夢 #シロクマ文芸部

 春の夢を失ってしまった。良人の春の夢は儚く消え去ってしまったのだ。とても心地よく感じていたはずなのに、それすらも思い出せないでいる。それからというもの良人は夢というものを見ることがなくなった。いや、もしかすると見ているのかも知れない。何となく目が覚める前に全てが消え去る感覚に襲われているようだ。誰かが夢の中に入り込んできている気もしているのだが、夢は綺麗さっぱり消え去ってしまうので自分ではわからない気持ち悪さが残っていた。  良人は、モヤモヤした気持ちの毎日を過ごしてはい

【SS】山奥の春 #毎週ショートショートnote

お題:雪解けアルペジオ/タイトル:山奥の春|  厳しい冬も過ぎ去り暖かい日差しが心地いい。ここは山奥の清流が湧き出ているところだ。人が訪れることはほとんどない。春の日差しを感じ取った森の動物たちがやってきて喉の渇きを潤している。人工物もなければ人工音もない。澄み切った空気の中で、自然のリズムだけが奏でられている。自然が作り出した音楽がそこにはあった。  安心しきった動物たちは、自然の音楽に身を委ねている。冬のなごりを残す雪を避けながら、大地から芽吹き始めている新しい命を喰

【SS】春という文字 #毎週ショートショートnote

お題:春ギター/タイトル:春という文字| 「春」という文字を伸ばしてみるとギターの形になるという。 言われてみればそうかもしれないと思った。3本の「横棒」はギターのネックで弦を抑えるためのフレットのようにも見える。ギターのネックの上に行儀よく並んで指で押さえた時に弦をピンと張り綺麗な音を出す役目を持っているアレだ。そうすると「日」という文字がボディでサウンドホール部分を指すのだろう。日の丸をイメージすると想像しやすい。なんとなく全体像がイメージできた気がする。 残るは、両

【SS】 桜色の龍 #シロクマ文芸部

 花吹雪は美しく風情があるが、目の前で繰り広げられている光景はそうではない。美しく淡い桜の花びらが、一枚二枚と風に舞い始めたかと思っていたら、竜巻のように周りの花びらを吸収し、大きな渦を作り上げた。ほんの数秒で見る見るうちに花びらが吸い寄せられ、まるで大きな生き物のようになっている。もはや、花吹雪の域ではない。そのまま成長すればまるで天に昇る桜色の龍になりそうである。  じっと息を潜めて見ていると反対側では、なんと大量の小石が引力を無視したかのように地面から浮かび上がってい

【SS】雨と邪気 #毎週ショートショートnote

お題:オバケレインコート/タイトル:雨と邪気| 今年ももうすぐ鬱陶しい梅雨の季節がやってくる。この季節になると、海辺の村では不思議な雨対策をする人たちが増えてくる。 村には、梅雨の季節になると海の神様が怒り狂って邪気を持ってくるという言い伝えがあり、お祓いの意味を込めた雨対策なのだそうだ。 雨の日でも仕事はしなければならないので傘をさすわけにはいかない。そこで雨の日用のカッパが必需品になる。一様に物置にしまったカッパやレインコートを引っ張り出して、邪気を払うための魔除け

【SS】焙煎マイスター #毎週ショートショートnote

お題:深煎り入学式 & モカ入り卒業式/タイトル:焙煎マイスター|  今日は珈琲豆焙煎技術専門学校の深煎り入学式の日だ。新入生は、浅煎り課程、中煎り課程を卒業してきた猛者たちだ。皆自信を持って胸を張り入学式に臨んでいる。卒業できる人数は三割にも満たない難関課程だ。しかし、この課程を無事卒業すれば、焙煎マイスターの称号が与えられ、将来が約束される。全員が真剣そのものだ。  温湿度と秒単位で変化する珈琲豆の状態を見極め、極上の状態の深煎り状態を安定して作り出せなければ卒業はで

【SS】少子化対応 #毎週ショートショートnote

お題:深煎り入学式/タイトル:少子化対応|  入念に時間をかけて検討された入学式が開催されるようになってから、どれくらいの月日が経つのだろうか。我々が幼い頃は、両親が異常にバタバタして入学の準備をしていた記憶がある。私はまるで他人事のように入学式の準備に追われる母親を見ていたので、母親からは毎日のように怒られていた。 「そのお洋服は入学式用だから触っちゃダメ」 「その靴を履いて遊びに行ってはダメよ。汚れてる方を履いていきなさい」 「ランドセルで遊んじゃダメ。おもちゃ入れじ

【SS】 歴史検証 #シロクマ文芸部

 変わる時空の色は、まるでグラデーションのようだ。これまで何度となく時空間を往来したが、毎回異なる色に遭遇するのは不思議な感覚だった。どうやら、色の要素に時間も関係しているのではないだろうかと、一色青(イッシキセイ)は時空船の中で一人物思いに耽っていた。時空船とは時空間を移動できるタイムマシンであると同時に、異空間への移動の機能も備わっている船だ。  セイの仕事は「歴史の検証」である。文献に書かれている歴史が正しいかどうか、その時代まで遡って実際に確認してくることが役割だっ

【SS】鯉のぼり #毎週ショートショートnote

裏お題:錦鯉釣る雲/タイトル:鯉のぼり| 雷様の小さな息子がおねだりをしています。 「お父さん。僕も人間の男の子のように鯉のぼりが欲しいよ」 「そうか。よし、父さんに任せておけ」 雷様は何やら策を考えたようです。 おや、いい天気だったのが俄かに黒い雲で覆われてしまいました。その中に小さな白い雲が混じっています。雷様親子が乗っている雲のようです。雷様は激しい春雷を起こしました。雷様の乗った白い雲からは、まるで滝のような雨が降り始めました。雷様は背中の太鼓を大きくならす

【SS】脱出 #毎週ショートショートnote

お題:命乞いする蜘蛛/タイトル:脱出| 男が地獄の責めに喘いでいた時、天から一筋の金色に輝く蜘蛛の糸が男の目の前に垂れ下がってきた。 「この糸を登れば地獄から脱出できるに違いない」 男は、目の前の蜘蛛の糸を掴み、上へ上へと登り始めた。登っても登っても一向に出口が見えない。男は一休みすることにした。ふと、足元を振り返ると地獄から脱出しようとする者たちがウジャウジャと蜘蛛の糸を登っている。男は、このままだと糸が切れてまた地獄に落ちてしまうと思い大声で叫んだ。 「登ってくる

【SS】 希望 #シロクマ文芸部

 始まりは、目を開けて目覚めた時だった。ゆっくりと体を起こす。僕の目の中にはグリッドが見えるようになり、目の前で起きている全ての現象を瞬時にデジタル化して体全体の筋肉に指示を出すことができるようになっていた。高いところにある小さな窓の外で小鳥が飛んでいる様子がはっきりとわかる。同時にスローモーションのように周りの動きを確認することもできるようになっていた。  明らかに目が覚める前の自分とは異なっている。一体、僕の身に何が起きたのだろうか。記憶は一切蘇ってこない。しかし、何か

【SS】未来のために #毎週ショートショートnote

お題:桜回線/タイトル:未来のために| 「学校を卒業して友達とはお別れだけど、私たち二人の未来はこれからだね」 今年もまた桜回線が開通する季節がやってきた。桜の蕾が開き始めて桜吹雪となって散ってしまうまでの短い間だけ、使えるようになるインターネット回線だ。契約などはいらない。卒業というイベントの時期に、想いを伝えたいという若者向けに大手キャリアが密かに始めた無料サービスだった。 桜回線の特徴は、若い愛を育むために、回線に載せられたメッセージを五年間に渡って毎年再配信する

【SS】 春の器 #シロクマ文芸部

 桜色の食器が太陽の光を浴びて、可愛らしく輝いている。決して強く主張することのない控えめな色は逆に存在感を引き出しているかのようだ。同じ形の他色の器と並べられても、どこか上品さを纏った控えめな色合いが一線を画している。  そんな桜色の器が世の中に出てくる数年前、ある陶芸家の夫婦が陶器の世界にも新しい風を吹かせたいとアイデアを話し合っていた。 「ねぇ、春に合う可愛い食器を作りたいと思わない」 「えっ、春に合う食器?」 「そう、みんな洋服は季節ごとに着替えるでしょう。それ