10月24日 世界開発情報の日 【SS】足並み
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 世界開発情報の日
1972年（昭和47年）の国連総会で制定。国際デーの一つ。英語表記は「World Development Information Day」。
1970年（昭和45年）のこの日、「第2次国連開発の10年のための国際開発戦略」が採択された。世界中で行われている開発に関する情報を集めて、地球全体の開発のバランスを考えることが目的。
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【SS】足並み
世界中の先進国は、密かに自国に有利になる開発を自国の外で実施していた。本来、地球全体の環境を考慮し、人類が他の生物と共存できる環境のための開発を優先させなければならない。しかし、表面上はどの国も地球の将来環境を最優先に考えると豪語しているにも関わらず、水面下では、自国の利益を優先した開発を止める事はなかった。先進国の首脳たちは、そのことを暗黙の了解とし、行き過ぎた利益追求にならない程度での開発を進め続けている。
開発には化石燃料の発掘も依然として含まれているし、雇用の創出を掲げてはいるものの汚水を吐き出す工場建設、先進国の産業廃棄物を処理する工場の建設なども含まれている。先進国が作り出したゴミの処理を自国以外に押し付けてしまう開発でもあった。
人は人を騙す生き物でもあるのだろう。そんな人にはなりたくないなと思っている若者は、地球のためになる開発に繋げたいと切に思っていた。しかし、まだまだ政治を動かすほどの力もないと自覚もしていた。そんなジレンマの中、いつか人は年老いて交代していくものだと思い、そんな時に、正しい情報が伝達できる仕組みを、若い人たちのネットワークの中に蓄積しておくことは、将来の地球のために必ず役にたつのではないかと思い立った若者が現れた。そんな若者は先進国を中心に何人も現れ始めた。日本でも自然災害や人的災害に見舞われた若者たちが、独自のネットワークを作り始めていた。
各国で独自に立ち上がり始めた若者のネットワークは、政府や大企業の動向をよそ目に、様々な開発の状況を監視する体制を構築しつつあった。そして、自然な成り行きで、同じ志を持つ様々な国の中のネットワーク同士が意識し合い繋がり始めた。まるで脳内のシナプスの様にお互いが刺激し合い連結し始めた瞬間だった。誰かがリーダーシップをとるわけでもなく、検証された情報だけが確実にそして着実に蓄積され、各国のネットワークの中にそれぞれクローン化されたデータベースが出来上がっていった。たとえ、どこかの国で活動が潰されたとしても情報を守るシステムを構築して行ったのである。そして十年が経過した。
「僕らが始めた活動も十年近く時が経ったな。データベースも膨大な情報を蓄えるまでに成長した。健全な開発もあるけど大半は一部の企業や国の利益優先で進められているものが多い様に感じる。我々の仲間のタンガが住んでいるアフリカの国では、乱開発と言ってもいいような開発ばかりで動物たちは住むところを追われると同時に、原住民も泣く泣く移動させられているらしいな。全世界で集めたこれらの情報を整理して世の中に公表する時期が来た様な気がするよ」
「そうだね。まずはいくつかの論文に仕立て上げて、科学的根拠も記述して公表しよう。各国一斉がいいと思うよ」
「それがいいな。そろそろ政治界へも我々の仲間が進出し始めているし、これからは本当に健全な開発を目指すための活動をしていきたいな」
「きっとさ。これだけ大きなネットワークもできて、膨大な開発に関する情報も集まっているんだから」
しかし、どこかで水漏れは起きるものである。正しいことをしようと思い立ち上がった若者たちではあったのだが、貧しい国の若者に対し金の力で情報を引き出そうとする動きが水面下で活発化してしまったのだ。ほんの少しだけの水漏れがダムの決壊につながるのにそれほど時間はかからなかった。特に途上国に住んでいたメンバーは有無を言わさず拘束されてしまったのだ。
先進国に住んでいるメンバーは、このままでは大きな力に潰されてしまうと危機感を感じた。これまでの活動が全てなかったものにされてしまうのではないかという恐怖感も襲ってきた。もう、論文を書いている時間などない。早急になんとかしなければ。メンバーたちは、すぐにでも今の地球に起こっている事実を公表しようと決断した。おそらく、公にした途端に情報が削除されることは容易に想像できる。メンバーたちは、強硬手段をとることにした。
メンバーの中には、ハッキングが得意なメンバーも多くいた。彼らのスキルを使って、世界中の公の機関である政府や行政、公共のホームページをハッキングし、これまで収集した事実の情報を紹介するページに書き換えた。それを日替わりで実行したのだ。ハッキングするホームページも毎日違う国や街を選択した。彼らの集めた開発情報は世界中を駆け巡ったのだ。もちろん、ＳＮＳ上でも日々投稿者を変更して掲載される様にした。削除されるより速く情報を公開する場を作り続けたのだった。数ヶ月経った頃、世界中で話題になり始めた。そうなれば、ネット上で晒された情報の収拾に躍起になっていた政府なども、弁明せざるを得なくなり始めた。
開発を率先していた大企業の中には、ブランドイメージを守るため、早々に撤退する企業も現れ始めた。しかし、それはリスクでもあった。撤退してしまうということは、それまでそこで働いていたその国の人々が職を失うことになるのだ。メンバーたちは焦った。
そんな時に、真面目に地球環境開発に取り組んでいる大手企業が名乗りをあげ始めた。不当に利益をあげていた会社から解雇された従業員たちを救済するための基金を作ってくれたのだ。これで、暴動も防止することができそうだ。メンバーたちは次の一手のために、基金を設立してくれた会社との協業を模索し始めている。
了
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