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10月18日 冷凍食品の日 【SS】新ビジネスモデル

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 冷凍食品の日

東京都中央区築地に事務局を置き、冷凍食品を通じて食文化の向上を図り、豊かな社会を形成する一般社団法人・日本冷凍食品協会が1986年(昭和61年)に制定。

日付は10月は食欲の秋であり、また「れいとう(10)」(冷凍)と読む語呂合わせから。18日は冷凍食品を保存するのに適した温度がマイナス18℃以下であることから。便利な冷凍食品を上手に使いこなして、より多くの人に食べてもらうことが目的。


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【SS】新ビジネスモデル

「オーナー、あなたの考えにはもうついて行けません。今日限りで店を辞めさせていただきます」

「おお、そうか。やめるなら勝手に辞めろ。シェフの代わりなんて掃いて捨てるほどいるさ」

 とある三つ星レストランのオーナーとシェフが対立していた。どうやら効率的に利益をあげたいオーナーと使う材料にこだわりたいシェフの間の隙間が埋まらなかったようだ。確かに、いい材料にこだわるのも理解はできるが度を越してしまうとビジネスとしては成り立たない。一方、利益ばかりを追求しすぎると提供する料理の品質が落ち、客足は目に見えて遠のいてしまい、これまたビジネスとして成り立たない。そんなことはオーナーもシェフもわかっていたのだが、売り言葉に買い言葉で遂に行き着くところまで行ってしまったのだった。

 これでシェフは出て行ってしまうのかと思ったら、日常茶飯事な言い争いだったようだ。この二人、幼馴染でお互いの性格を知り尽くしている。だから、遠慮することなく言い争いをしてしまうようだ。周りのスタッフは、どちらの味方にもつくことができず、いつもオロオロしながら見守るだけだった。だが、この言い争いをきっかけに、とんでもないアイデアが出てくるものだから、スタッフたちは心のどこかでは二人の言い争いを楽しんでもいる様だった。今回閃いたのはシェフの方だった。

「俺は、いいものを使った料理を作りたい。オーナーは社員のことを考え少しでも利益を増やしたい。しかし、お客様はどうだろうか? 極論すれば、金額よりも安心で美味しい極上の料理を食べたいと思う人と、逆に安心安全でできるだけ安く美味しいものを食べたいと思う人に分類できるのではないか? 富裕層や頑張って働いて自分にご褒美をあげたいと思う人、彼女にプロポーズする場所に使いたいと思う人などは、多少高くても、雰囲気と味を大切にすると思う。しかし、小さな子供がいる一般的な家庭なら、子連れでも安心して入れる美味しくて安い店がいいのでは無いだろうか。なぁ、オーナー、その両方を実現してみないか?」

「おいおい、そんな上手い話なんてあるのか。そんなことができるのならば、みんなやってるんじゃないか」

「ふっふっふ、閃いたんだよな」

 シェフが思いついたアイデアは、確かに面白いものだった。まず、富裕層が多く住んでいる街を探してスポンサーを探す。街の中心部で広大な土地を有している資産家にコンタクトしてその土地の一部を借り受けようというものだった。交渉役はオーナーの役割だ。富裕層の住む街の中心部に高級レストランとしてオープンするための土地を住民に提供してもらおうという計画だ。そうすることで住民に受け入れられやすいという狙いもある。どうせ税金対策などをしているはずだから、安く借りることができるだろうという下心もある。そして、その街の人たちが日常的に利用するようなレストランとしてオープンする。更に、レストランの後ろの方に小さな加工工場を作って冷凍食品を作る。材料を余らせない狙いもある。そして、もう一軒、普通の団地や家族向けマンションが林立する場所を見つけ、ファミレスに対抗できる価格で提供できるレストランをオープンする計画だ。そこで提供する料理は、富裕層向けのレストラン裏の工場で製造された冷凍食品を全て利用するという計画だ。フードロスにも貢献し、コストの無駄もなく、通常よりかなり安価なメニューとして提供できるという大それた計画だった。相反する顧客層を連携してビジネスにしてしまい、環境貢献も実現できるとなれば、話題性十分である。オーナーは、唸った。

「うーん。これは、新しいビジネスモデルになるかもしれないな。そのためには、最初の店の立地が重要だな。あとは、初期資金か。私のネットワークを駆使して見つけてやるぞ」

 こうして、新しい試みに向かって二人は動き出していた。シェフは、自分の料理で利用する野菜や魚介、肉類の仕入れ先を再検討し絞り込んでいた。生産者との直接契約にまで持ち込むことに成功した。以前よりは、二割コストダウンが期待できるめども立った。オーナーは、まず富裕層の街に目星を付け、その中でも一際大きな土地を有している家のチャイムを鳴らした。もちろん、唐突に訪問しても会ってはもらえないので、銀行経由や会計士経由で事前に情報を流してもらっていた。その辺は抜かりない。

「初めまして。私は六本木で三ツ星レストランを経営しています。今回は、こちらの街で、舌の肥えた住民の方々のためだけに料理を提供する場所を作れないかと思い相談に参った次第です」

「大体の話はすでに聞いていますわ。要点だけ話してくれますか」

「はい。こちらの土地の一部を貸していただき、私どものレストランをオープンさせたいのです。もちろん、街並みに調和した佇まいの店にします。こちらの土地を提供していただくことで、この街の住民の皆様がここに集まる様になれば、街の中心地としてのこちらのお宅の名声も上がるものと確信しています。それでご相談というのは五十坪程度の土地をお貸しいただけないかというお願いなのです」

「なるほど、わかりました、無面白いアイデアですね。乗りましょう。五十坪だと駐車場が取れないでしょうから、七十坪くらい使っていいわよ。土地代は、そうね、無償でいいわ。その代わり、そのお店を株式会社にして私に三十パーセントの株を頂戴。そして新メニューの試食は私が一番にするということ。それで交渉は成立、どお」

「流石ですね。長いおつき合いになりそうです。了解しました」

 こうしてオーナーとシェフはいつもの口喧嘩から生まれたアイデアを元に、新しいビジネスモデルを実現すべく動き出したのである。


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