見出し画像

12月4日 E・Tの日 【SS】宇宙人

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- E・Tの日

1982年(昭和57年)のこの日、アメリカのSF映画『E.T.』(イーティー)が日本で公開された。

監督・製作はスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)。約1000万ドルという予算で製作されたが、観客は1000万人を突破し、アメリカ国内だけでおよそ3億ドルという当時の映画史上、最大の興行収入を記録した。

全世界では1993年(平成5年)公開の『ジュラシック・パーク』、日本では1997年(平成9年)公開の『もののけ姫』に抜かれるまで、映画の配給収入の歴代1位であった。なお、「E.T.」は「Extra-Terrestrial」の略で「地球外生命体」のことである。


🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次

【SS】宇宙人

 最近、周りの人が何となく様子がおかしいと正太は思い始めていた。正太はコンピューター専門学校に通い始めた十九歳の男の子だ。違和感を感じ始めたのは、専門学校に入った直後だった。正太は、小学校の時から仲良くしている同級生の瑛人と高校生の時に、お互いにIT業界を目指そうかという話で盛り上がり、最短ルートを考えて、専門学校に進む道を選んだのだった。その二人が、学校に通い始めて数日が経過した頃、異変に気がついた。

「なぁ、瑛人。なんかさ、気がついたんだけど、俺らの周りの生徒ってちょっと変じゃないか」

「ああ、俺もそう思っていたよ。なんだか、みんな人差し指を合わせて挨拶してるよなぁ。もしかして、東京式の挨拶なのかな。俺ら神奈川だから分からないだけなのかなぁ」

「いや、そんなことはないだろ。ネットでも見たことないし。それに、なぜだか、みんな目がデカい上に、やけに手足が細いように感じるんだよな。そういえば、先生たちも変わってると思わないか」

「確かに、正太のいう通りだな。じっと生徒を見てると、みんな似たような顔に見えるな。顔色も悪いし。あっ、次の授業が始まるぞ、早く教室に行こう」

 二人は、周りの生徒を観察していたが、授業開始のチャイムを聞いて焦って教室に入って行った。授業は、アルゴリズムを理解するための授業だ。授業は、全てが専用タブレットを用いて行われている。今日の授業では、銀河系の惑星間旅行を十二月に実施する際、効率的に惑星間を移動する順番を決めるのが授業の材料として使われている。二人には、まるで分からない。天体の惑星の位置がどう交差しているかなんて考えたこともないし学習したこともない。しかし、周りの生徒はちょっと違った。二人の耳に聞こえてきた会話は信じられない内容だった。

「ねぇ、先週さ。木星に行ったじゃん。その時、最初に立ち寄ったのは、金星だったっけ」

「いや、土星だろう。次が木星じゃなかったっけ。お前さ、惑星旅行の時、寝てたんだろ」

「確かに、寝てた。だって、夏にも行ったしさ。飽きちゃってたからなぁ」

 正太と瑛太は、この会話を聞いて目を見開き絶句していた。惑星間旅行を経験しているということ自体があり得ないと思ったからだ。正太と瑛太は、神奈川で普通の高校に通って、バスケットボールの部活で汗を流していただけだったし、現在の文明では惑星間旅行ができる技術も確立していないはずだと思っていたからだ。しかし、周りの雰囲気はごく自然に会話をしているように感じていた。正太と瑛太は一緒に入学してからというもの、他の生徒と親しくしていないことも少し後悔し始めていた。二人は、顔を見合わせながらお互いにうなづきあった。そして、近くにいる他の生徒のところに行き、話しかけてみたのだった。

「あのー、君たちはどこ出身? 僕たち二人は神奈川出身なんだ。できれば仲良くしたいな」

 すると話しかけた男の生徒は、右手を伸ばして人差し指を突き出してきた。二人は対応に困ったが、なんとか相手に合わせようと、右手の人差し指を突き出してみた。すると、相手の生徒は不思議そうに首を傾げていた。しばらく沈黙の時間が流れた後、男子学生が話した。

「君たちって、もしかして地球人なのかな?」

「えっ、どういうこと。ここは地球なんだから、地球人ではあるけど。なぁ、瑛人」

「あ、あぁ。そうだよ」

「うわー、やっぱり地球人なんだ。どうやってやって来たの。我々の惑星に。すごいなぁ。もう、そんなに科学技術が進んだのかなぁ。名前はなんていうの」

「えっと、俺は正太でこっちが瑛人」

「ショウタとエイト。よろしく。僕は、C013895Aだよ。出身は冥王星」

「えっ、えっ、ちょっと待って。何言ってるか分からない。一体どういうこと」

「もしかして、入学試験を受けた時に窓のない部屋で受験したのかな、君たち」

「ああ、確かに。なんかタラップみたいな階段を登って、試験会場に行って、終了したら合格だからそのまま残ってくださいと言われたな。なぁ、瑛人」

「ああ、確かにそうだった。合格したら寮に入るということだったから、その準備をして受験したよな」

「あのさ。その時点で変だと思わなかったの。普通気づくでしょ。受験の時に着替えとか持って行くことなんてないでしょ」

「えっ、あっ、確かに。そう言われたらそうだ。でも俺たちは合格してそのまま寮に入ったんだと思った」

「うっわー、地球人ってバカなんだね」

「おい、さっきから聞いてれば完全に俺たちをバカにしてるよな」
「だって、そうとしか思えないよ。もしかして、今も地球にいると思ってるんじゃないの?」

「えっ、ここは地球だろ。日本だろ。新宿だろ」

「はぁ、先生。この二人何も知らないみたいですよ〜」

 男子生徒は思わず先生を呼んだ。正太と瑛太にこれ以上構うことができなくなっていたようだ。慌ててやってきた先生が呟いていた。

「君たちは、宇宙船に乗って、今は海王星にいるんだよ。その間の記憶はないかもしれないが、君たちは地球を離れてしまったんだよ。宇宙空間を移動している間は寝てたみたいだからね。分からなかったのも無理は無いかな。君たちは、海王星にある宇宙専門学校のIT専門科に入学したんだよ。ちゃんと誓約書にサインしただろう」

「サ、サイン。確かに。なんかの書類に名前を書いてしまったような気がするな」

 どうやら二人は、宇宙船に乗って海王星までやって来たようだった。将来の夢への近道をしたつもりだったが、とんでもないコースを選択したようだ。この後、二人は覚悟を決めて学習を継続し、卒業する頃には、人差し指を付き合わせて情報交換ができるようになっていた。果たしてこの二人に、地球に戻って来れる日が来るのだろうか。


🙇🏻‍♂️お知らせ
中編以上の小説執筆に注力するため、コメントへのリプライや皆様のnoteへの訪問活動を抑制しています。また、ショートショート以外の投稿も当面の間は抑制しています。申し訳ありません。


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SSマガジン

↓↓↓ 文書で一覧になっている目次はこちらです ↓↓↓

https://note.com/ongoing_teriha/n/n1ac65fa13362

一日前の記念日SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #ショートストーリー #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説 #毎日ショートショート

よろしければサポートをお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。