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個々で取り組むべきは「備災」。子どもたちに生き抜く知恵を。日本笑顔プロジェクト 代表 林 映寿

いま自分が「笑顔」になって更にその「笑顔」の輪を日本全国にそして世界に広げていきたい、と願って東日本大震災発災の1週間後に発足した「日本笑顔プロジェクト」。
2021年、ONE NAGANO長野地域版noteでは、その活動を5回にわたって紹介させていただきました。あれから1年半がたち、地域の「防災」はどう進化したのでしょうか?
日本笑顔プロジェクト代表の林 映寿さんに伺いました。

2021年の記事はこちら

 意識を継続させるために、「楽しい」、「おいしい」から始まる災害への取り組み
 
 災害への意識は、「持続・継続」させていくということがすごく重要です。3月11日や、9月の防災デーが近づくと「防災・減災」が話題にはなりますが、一過性に過ぎない。やはり時間とともに薄れていってしまいます。「防災」というと、やはり過去の災害に関しての暗いイメージもあるし、積極的に考えたいことではないというのが現状なのだと思います。「災害」に対する、根本的な暗いイメージを変えて、イノベーションを起こしていきたいなというのが「NUOVO」がはじまったきっかけです。

 では、人は、何に対して自主的に動いて、かつ持続継続できるかというと、やっぱり「楽しいこと」と「おいしいこと」だと思うんです。じゃあ、まずは「楽しい」を突き詰めてみようとした結果が「備災」を「アミューズメント(楽しみや遊び)」にすることでした。そして"ライフアミューズメントパーク<nuovo>が生まれたのです。
 ここ2年ぐらいは、おかげさまでたくさんの人たちにお越しいただきました。わずか2年で、サブスク会員として重機のトレーニングをされた方々の中から、500名を超える方が実際に被災地へ重機オペレーターとして活動してくれたのです。「それぞれが楽しく身につけたスキルを実際に被災地で提供する」というところまで形にすることができました。
 

食べ慣れたおいしいものを災害時にも食べられるように、「非常食」ではなく「備蓄食」
 
 この取組が第一ステージの「楽しい」部分です。今後、第二ステージとして「おいしい」も進めていこうと考えています。「非常食」と書かれたものを食べると、「今、自分が置かれている環境って非常事態なんだ」と感じてより不安になってしまいますよね。災害時ほど、おいしいものを食べることによってやっぱり笑顔も生まれるし、元気になるはずなんです。普段食べ慣れているものを、被災した時にも食べることによって安心感を得られますよね。
 ですから、僕たちはできるだけ「非常食」とは言わず「備蓄食」というようにしています。非常食は、もしかすると、「どうせ食べないものなんだから、別にそんなにおいしくなくていいよね」という考えもあるのかなと思うので、もっとおいしく、普段から食べられるようにレベルを上げていくことがすごく重要だなと思っています。
 
 例えば、カンパンは非常食の王道ではありますが、完全に口の水分は取られるし、年配の方は食べられない。どうしてみんながカンパンを備蓄するかというと、5年〜10年もつからなんです。だったら、1年しかもたないおいしいものを、ちゃんと1年ぐらいの間隔で食べて、「こういう味なんだな。冷たくても食べれるけれど、あったかくしたら、もっとおいしいな」みたいなことをちゃんとわかった状態で、災害に備えることを主流にしようという取り組みを行なっています。
 
子どもたちに、楽しく「生き抜く力」を身につけて欲しい。重機の取り扱いが学べる「キッズアカデミー」


 また、「食べる」「出す」はセットですから、備蓄食と簡易トイレをセットで皆さんに体験していただくプログラムも行っています。さらには、寒い時期に暖をとることや温かい食べ物を食べることというのは災害時にとても重要なので、火の起こし方も学べるようにしています。火を起こして、お湯を沸かし、備蓄食を温めて食べる。その一連の流れが楽しくできればすごくいいですよね。今の世の中、火遊びはNGですが、「危ないからさせない」のではなくて、どのぐらいの火だったら自分が扱えるのか、どのぐらいの火になったら火災になるのか、ということをちゃんと伝えておかなければいけない。
 そもそも、私たちは、今の子どもたちに、もっと生き抜く力を提供する場所があってもいいんじゃないのかなと考えているんです。そこで、去年の10月から「キッズアカデミー」という子ども向けの重機取り扱いの習い事をスタートしました。今すでに「NUOVO」で重機オペレーターの人材育成は行っていますが、例えばこれから10年後に大災害が起きたとしたら、私はもう56歳になっていて、被災地に行って重機を扱うのは難しい。未来のオペレーターをどうやって育成していくかというと、相当年代を下げていかなくちゃいけないんです。
 とはいえ、今の高校生や大学生は忙しいのでなかなか難しい。じゃあ、もっと年齢層を下げたらどうなんだろう、ということで「はたらく乗り物」が大好きな子どもたち向けのプログラムを考えたんです。子どもの憧れを叶える夢を実現させてあげられて、未来の人材育成につながる。最初は右も左もわからずに、大人の膝の上で重機を操縦していた5歳の子どもが、最終的には一人で重機を運転できるようになるんですよ。

「できることを増やしておく」ことが自助につながる。災害時に動けるチャンネル作り
 
 今5歳の子たちが20歳まで続ければ、「重機オペレーター歴は15年」になります。彼らが大人になるころには、AIを使って重機の遠隔操作が可能になっているんじゃないかとよく言われるんですが、ICTを使った操作ができるのは現状あくまで大型機械だけです。さらに、遠隔操作は通信インフラがあって始めて動くものなので、災害時に通信が絶たれた場合はただの鉄の塊になってしまう。ですから、最終的には人間のオペレーターの育成が大事になってくるんです。
 私たちは、「できることを増やしておく」というのが自助の一つだと思っています。一人の人がいろんな仕事や能力を持っていて、災害時に発揮することができる。災害にまつわるアンケートで7割以上の人たちが「災害の時にボランティアをしていない」と回答していたんですが、その人たちは、ボランティアをしたくないのではなくて、「何ができるかわからない、自分に能力がない」という気持ちなんです。じゃあ、自分ができるチャンネルを1個でももっていれば、自分が被災した時や、災害が起きた時に動くことができるようになるはず。

まずは自分たちが楽しいことから。「備災」のアミューズメントパークを作っていく
 
 何か特殊な技術を増やすわけではなく、被災にあった方と寄り添って話を聞いてあげられることだけだって別にいいわけです。そう考えると、意外とできることはたくさんある。重機は相当ハードルが高いものですが、今の「キッズアカデミー」の子どもたちも、最初は「災害」の意味もわからず、ただ重機に乗れるからと通い始めた子がほとんどです。ですが、そのうち、笑顔プロジェクトのYouTubeを見て、「大きくなったらバギーで人を助けに行くんだ」と言うようになってくれることがある。きっかけって、そういう憧れからでいいと思うんです。
 私たちがこれからしていくことは、防災でもなく、減災でもなく、「備災」です。そもそも、防災と減災って、災害が発生する前の話なんですね。結局、どれだけ防災や減災をしても、災害は起きる。だから、災害が起きた後のことをもっと考えなきゃいけないし、時間と労力とお金を使っていくべきなんじゃないかと。重機の扱いもそうですし、例えば、子どもたちに、火を起こしてお湯を沸かし、備蓄食を温めて食べるという体験をしてもらうことで、災害時に生き抜く力を育み、備えてもらう。そうやって「備災」の意識を身につけてもらえるような場所を作っていきたいです。
 
JUKIキッズアカデミー

女性限定の重機オペレーターコース開設