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「防災の知恵を楽しみながら身に着ける」~日本笑顔プロジェクト Vol.2<被災地の仮設トイレ問題>

令和元年東日本台風から、まもなく2年がたつ。「まだ」2年なのに、私たちのなかで、災害や防災への意識が過去のモノになっていないだろうか?‥‥5回にわたって紹介する、『地域発の新しい防災の仕組み』~第2回目。日本笑顔プロジェクト(以下、「笑顔P」)副代表 春原圭太さんから、ボランティア活動における最初の課題~「トイレのこと」についてお話しいただきました。

第1回目の記事はこちら https://note.com/one_nagano/n/n501dc50f3341

トイレは「あればいい」というものではない

 台風19 号の被害を受けたエリアでは、大勢の方々によるボランティア復旧活動が続きました。その中で、意外と見過ごされがちなことの一つが、仮設トイレ。その不備が、場所によってはボランティア不足の一因ともなりました。

 早朝から夕方まで、被災した家屋や農地で活動を行うボランティアの方々にとって、食事はもちろんのこと、トイレの問題はとても切実。 女性であればなおさらです。11月5日、ボランティアに参加した人たちの声を聞いてみると、何よりも仮設トイレの衛生面が問題となっていることがわかりました。実際に目にした例 の一つに、緊急用の段ボール応用型の仮設トイレがありました。これは1 回使用するごとに便座内に装着された袋を交換するしくみですが、正しい使い方がなかなか周知されず、同じ袋を複数の人たちが繰り返し使用してしまうケースが後を絶たず、後始末に苦慮しているようでした。また、仮設トイレの設置まではされても清掃や管理まで手が回らず、結果的衛生的に難が生じ、仮設トイレはあっても使用するのにかなり抵抗感が強いという状況も。こうした事情のため、ボランティアが思うように集まらない状況まで生まれていました。

「笑顔トイレステーション」 続々誕生

トイレst2

 民間だからこそできる支援とは何か? 考慮の末に、笑顔Pでは独自に復興地への仮設トイレ設置を行うことを決めました。名づけて「笑顔トイレステーション」。トイレ問題を知った翌11月6日、早速仮設トイレ業者を探してみると、被災した各地でも需要が急増しているようで在庫が見当たりません。翌7日になってようやく、千曲市の業者、有限会社瀬下衛生社さんに手配をすることができました。
 ところが調べてみると、復興地エリアの汲取業者さんも被災し、バキュームカーが水没してしまったことが判明。業者さんとなかなか連絡が取れず、3日間の張り込みの末にようやく連携体制づくりが進みました。併せて、仮設トイレの維持管理体制を構築。被災された方々を中心に相談の末、地元地区や社会福祉協議会、近隣住民などの協力を得て、清掃と紙・水の補給を継続的に担っていただけることになりました。さらに冬季は、水が凍らないよう不凍液の補充も必要でした。不凍液も決して安価ではありませんが、凍結により設備が破損してしまうと修理に時間や費用がかかるため、これも欠かせない課題でした。しかし、みなさまからお寄せいただく支援金のみで運営している笑顔Pでは、資金も充分ではありません。そこで代表の林は、自身が所属する真言宗豊山派仏教青年会の執行部メンバーに連絡。同会の災害救援基金からも仮設トイレの設置費用を拠出してもらう承諾を得ました。

トイレst搬入

トイレst

 こうして、2019年11月8日から始まった笑顔トイレステーションの配置場所と台数は、長野市穂保の住宅街に3台、ごみ置場に2台、農業ボランティア受付に6台、同市赤沼の住宅街に1台、同市津野の飲食店駐車場に2台。穂保の農業ボランティア受付では、当初3台を設置しましたが、利用者が多く不足気味だったため、3台を追加し計6台となりました。

バイオトイレを使いたいけど‥‥

 仮設トイレの設置と維持管理体制づくりが進み、各地から喜びの声をいただきました。しかし設置台数の増加とともに新たな課題も浮上。冬には必需品となる不凍液の購入費不足。そして復興地の冷え込みが厳しさを増すにつれ、仮設トイレの利用頻度も高まってきたようで、汲みとりの依頼も頻繁になりました。仮設トイレの維持管理にかかる負担をなんとか低減できないかと思案する中で、林がふと思い出したのが、かねてから知っていた「バイオトイレ」の存在でした。バイオトイレとは、微生物の力で排泄物を水と炭酸ガスに分解・消滅させるという優れもの。汲み取り不要!水不要!というメリットから、復興地には最適な超最新ハイテクトイレです。

 杉のバイオチップを使用し 、微生物を繁殖させるメカトロニクス技術を駆使して、コンピューターで微生物が生息・増殖する環境(水分・温度・酵素) を自動制御します。微生物の活発な活動で臭気の発生を自動抑制し、いやな臭いも抑えてくれるものです。情報収集してみると、長野県東御市にバイオトイレのメーカー、コトヒラ工業株式会社さんがあることが判明!早速同社へ問い合わせてみると、レンタル業者の北日本建材リース株式会社さんを紹介していただくことができました。バイオトイレは水を使わず、汲みとりも不要、さらに臭気もない! これは大きな魅力でした。しかし、通常の仮設トイレのレンタルは1日換算で約400円、それに対しバイオトイレの場合は1日1200円ほど。レンタル料が高くなることに加え、電源も必要。さらに運搬費や返却時のメンテナンス料などを合わせると、結構な金額となります。バイオトイレの有用性を充分承知しながらも、同じ費用をかけるなら通常の仮設トイレを複数設置したほうがよいだろうと判断せざるを得ませんでした。ところが数日後、北日本建材リースさんから林代表宛に1通のメールが・・・!
「社内で検討の結果、被災現場での利用という事情も考慮の上、リース料なし、運賃のみで試しに1台利用していただいてはどうかという意見が出た」というのです! 担当者の方は笑顔Pのブログをご覧くださり、その支援活動にも共鳴してくださったようでした。

 機種は、1台で1日に大小合わせ70回使用分の処理能力をもつタイプ。100ボルトの電源を常時使用するとのことでしたが、運賃のみで借用できるというありがたい申し出を喜んでお受けすることに。

バイオトイレ全景

そしてバイオトイレ第一号

 そして11月30日。長野市赤沼の中村農園さんを舞台に、同園と共催したイベント「復興の狼煙! 笑顔で焼き芋プロジェクト」で、バイオトイレ第1号、通算では15台目となる笑顔トイレステーションのお披露目にこぎつけました。導入したのは、信州産唐松を使った天然木タイプ。最大処理能力は1日あたり70回とかなりの量に対応します。また使用しているバイオチップは1年に1回交換すればよいという簡単メンテナンス。電源は中村農園さんに、また清掃は利用者のみなさんに協力をいただいて運営しました。従来の仮設トイレのような臭気の問題はほとんどなく、水の補給や汲み取りが不要のバイオトイレは好評。利用者のみなさんからは、 次のような声が届きました。「暖房便座なので、寒い中でも快適に使用できた。室内がもう少し広く、荷物置場があればなお安心。」 「臭いがなく、環境に優しいのが素晴らしい!」また「前に使った人がきれいに清掃をしてくれていたので、気持ちよく使うことができた」との感想も。メンテナンスも含めて、バイオトイレの運営は順調なスタートとなりました。

バイオトイレ

バイオトイレメカ

 こうした、被災地のトイレ問題の教訓から、現在では簡易トイレ製造・販売メーカー2社と災害協定を結び、重機講習学科時にも簡易トイレ体験を行うなど、平時からの備えに対する啓蒙活動にも力を入れています。

災害協定を結ぶ簡易トイレメーカー

高密度 発砲スチロール製 組立式 簡易トイレ BENKING
https://benking.jp/

世界最小クラスの携帯トイレ「ぽけっトイレ」
https://pocketoilet.com/

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