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【SS】28.香りの幸せ  ※クリエイターフェス

 最近、お花のサブスクを契約した。ちょっと面白いサブスクでお花を自分たちで取りに行くというものだ。なので毎日行っても月額料金は変わらない。ただし、一回に持って帰れるお花の料金が決められている。毎日小さな幸せを持って帰ることができるんだなぁと思いながら、空想したショートショートです。お楽しみください。


香りの幸せ

 お花のサブスクを契約してからどれだけ時間が経っただろうか。ちょっと風変わりなサブスクに出会って契約したのだ。というのも、自分ではお花を選べない。それにお花は取りにいかなければならないし毎日一本しかもらえない。持って帰ったお花は翌日の夜には枯れてしまう。それで月額2000円。高いのか安いのかわからない。それに毎日なんて取りにはいけない。

 それでも仕事帰りにお花を取りに行き、店員さんから渡される選べない一本のお花を持って帰る日々は続いている。何をもらえるかわからないというのは慣れてしまうと意外と面白いなと思い始めている。それ以上に最初は気にしていなかったが、最近は画像検索でお花の名前を探し始めている。ところが、ヒットしたことが一度もない。どういうことなんだろうか。忘れっぽい私は「まぁいいか」と思いいつしかそのことすら忘れていた。

 ある日、もらってきたお花を花瓶にさした途端に萎えてしまった。いくらなんでもこんな花を渡すなんてと思いながらお花屋さんに電話をかけてみた。すると意外な回答が返ってきた。

「お花は花瓶にさしてくれた人の翌日の行動について教えてくれるのです。萎えてしまったということであれば、そのお花の香りが消えるまでは外出を控えられた方がいいと思います。おそらくテレビで心当たりのあるニュースが報道されると思います。それから、すべてのお花からはより深い眠りで疲れを癒す香りが出ていますので長く続けられているお客様は体調がかなり良くなっているのではと思います」

 電話を終えるとなんとなく気持ち悪くなったが、確かに最近は体調が良くなっているような気がする。夜中に目が覚めることも無くなった。そんなことを思ってはみたが、あまり気にする性格でもないのでそのままベッドに入って仕事の疲れをとることにした。最近寝つきは良くなっているので、知らぬ間に深い眠りについていた。

 翌日目覚めて電話のことを思い出した。土曜日ということもあり仕事は休みなので、近くの本屋さんに新刊のチェックに行こうかなと思っていたくらいだった。とりあえず出かけるのは止めて家の中でダラダラしていた。そのうちに、心地よい香りを放っていた一輪の名前もわからない花から香りが消えた。同時にテレビのニュースが耳に入ってきた。

『〇〇町の□□書店にアクセルとブレーキを踏み間違えた自家用車が新刊コーナーに突っ込みました。数名の負傷者が発生している模様です』



期間限定マガジン (2022/10/1 -2022/10/31)

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