見出し画像

【Audible本の紹介17】ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ(中川浩一)

今回紹介するのは、2023年に発行された「ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ」です。

1 著者は外務省の外交官です

自分は地方公務員ですが、20歳代の後半、外務省に出向していました。

外務省には、大学を卒業した若者が入省後、言語を習得するため、2年間くらい、外国の大学に留学する仕組みがあります。どの言語にあたるかは、特にマイナーな言語は、運や偶然にも左右されることもあるようです。

英語などを除くと多くの言語は未知の言語ですが、それでも2年の留学と数年の実務経験を経て、30歳くらいには皆がその言語のスペシャリストとして活躍できるようになります。大変な努力と多くの経験の賜物です。

さらに、その言語の中で、数人の特に優れた人物が総理などの重要な通訳として活躍します。著者は、アラビア語で総理通訳を務めた人です。通訳などの経験により、中東問題に対する知見が深まっていき、また、中東問題に対する個人の思いも強くなっていき、本書の執筆につながったようです。

2 歴史的な流れと主な登場人物について

本書の内容は、主に2つ。
ひとつは、中東問題が起きた歴史的な流れと主な登場人物の説明です。
もうひとつは、外交官として中東情勢の第一線で活躍してきた著者が現状をどのように見ているか、です。

一つめのうち、歴史の流れについては、
第一次世界大戦後のイギリスの二枚舌外交(アラブ人に国家の建国を約束したフセイン=マクマフォン協定、ユダヤ人に国家の樹立を約束したバルフォア宣言)により発生した中東問題。
第二次世界大戦後のイスラエル建国と、パレスチナ難民の発生。
繰り返された中東戦争とイスラエルによる占領地の拡大。
パレスチナ解放機構(PLO)の設立とアラファト議長による主導。
パレスチナ自治政府の成立とガザ地区などでの衝突の激化。
1993年のオスロ合意(イスラエルとPLOとの和平に向けた合意)。
ファタハからハマスへ、武力闘争の激化と、2023年のガザ戦争の発生

登場人物については、
イスラエルのラビン、シャロン、ネタニヤフなどの首相、
パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長、アッバス議長、
米国のブッシュ、クリントン、オバマ、トランプ、バイデンの各大統領。
このうちの何人かは、著者が直接面識があるので、その人物描写とか、人物から得られた印象が鮮明に表現されていて、単なる歴史上の人物としてではなく、一人間としても大変興味深く、知ることができます。

特に、アラファト議長が対米交渉、対イスラエル交渉で「何をもっとも大事にしようとしたのか?」。
それは、アラブの誇りであり、パレスチナの民衆への信義であったこと。
そして、彼が、誇りを大切にして、アラブの英雄であろうとしたからこそ、パレスチナは現実の利益を得られなかったこと、
しかし、そのことを本人も民衆も後悔していないこと。
という指摘は、深く入り込んだ人ならではの分析と感じました。

3 著者の思いは、どこを向いているのか?

本書のメインは、
1 著者がガザ戦争の原因をどうとらえているのか?
2 今後の流れをどう見込んでいるのか?

にあると思います。

1については、
・著者は、国際的に中東問題の解決と和平の向けた機運が高まった点で、1993年のオスロ合意を高く評価しています。しかし、その後の前進は少なく、年月が流れる中で、最終的にはバイデン政権の時代になると、誰もが中東問題への関心を失っていった。このことこそが、ハマスに絶望を与え、ガザ戦争のきっかけになった、と考えています。

・そこに問題があるのに、周りが無関心を装う、あるいは、本当に無関心になってしまうことは当事者に絶望をも与えてしまう、ということを、普遍的な事実として、歴史から学ばないといけないかも(自分の感想)。

2については、
・著者は、ガザに平和が訪れるには、数十年かかるだろうとみています。

最後に、、、、

audibleは4時間ちょっととちょうど良い長さで、内容に引き込まれる感じで、一気に読みました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?