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テレビ(短編小説4)

すずめがテレビをつけると、小学生向けのアニメがやっていた。

「みんなと仲良くしよう」

そんなストーリー。
喧嘩しても仲直り。ーだからこそ絆が深まるー

チャンネルを変えれば、また違うアニメがやっていた。

「一人一人が自分を生きることが大切」

自分を知ろう、ー自分をまず大切にー

またチャンネルを変えれば今度は

「人のためは、自分のため」

そんなテーマで、学者らしき人たちと若者たちが
話し合っているようだ。

「ふぅ、、。」

すずめは、テレビを消す。

そこにはいつも通りの日常がある。

部屋があって、机があって、その上にさっき見ていた
テレビがある。

テレビをもう一度つける。

今度は何もつかなかった。

あれ?故障?

すずめは立ち上がり、テレビに近づく。

やはりテレビはつかないようだ。

周りには誰もいない。

音が消えて、とても静まりかえっていた。

見るものがなくなったすずめは、仕方ないので
ベッドにごろん、と横になって天井を見上げた。

やがて、目を閉じる。

初めは暗闇で、つまらないと思った。

つまらないなー、、、、

と思いつつ、でもテレビもすっごくつまらなかったな、
そんなことを感じる。

やがてそんな感覚さえ静まった頃、
突然、すずめの目の裏に先ほど見たどのチャンネルよりも
興味がそそられるものが流れ出す。

え?私、今、テレビ見てる?

すずめは一瞬そう感じたが、
いやいや、目をつむってるよね、と瞼をぎゅっとして確かめる。

目の裏。
そこには今、テレビもなければ、人もいない、動物もいない
宇宙もない、天使もなければ龍もいない。

だけど、とても満たされた感覚が流れているのだった。

すずめは、いつの間にか止めていた呼吸を思い出すと共に
パッと目を開けた。

そこにはいつも通りの日常がある。

部屋があって、机があって、その上にさっき見ていた
テレビがある。

今までの世界が全て、偽物に見えた。

おしまい

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