見出し画像

11月24日 思い出横丁の日 【SS】喜怒哀楽

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 思い出横丁の日

東京都新宿区西新宿に事務局を置く新宿西口商店街振興組合が制定。

新宿西口の「思い出横丁」では、1999年(平成11年)11月24日に火災が発生した。記念日の日付はこの火災事故が起きた日にちなむ。

この火災事故の教訓を忘れず防災意識を高めるとともに、これまで支えてくれた常連のお客様への感謝と、さらに多くの人に「思い出横丁」の魅力を知ってもらうことが目的。記念日は2019年(平成31年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次

【SS】喜怒哀楽

 終戦直後、人々は食べることすらままならない時期を乗り越え、戦火で廃墟となった地の復興を成し遂げ、力強く生き抜いてきた。露天が並ぶ闇市で飢えをしのぎ、命を繋ぎ、次の世代へとバトンを渡し、現代の平和な日本が実現したのだ。現代に生きている我々にとっては、未経験の時代であり、その壮絶さは想像すらできないが、その時の力強く生き抜いてきたというパワーを感じる場所は、あちこちに今も点在している。それが、駅のそばに肩を寄せ合うように密集している横丁と呼ばれる存在だ。木造の店が多いこともあり、時折、火事に見舞われるが、その度に力強く息を吹き返す存在。人々の喜怒哀楽を凝縮した街、それが横丁なのだろう。嬉しさを友と分かち合うために酒を酌み交わす街、上司とうまくいかず、その怒りを酒にぶつける街、恋人と別れ、ひとり寂しさを酒で紛らわせる街、息の合う仲間と楽しく語らう街、素朴な味を求めて老若男女が集う街、そんな横丁は大抵、駅の近くに存在している。昭和の空気感を漂わせてくれる場所である。今夜の横丁を少し覗いてみよう。

ー 喜 ー
 郊外にやっと夢のマイホームを買った中年サラリーマンが、後輩と共に横丁のおでん屋に現れた。喜びを後輩と共に祝っているようだ。

「山本先輩、おめでとうございます。遂に念願のマイホームですね。いやぁ、よかった。僕も嬉しいです」

「いや、お恥ずかしい。やっと買えたよ。場所は町田だからちょっと遠いけど、小田急のロマンスカーで帰れるから、ちょっと嬉しいかな」

「僕も、山本先輩を見習ってマイホーム目指します」

「おう、がんばれ。その前にお前の場合は嫁さん探しだな」

「はは、そうなんですよね」

「親父さん、大根とちくわとこんにゃくを二人分お願いします。それと、熱燗ください」

「あいよ。お客さん、家を買ったのかい。すごいねぇ。俺たちはこの小さな店が家みたいなもんだけどよ。ますます、頑張らないといけないねぇ」

「そうですね。まだまだ元気に、仕事もして酒も飲んでがんばりまーす」

ー 怒 ー
 どうやら仕事で失敗したらしいサラリーマンが焼き鳥屋に現れた。二人とも、異様に怒っている。一体何があったのだろうか。

「あの課長、本当に頭にくると思わないか」

「思う、思う。営業がうまく行った時は、さも自分の手柄のように部長に報告するし、失敗した時なんて酷いものだよな。別件で同行できなかった自分のせいですなんて報告だもんな。たまたま、部長に説明していた時、聞こえたんだよな。そんな課長の報告がさ」

「ひっでえな。俺たちが頑張ってるから課長づらしていられるのにな。報告から戻ってきたら、俺たちを呼びつけて、お前たちのせいで私の評価が下がるかもしれない、だって。知らねえよな、そんなこと。あったま来るよ。もう俺は異動願い出すぞ。親父さん、焼き鳥盛り合わせと焼酎のお湯わり、二人前、お願いしまーす」

「はいよ。二人とも頭から湯気が出てますよ。ここで美味い焼き鳥食べて美味い酒飲んで気分よく帰ってくださいな」

「あ、はーい。そうします。クダを巻けるのはここだけですから」

 二人はひとしきり上司の悪口で盛り上がり、ストレスを発散して帰った。

ー 哀 ー
 横丁に入ってくる客としては珍しく俯き加減の一人客がやってきた。しかも若い女性。ちょっと横丁には似つかわしくないが、どうも常連さんのようだ。

「女将さん、こんばんわー。悲しくなってついついきちゃいました。ビールをお願いしまーす」

「オヤ、今日はもう酔ってるのかい。何か嫌なことがあったんだね。ここで吐き出しておいき」

「はーい。今日はねホテルのレストランで彼氏と食事してたんですぅ。もう、五年くらいになるかな、付き合って」

「ああ、この前、一緒に来た素敵な男性だね」

「うーん。素敵かなぁ。まぁ、そう思っていたこともあったかも。でもねー、今日振られちゃった。それで、泣きながらここまで歩いてきたったわけなのよ」

「あらー、別れちゃったのかい。それは悲しいねぇ。でも、悲しさは人間を強くしてくれるよ。私みたいにね。今日一日悲しんで、明日からまた頑張んな」

「はーい。そう思って、女将さんの店に来ましたー」

 まるで人生相談のような会話をお客の女性は求めてやってきたのだった。これで悲しみから立ち直るのかもしれない。

ー 楽 ー
 色んな年代の人が集うのも横丁の特徴かもしれない。昭和の時代を逞しく生き抜いてきたと思えるような四人組がホルモン焼きの店に入ってきた。

「へい、いらっしゃーい。お、いつものメンバーお揃いですね。例の楽しみの前の腹ごしらえですか」

「大将には叶わないねぇ。わしら年金生活者のふた月に一度の楽しみだよ。今日は十五日だからね。いつもの楽しみの日だよ。だから、いつものホルモン焼き四人分と、ホッピーね、いつものように焼酎を少なめでよろしく。声が出なくなるといけないからね、ハハハ」

「へい、心得ていますよ」

 こうして平均年齢六十八歳の四人組グループは、ホルモンを食べて元気をつけ、そのあとはお楽しみのカラオケに向かうようだ。なんとも微笑ましい、地元の人たちの集まりだった。

 横丁には、こんなふうに色んな人が、色んなタイミングで思い思いに集まって来る。若い人からお年寄りまで全く拒む雰囲気がないのが、横丁のかもしだす空気感なのだろう。今夜もまた、色んな人間模様が見られることだろう。あなたも、思い出作りに、今夜あたり楽しい仲間と一緒に行ってみては?


🙇🏻‍♂️お知らせ
中編以上の小説執筆に注力するため、コメントへのリプライや皆様のnoteへの訪問活動を抑制しています。また、ショートショート以外の投稿も当面の間は抑制しています。申し訳ありません。


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SSマガジン

↓↓↓ 文書で一覧になっている目次はこちらです ↓↓↓

一日前の記念日SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #ショートストーリー #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説 #毎日ショートショート

よろしければサポートをお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。