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「一刻も早くりんごの木を救いたかった!」~日本笑顔プロジェクト Vol.3<自分たちにもできる!重機支援>

令和元年東日本台風から2年が過ぎました。「まだ」2年なのに、私たちのなかで、災害や防災への意識が過去のモノになっていないでしょうか?5回にわたって紹介する、『地域発の新しい防災の仕組み』~第3回目。日本笑顔プロジェクト副代表 春原圭太さんから、重機支援の気づきから設立した、日本初の「体験型ライフアミューズメントパークnuovo」についてお話しいただきました。

第1回目の記事はこちら https://note.com/one_nagano/n/n501dc50f3341

第2回目の記事はこちらhttps://note.com/one_nagano/n/n636b5b357875


2019年10月に発生した東日本台風災害は、長野県に多くの爪痕を残していきました。堤防が決壊した長沼地域では大量の土砂や漂流物が流れて広範囲に堆積し、家屋が流されている映像などは今も記憶の中に鮮明に残っている方が多くいるかと思います。
 我々の本部がある小布施町も家屋への浸水被害、農地への土砂堆積が広範囲で発生しました。農地への堆積土は多いところで50cm。重機の資格がなかった私たちはスコップ片手に作業を始め、これが重機支援に関わる第一歩となりました。

 東日本台風災害直後は仮設トイレの設置支援を行い、ボランティアに来られた方への環境整備に務めてきました。そして、笑顔プロジェクトが農地支援に入ったのは11月10日から。県や市町村での復旧支援体制づくりが進む中、笑顔プロジェクトは「民間だからこそできる支援を」をモットーにボランティアを募り小布施町の果樹園の支援に行きました。

 小布施町社会福祉協議会からスコップを借り、5m~6m浸水した農地に30名で入りました。当時笑顔プロジェクトメンバーは重機の資格が無かったため、リンゴの木の根の周りの土砂をスコップで搔き始めました。畑を覆う汚泥は40cmの堆積。水を含み粒子の細かい土は、そのままにしておくとリンゴの根が酸素を補給することができなくなり酸欠状態を起こし、いずれ枯れてしまう危険がありました。

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 一刻も早くリンゴの根に酸素を補給させないといけない為、幹の周りの半径1mを目安にして汚泥を除去していきました。1本の木に5~6名で作業をしていきましたが想像以上に水を含んだ土は重く、15分も作業を行えば体はクタクタ...15分作業をして30分休憩を繰り返しながらでないと体が1日もたないのです。120本ものリンゴの木の根をスコップ片手に作業を行うには体への負担が想像以上に重く、1日の作業が終わると腰、腕、足がパンパン。次の日は朝起きると全身筋肉痛。このままでは私たちの体が壊れてしまう...

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何か継続をして支援できる方法がないか、力の弱い女性でも参加でき継続できる方法がないかと考えたときに、目にしたのが小型重機でした。隣の農地ではショベルカーに乗った業者がスピーディー、尚且つきれいに土砂を撤去していきます。その時に「これだ!!」と思い、重機や重機に乗れるオペレーターを募集しました。そうすると重機は集まるものの重機に乗れるオペレーターがいない。重機のオペレーターが集まってもいざ作業をすると資格取得から1度も乗っていないため操作に不安があったりと、なかなか思うように作業が進まず、経験のある重機オペレーターの人材不足を痛感しました。「そうだ!笑顔プロジェクトメンバーが重機の資格を取得し、作業に入ればよりスピードが上がるのではないか!」。そこですぐに講師等を委託し、重機の資格を取得しました。

 重機講習は2日間の日程で行われ1日目は学科、2日目は実技となっており、知識・操作を学びました。しかし実技に関しては重機の台数が決まっていたため、ひとりで操縦できる時間は約5分ほど。その5分で操作を覚え、身につける必要がありました。
 重機の資格を取得した私たちは、すぐに重機をレンタルし、小布施の農地に入りました。ところが、資格を取得し練習する間もなかった為に、農地に入ったものの重機を木にぶつけたり、平らにしなくてはならない農地が凸凹になってしまったりと、自分が思っているような操作をすることができず苦戦しました。

 農地支援の排土作業は高い技術が求められます。農地の排土作業は堆積した土砂のみを撤去しなくてはなりません。慣れていないと、もともとの土まで掘ってしまったり果樹の枝を折ってしまったりして、逆に農地を荒らしてしまいます。
私たちは、重機の練習をする場所や、資格取得後のフォローが必要だと痛感し、被災から2か月後、重機の講習を行ったり、重機のトレーニングができる施設を構想し始めました。

それが「nuovo」(ノーボ)です。nuovoは「農業」+「防災」=「農防」。また、イタリア語で「新しい」を意味するこの語に「21世紀の新アミューズメント」との思いも込めてnuovoと名前を付け2020年10月に正式オープンしました。

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 nuovoでは重機の必要性やオペレーターの育成など東日本台風災害で私たちが感じた課題、経験を活かして行く為に重機の講習会や四輪バギーの講習会などを定期的に開催しながら災害時に活躍できる人材を育成しています。

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 重機に関しては、資格を取得してすぐに現場でのオペレーションを行うことは難しく、ある程度の練習が必要になります。(私たちも練習する場がなく、いきなり現場だったため苦戦しました!)その課題を解決するために日本初のサブスクリプションによる重機の練習場所を作り、人材育成を行い始めました。資格取得後のサブスクにおける重機トレーニングは、現在70名を超える方がトレーニングに参加し、現場で重要になる技術取得や、笑顔プロジェクト独自の検定を設けスキルアップ練習を行っています。また、"70名のうち3分の1の方が女性"という実績から、力の弱い女性が災害時に重機を活用出来る、という想いが少しずつ見えてきています。他の講習機関では、20人に対して重機1台だったり、乗る時間が非常に少ないですが、笑顔プロジェクトの講習会は5人に対して重機1台を提供し、乗る時間を多く設けていることも特徴のひとつです。また、重機を増やすとその分講師が必要になりますが、笑顔プロジェクトは重機1台に対し講師を1名配置し指導に当たっています。自分たちが東日本台風災害で感じた、スコップでの排土作業の大変さ。重機はあっても乗れる人がいない、力のない女性でもボランティア作業に参加できるような取り組みを!そんな課題を、このnuovoで解決していきたいと思っています。

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 nuovoが正式にオープンしてから1年が経ち、重機講習の受講者は659名となりました。災害時に活躍する重機のオペレーターを引き続き育成していくことが私たちの使命だと思っています。「重機は男性が乗るもの」という意識から「力の弱い女性こそ重機」という災害支援の新たな展開を続けていきたいと思っています。

重機講習⑤

次回は4輪バギーにおける支援活動、今後のnuovoの展開についてお話させて頂きたいと思います!


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