見出し画像

11月10日 無電柱化の日 【SS】青空

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 無電柱化の日

景観や防災などの観点から電柱を無くす「無電柱化」を目指している「無電柱化民間プロジェクト」が制定。
日付は11月10日を「1110」として、「1」を電柱に見立て、それが「0」(ゼロ)になることを願って定められた。電柱が無くなることで景観が良くなり観光の振興に役立ち、巨大地震などに対する防災機能が高まることを広く世の中に知らせることが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次

【SS】青空

 電柱が立てられ電線が交差する光景は高度成長時代のシンボルだった。道路が整備され電柱が立てられ電線が張り巡らされた。結果、日本中で舗装された道路と電気の供給が実現した。景観は二の次、まずは電気を各家庭に行き渡らせることが重要だった。次第に豊かな生活が実現してくると、気がつき始めた。無造作に建てた電柱と蜘蛛の巣のように張り巡らされた電線は街の景観を著しく損ねることになることに。更に、台風などでの電線切断による停電や、ショートによる火事発生のリスクを孕んでいることに。

 そして、見過ごせないコストも発生していた。車道上に電柱は建っていないことが多いのをご存じだろうか。広い歩道が確保できるような場所であれば、歩道に電柱は建てられるのだが、そうではない狭い路地などでは、個人の敷地内に立っていることも珍しくはない。マンションのような集合住宅の敷地内に立っている電柱も存在する。そんな電柱は、占有している土地の代金が土地の持ち主に支払われるのである。つまりは土地を借りて電柱を建てているということである。そしてその賃料は電柱が撤去されるまで支払い義務が継続するのである。高い賃料ではないが数が多くなれば負担も増える。

 電気を各家庭に供給するために、電柱を乱立し蜘蛛巣のように電線を張り巡らせることは既に過去のものになりつつある。景観を大切にする昔の建物が多い街や新しく開発する街などは電柱を無くし、電線を地下に埋設するようになっているのである。電柱と電線がない街は歩いていても見上げると青い空が綺麗に見えるのでとても気持ちがいいものである。心も晴れやかになりそうである。

 新しく住まいを探し求めている夫婦がいる。それまでは昔ながらの街で夢のマイホームのための資金を貯め、やっと頭金ができたのだった。生まれてくる子供のためにも住環境がいいところの住まいを見つけたいと考えている。しかし、何を基準に探せばいいのかよく分かってはいない。学校が近くてスーパーも近くにあって、できれば病院なども近くにある事に越したことはないというくらいは考えていた。とりあえず、自分たちの目で街の様子を見てみようと車を走らせ、いろんな街を見て回ることにした。とはいっても、仕事に通える範囲なので、電車かバス便がいいところに限定される。

 しばらく車で走っていると新しく埋め立てられてできた海の側の街に入っていた。二人は、その街に入った途端、街がとても綺麗だと感じていた。

「新しい街は綺麗ね。こんなところはマンションの値段も高いんでしょうね。私たちの貯金じゃ無理かなぁ」

「ああ、見るからに高そうだよね。歩道の広さがすごいよ。今のアパートの前の道より広いんじゃないか。それになんだか空が綺麗なんだよな。なぜだろう」

「道が広いから青空がよく見えるんじゃないの」

「そうなのかな。それだけじゃ、なさそうな気もするんだけど。あっ、分かった。この街には電柱も電線も無いからだ。見上げた時に電線がないからだ」

「えっ、電柱も電線も無いってどういうこと。みんなソーラーパネルってこと?」

「バカだなぁ、違うよ。電線はみんな地面の下に埋めてあるんだよ。だから街並みが綺麗に見えるんだよ」

「へー、そうなんだ。電柱が無いってことは、何丁目かっていうことがわからないね。電柱に貼ってある小さな緑の住所表示。迷った時便利なのよね」

「あっ、確かに。でも今ではそんなこと気にする奴はいないだろ。スマホがあるし」

「あっ、そうか。でも私はグーグルマップを上手には使えないから電柱の表示は助かるけどなぁ」

「でも、電柱がないとこんなに綺麗なんだよ、街並みが」

「そうね。やっぱり、綺麗な方がいいわね。スッキリしてるし。ねぇ、この街で新しいマンション探しましょうよ。私も働くからきっと何とかなるわよ」

「よーし。そうするか。いい街に住めば心までも綺麗になりそうだし」

 こうして二人は住みたい街を決め、モデルルームの案内板に招き入れられるようにドアを開けて入った。そして意外にもマンションの価格に格差がないことを知らされた。

「あの街は市が開発を後押ししているので、土地が一般よりも安く手に入れられるんですよ。だから、マンションの価格もそれなりの価格に落ち着いているわけです。購入は、おそらく今がチャンスでしょう。土地がなくなったら新規マンションは建たなくなるので、その時は中古マンションの価格が上昇しますよ、きっと」

 不動産屋から背中を押される形となり、若い二人はちょっとだけ背伸びをして、新築のマンションを契約することにした。そして、翌年二人はめでたく憧れの街
に引っ越しをした。二人は新しい街で手を繋いで街を歩く。見上げれば眩しい青空が見える。景色を邪魔する電線はない。それだけでも開放感を感じていた。そして近くの公園で子供達がキラキラと光る汗を流しながら遊んでいる姿を見て、自分たちの子供もここで遊ばせてあげられると思い、喜びが込み上げていた。

「この街に決めて良かったね」

「新しい街だから、新しい人も多いし、きっと生まれてくる子供にもたくさん友達ができそうだね」

 若い二人の新生活は始まったばかりで希望に満ち溢れているようだ。きっと幸せな家庭を築いていくのだろう。青い空を見上げながら。


🙇🏻‍♂️お知らせ
中編以上の小説執筆に注力するため、コメントへのリプライや皆様のnoteへの訪問活動を抑制しています。また、ショートショート以外の投稿も当面の間は抑制しています。申し訳ありません。


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SSマガジン

↓↓↓ 文書で一覧になっている目次はこちらです ↓↓↓

一日前の記念日SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #ショートストーリー #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説 #毎日ショートショート

よろしければサポートをお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。