12月23日 テレホンカードの日 【SS】長距離電話
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- テレホンカードの日
日本電信電話株式会社(NTT)が制定。
1982年(昭和57年)のこの日、日本電信電話公社(電電公社、現:NTT)により、東京・数寄屋橋公園に磁気テレホンカード対応の公衆電話の1号機が設置された。また、同月にテレホンカードが同社により発行・発売が開始された。
これを始まりとして、テレホンカード対応の公衆電話は首都圏から設置が進められ、全国に普及していった。
これより10年前の1972年(昭和47年)に、日本国内で百円硬貨の利用できる黄色の公衆電話機が設置され始めた。しかし、この黄色の公衆電話は、百円硬貨を使用した場合に釣り銭が返却されない構造であった。当初は釣り銭式電話機の開発も検討されたが、製造・運用コストがかかることから見送られた。
そこで、釣り銭の現金払い出しに代わる手段として、磁気媒体を利用するカード式公衆電話が開発・製造された。
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【SS】長距離電話
時代は昭和。まだ携帯電話は登場していない頃。遠く離れた恋人たちは、ポケットいっぱいに両替した百円玉を入れて公衆電話に向かっている。一人暮らしには電話を取り付ける余裕は無い。そのころは電話を引くためには十万円程度の債権を購入する必要があったのだから。結果として街の中に溢れるように設置されている電話ボックスに走り込む。そして恋する相手との長い話が百円玉の投入と共に始まるのである。
そんな時代に起きた革命があった。テレホンカードだ。それまでは両替した沢山の百円玉を抱えて電話ボックスに入っていたのが、テレホンカードという薄っぺらいプラスティックのプリペイドカードを購入することで話ができるようになったのだ。両替する必要がないのである。さらに、ほんの少しだけではあるが購入した料金分の通話時間が少しだけ多くなるのだ。長距離電話をかける人、頻繁に連絡をしなければならない会社員などがいち早くテレホンカードを使うようになっていった。
広く認知されるようになると、一儲けしようと思う輩も現れてくる。公衆電話ボックスを見張って長電話をしている人たちを尾行し、住まいを特定する作業を半年間繰り返している集団があった。その集団は調査した結果、二週間に一度程度どうやら長距離電話をかけていると思われる人たちのリストを作り上げた。その人数、約千人にも及んだ。十分に利益が見込めるということを確信したグループは、人と機材を揃え始めていた。テレホンカードの偽造集団である。プラスチックカード、磁気テープ、磁気書き込み装置、プログラマー、売り捌くための要員などが集まってきた。マンションの一室で偽造テレホンカードの製造設備を整えたのである。一枚は四千円で販売し、五千四百円分の通話が利用できるカードだ。長距離電話でかつ長電話をしている若者はこぞって購入するだろう。そこに目を付けたのだった。
偽造カードの販売担当者は、調査した対象者リストを元に巧みに誘い言葉を使って需要を掘り起こしていた。
「突然の訪問、申し訳ございません。佐々木あゆみさんのお宅でしょうか。実は、テレホンカード普及のキャンペーンを開始することになりまして、お伺いした次第です。これまでは百円玉を使って公衆電話をご利用いただいていたと思いますが、よりお得にご利用いただける仕組みが導入されました。つきましては、一枚あたり四千円で五千四百円分の通話が可能なテレホンカードを期間限定で、おひとり様十枚を限定として販売開始することになりました。つきましては、佐々木様にもご案内を致したく訪問した次第です。今回は予約だけなのでお支払いは生じません。もし、今後も長距離電話などの予定がおありであれば、お得なカードとなります。いかがでしょうか」
「えっ、そんなキャンペーンがあるのですか。NTTの社員さんですか」
「ありがとうございます。はい、NTTのある方からやってまいりました。ご安心ください」
「あ、わかりました。ぜひ、予約したいと思います。十枚お願いします」
「ありがとうございます。今回は特別なキャンペーンとなっておりますので、お友達とかお知り合いの方へはお話しないようにお願いいたします。キャンペーン終了後は通常料金での販売になってしまいますので、よろしくお願いします」
「わかりました。よろしくお願いします」
こうして、偽造グループは潜在需要を掘り起こし、予約だけでも八百人、カード枚数四千枚にまで達した。偽造グループは、ニヤリと笑いながら、予定通りとばかりに仕事を進めていった。
いよいよ予約も目処がついて、配布の準備を実施していた偽造グループは、偽造カードを整理しながら代金回収の順番を名簿上で確認していた。一段落したところで、近くの喫茶店でコーヒーでも飲むことにした。本来なら前祝いと行きたいところだったが、それは現金を回収してからのお楽しみということで、コーヒーで我慢することにしたのだ。近くの喫茶店に入ったグループは、一番奥の席に座り、小さな声で「やったな。大成功だ」と喜びあい、珈琲カップを掲げて喜んでいた。その時、近くの席にいる女性の声が聞こえてきたのである。
「ねぇ、ねぇ、知ってる。今内緒のキャンペーンが水面下で広がっているみたいよ。数に限度があるから公にはできないキャンペーンなんだって」
「えー、何のキャンペーン。私も知りたい」
「それがさ、今話題になりつつあるテレホンカードのキャンペーン価格での数量限定販売らしいの。四千円で五千四百円分の通話カードが買えるらしいのよ。凄くない」
「えー、私も欲しい。田舎の両親に電話する時、今はいつも着信者払いでお願いしてるからちょっと肩身が狭いのよね。もう働いているから何とかしたいわ」
「実家だったら、ちょっと話をしたら電話切ればいいのに」
「それがさ、そうはいかないのよ。ひぃ婆ちゃんまで元気だから、順番に電話に出るのよ。まぁ、年に数回しか電話しないんだけどね」
「ああ、いろいろ気を遣っているのね。だったらさ、あゆみに相談してみたら。あゆみは購入予約したみたいだから、少し分けてもらうとかさ」
「そうね。考えてみるわ。でも私は直接NTTに掛け合ってみるわ。だって、私働いてるし、NTTで」
この話を聞いた偽造グループは焦った。少しでも早く現金回収をしなければバレてしまうと考え直し、急いで回収名簿と偽造カードをメンバーに渡して予約者の訪問を開始しはじめた。同時にNTT社内でもキャンペーン問い合わせに対し、警察へと迅速に連携されていた。疑問を持った購入予定者は何人かいて、NTTに電話をかけて確認していたのだった。警察も迅速に動きだした。NTTに問い合わせを実施した人の家を中心に警察の張り込みが始まった。偽造グループは時間との戦いだとばかりに焦って回収を始めた。そして、見事に張り込みの警官に逮捕されてしまった。一人が逮捕されるとそのあとは早かった。製造現場もすぐに見つかってしまい、NTTの被害は最小限に食い止められた。
このあと偽造カードに対するチェックプログラムはより厳しく実施するように改善が加えられたということだ。悪事を働くとその報いは自分に返ってくるものですね。
了
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