見出し画像

【SS】13.ミクロの侵略者  ※クリエイターフェス

我が家にはいつからか消毒のためのエタノールを噴射するオートディスペンサーが数台、帰宅時に手を洗うためのキレイキレイが入ったオートディスペンサーも備えている。
完全に習慣になってしまった今日ではあるが、ウィルスを気にしていなかった昔が懐かしい。そんな思いの中閃いたショートショートです。お楽しみください。


ミクロの侵略者

 西暦2055年、世の中は目に見えない侵略者にかなり侵された。この侵略者は最初はインフルエンザなどと同類の突然変異したウィルスだと認識されていた。次第に研究が進み、それは地球外生物であると研究機関から発表があり、人類は騒然とした。目に見えることのない敵に人類は恐怖したのだ。一体どこから飛来したのかは依然として不明のままだった。人類の研究は続いたが効果的な対応がなかなか見つからず今日を迎えている。

 第一波から始まり今では時間と共に成長を遂げている侵略者との戦いも、第187波にまで達している。これまで何度も絶滅させたかのような期間もあったが、不思議と復活して津波の如く人類に襲い掛かっている。途中では赤道を中心に西から東に侵略者の波が押し寄せていた。しばらくして落ち着いたと思ったら、北極から時計と逆方向の円を螺旋状に描きながら南極まで侵略者の波が押し寄せた。こうなると人類はなす術もなかった。

 幸いにもこの目に見えない侵略者は火器などの武器を使うことはなかった。自身の体を分裂させ変異し短時間で増殖し人の体の中に入り込み人間の情報を入手し侵略者自らの体の中に情報を記録しタイミングを見計らって脱出していたのだ。しかし、ほとんどの侵略者は人間の体内から脱出できず、人間の免疫力に負けたり、打ち勝ったとしてもその人間の死によって体外にでることが不可能となり結果死に至っていたようだ。

 侵略者たちはなんとかして人間の情報を遠く離れた母船に送りたかったのだが、50年もの長い時間の中で送ることができたのは数える程度にしかならなかった。分析には極めて少ないサンプルだったようだ。

 長い時間の中で人類は、それぞれの生活の中で侵略者からの攻撃を防御する唯一とも言える方法を身につけていた。それは、自宅から出かける前のアルコール消毒と防護用フルフェースのヘルメットを頭からすっぽりとかぶることだった。この施策が開始されて5年程度が過ぎた今年、侵略者たちは人類の体に入ることが困難となるとともに、生きていく上での栄養も吸収できなくなり、自らが滅亡の道を歩み始めた。

 それから10年後、侵略者の痕跡は無くなった。どうやら母船も地球侵略を諦め他の星にターゲットを変えたようだ。世界中の人々はその発表を聞いてホッと胸を撫で下ろした。

 そして更に10年が経過した。依然として人々は全員フルフェースのヘルメットを被りバッグの中にはアルコール消毒を忍ばせることが習慣として定着したままだった。

 この習慣は、残念なことにコンビニ強盗と銀行強盗を急激に増加させることになり、都市部の治安は最悪になり始めていた。街角や店舗など至る所に設置されている監視カメラが役に立たなくなってしまったのだ。

 その後人類は、予防接種と称した注射による個別認識装置を人類の体内に注入する措置を秘密裏に進め始めた。そして、監視カメラはこの個別認識装置の番号を読み取る機能をつけられていった。

 この変化した状況は侵略者が残していったミクロサイズのの監視カメラも捉えていた。人類はそのことには気づいていなかった。数年後、侵略者たちが再来するまでは。



期間限定マガジン (2022/10/1 -2022/10/31)

#クリエイターフェス #ショートショート #創作 #小説 #ショートショート書いてみた


この記事が参加している募集

スキしてみて

よろしければサポートをお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。