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11月26日 ペンの日 【SS】青い万年筆

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- ペンの日

東京都中央区日本橋兜町に事務局を置き、国際ペンクラブ(PEN International)の日本センターとして活動をする一般社団法人・日本ペンクラブが制定。

1935年(昭和10年)のこの日、日本ペンクラブが創立された。当時の会名は日本ペン倶楽部。記念日の制定は30周年を記念したもの。ペンクラブは、文学を通じて諸国民の相互理解を深め、表現の自由を擁護するための国際的な文学者の団体である。
日本ペンクラブ(The Japan P.E.N. Club)のペン(P.E.N.)は、文字を書く道具としてのペン(PEN)を表すとともに、Pは詩人(Poets)と劇作家(Playwrights)を、Eは随筆・評論家(Essayists)と編集者(Editors)を、Nは小説家(Novelists)をそれぞれ表す。

日本ペンクラブの初代会長は詩人・小説家の島崎藤村(しまざき とうそん、1872~1943年)であった。日本ペンクラブに集う表現者達の熱い思いによって、その灯火を掲げ続けられ、表現の自由と平和への訴えが続けられてきた。


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【SS】青い万年筆

 一人の年老いた小説家がいた。長年小説を書いているが、一度も売れたことがない。当たり前だが、メジャーな賞をとった経験もない。それでも、本人は文章を綴ることをやめられず、書き続けていた。気がつけば結婚もせずに、六十歳になってしまっていた。それでも、本のページ合わせのためのコラムや掌編小説の依頼が時々あるので、細々ではあるが、何とか日々の生活を維持できていた。

 ある日、小説のアイデアも出なくなり途方に暮れている時、窓から見える夕日がとても綺麗だということに気づき、夕日が沈まないうちによく見える河原まで出かけることにした。急いで靴を履き、玄関を飛び出して河原に向かって急ぎ足で歩く。歩きながら男は思う。「こんなに急いで歩いたのは何年ぶりだろう」と。沈み行く大きなオレンジの太陽は、少しずつ欠けている。男は少し焦って、河原を目指した。やっと土手沿いの道に出ると、沈み行く大きな太陽がよく見えた。男は、土手の上で立ち止まり、じっと太陽を見つめていた。途端に、自分の歩んできた道がつまらないもののように感じて、落ち込んだ気持ちが一筋の涙に替わって頬を流れた。土手の道を通っている人たちが不思議そうな目で見ているのを感じながらも、男は太陽を見つめて立ったまま泣いていた。

 太陽がほとんど沈んでしまい、あたりも薄暗くなり始めている。男は身体中の力が抜けたように感じ、土手の芝の上に座り込んだ。そして呟いた。

「ああ、僕の人生って何だったんだろう。間違った人生を歩いてしまったのかなぁ。それともどこかに分かれ道があったのかなぁ。今となっては遅いかもしれないけど、きっと、これが後悔っていうやつなのかな」

 何となくそのまま寝そべってみたくなり、土手の傾斜している芝の上で仰向けになった。しばらくすれば星が見えるだろうと思ったのだ。ゆっくりと頭を芝の上に載せようとした時、何かに当たった。

「いたっ。なんか当たったな」

 すでに暗くなってしまい、よく見えなかったが、頭の下を手探りで何かあるか探してみると、ちょっと太めのペンのようなものが芝生の中に落ちていたのだった。

「誰かの落とし物かなぁ。でも、こんなもの届け出たところで、誰も名乗りでないだろうな。ということは僕がもらっても同じってことかな」

 変な理屈をつけ、自分を納得させ。拾ったペンをポッケに入れた。しばらく寝そべって幾つかの星をみて、男の気持ちも落ち着いたのか、来た道を戻ってアパートに帰った。部屋に入って電気を付け、拾ったペンを確認すると、それは古ぼけた青い万年筆のようだった。とりあえず、汚れを落とし、インクを入れ替えた。

「青い万年筆だから、青いインクを入れようかな。ちょっと太めの万年筆だから、結構年代物かもな」

 そんな独り言を言いながら、インクを入れ机の上に広げてある原稿用紙に向かった。この男は、いまだに手書きの小説にこだわっている。早速、拾った青い万年筆を手に持ち原稿用紙に向かってみた。すると、不思議なくらいにペンが走った。いや、正確に言えば、男は何も考えてはいなかったのだが、青い万年筆が男の腕を勝手に動かして原稿用紙に文章を書き続けたのだ。男は、青い万年筆が生み出す文章を目で追いかけながら「面白い」と感じていた。腕が疲労で動かなくなると青い万年筆からの不思議な力も感じなくなった。気がつけば二十時間程度休むことなく文章を書き続けていたようだ。男は食事も取っていなかったが、強烈な眠気に負け、そのまま眠ってしまった。

 目覚めた時に男は思った。「これはやっぱり持ち主に返さないといけない万年筆なんじゃないか。とりあえずSNSで青い万年筆を拾ったことを呟いておこう」男は、拾った場所と自分の不思議な体験をSNSに書き込んだ。右手に筋肉痛のような痛みを感じてはいたが、どうしても青い万年筆に手が伸びてしまう。そして、小説の続きを青い万年筆は勝手に綴り始める。そしてまた腕が動かなくなるまで書き続ける。同じことの繰り返しである。しかし、そうしてできた文章はとても面白く、読者を惹きつけるものとして形になっている。男は、少しずつ体力が落ちて来ていることに気がつき始めてはいたが、青い万年筆が紡ぎ出す文章の魅力に取り憑かれてしまい、小説が書き上がるまで必死に耐え抜いた。

 男はフラフラになりながらも、出来上がった小説を出版社に送付した。そして、青い万年筆にインクを補充し、新しい小説を書き出した。今度は一作目よりも長い長編小説のようだ。男は必死に右腕の疲労に耐えながら文章を書き続けた。二週間ほど経った時、SNS上の呟きに返信が入っていたが、男は気づくこともなく小説を綴っていた。

「あなたが拾われた青い万年筆が、勝手に文章を書き出してくれる万年筆ならば、どこかに捨てることをお勧めします。長編小説を書き上げるたびに書き手の寿命は十年短くなるようです。くれぐれも気をつけてください」

 しかし、男は執筆に夢中でSNSの返信には気が付かなかった。それどころか、二つ目の作品を書き上げた直後、男は目を閉じ静かに息を引き取ってしまったのだ。その最後の作品ももうすぐ出版される予定である。この後、この青い万年筆が誰の手に渡ったのかということは定かではない。


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