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【エヴァ考察】アダム新劇場版:再訪

今回はこれまでの全てのカオス(アダム考察)にケリをつけます.
それではさっそく全艦発進.

1.死海文書のセフィロトの樹

根元の君の名は.

シンエヴァで登場したこの巻絵のようなものは,一般に死海文書(外典)と理解されています.今回はこの画像下に横たわる人型と、そこから生えているようにみえるカバラーのセフィロトの樹を取り上げます(セフィロトの樹の一般的な説明は「量産機/翼の枚数」を参照ください).

(1)石棺の浮彫

引用したツイートで指摘されている通り,とある古代遺跡のレリーフ(浮彫り)と死海文書の絵は次の点で似ています.ともに何やら縦長の物体の下に人型が横たわる構図が.ちなみにレリーフの詳細は下のものになります.

Wikimedia Commonsより

これはパカル王石棺の蓋にあるレリーフです.石棺は古代マヤ文明の古代都市パレンケの遺跡にあります.少しマヤ文明について確認します.

一部加工して利用.©武揚堂

・古代マヤ文明
紀元前約1000年〜紀元後16世紀の間、メキシコ合衆国南東部〜ホンジュラス共和国西部にまたがる地域で盛衰を繰り返したメソアメリカ文明の1つ.マヤ文明の位置は上記地図のおおよそオレンジ網掛け部分.都市パレンケの位置は★あたり.

・メソアメリカ文明
メソポタミアやエジプトなどと同じ一次文明です.メソアメリカという用語は、マヤ文明がさまざまな社会と関係を結びながら文化を発展させたことを理解するため、より広域の地理的範囲を設定する必要から人類学者ポール・キルホフによって1934年に考案されたもので、今では批判も多いとか.

そしてレリーフを理解するための予備知識をいくつか紹介します.

・死生観
『ポポル・ヴフ』(16世紀)という旧約聖書の『創世記』に相当する古代マヤ人の神話集があります.そこには、生命は死後に地下界で試練を克服すると地上界で再生されるという思想を伝える逸話が残されています.ここでは死と再生の信仰が古代マヤ文明に存在していたということを指摘したい.

・三層の世界
マヤ文明に限らず古代メソアメリカ文明の世界観の基盤で、世界は天上界、地上界、地下界から成り立つという考え.そしてこの三層は地上界に存在する世界樹によって繋がっていると考えられていた(以上、嘉幡2020:40-41参照).

・十字架
マヤ文明にもシンボルとしての十字架が存在し、その起源といわれるのがセイバの樹.マヤ地域全域に見られ、生長すると50メートルにもなる大木です.古代マヤ人が聖木として崇拝した生命の樹のシンボルです(実松2016:78−79).

セイバの樹

また,マヤ文明では天文学が発展しており天空への関心が強かったことと,アニミズム信仰(あらゆるものに霊魂が宿るというもの)をもとに,霊魂を自身に取り込み超自然の力を得ることができると信じられていた,ということも加えておきましょう.

丸で囲ったトランペット

アニミズム信仰ついでに1つ.上の画像はシンエヴァで巨大レイの頭部が爆散し、散り散りになったエヴァインフィニティがさらに様々な生命に戻っていくシーンです(某進撃のあるシーンを彷彿とさせるという指摘がみられます.私も意識していると思います.ともに空から降ってくるのものの、片や人から巨人になるのに対しここでは巨人からヒトになっており,この対比は狙っているはずです).

注目していただきたいのはトランペットがあることです.エヴァインフィニティとは魂を物質化したコアからなる存在でしたから、このトランペットも全身のコアの1部を構成していたことになります.これはつまりトランペットにも魂が宿っていたことを意味します.エヴァの世界は生物だけではなくあらゆるものに魂が宿っているというアニミズム信仰を取り入れていることがここから伺えます.

話を戻し、それではレリーフの意味に移ります.例のごとくいくつか説があるので今回も独断で大きく2つにまとめてみました.

・故パカル王が地下界(冥界シバルバー)に沈んで行く様.あるいはパカル王が冥界から復活している情景を描いたもの(実松2016:89−90).

・パカル王の再生.人身御供ひとみごくうによって誕生した世界樹を登りながら天の川へ旅立ち、イツァムナー神や石棺の側面に彫られた先祖の超自然の力を借りて再生されることを描いたもの(嘉幡2020:64).

上記の天上界と地下界,死と再生,世界樹などエヴァとリンクする内容が見られます.天上界はゴルゴダオブジェクトを連想させますし、世界樹は制作資料だとインパクト跡地に聳え立っていました.以上から石棺のレリーフで指摘したいことをまとめると次のようになります.

①絵の中央の十字物体が世界樹あるいは生命の樹であること
②根元の人型が亡き者であること(死と再生)
③人をにえとして樹が誕生した見方があり得ること

生命の木はセフィロトの樹として死海文書に描かれました.したがって、絵面だけでなく内容的にも本編と合致するので元ネタと考えてよいでしょう.

ところで死海文書のモチーフはもう1つあります.


(2)聖十字架伝説

もう1つの元ネタは(聖)十字架伝説です.内容を簡単に紹介すると,イエスが架けられた十字架に用いられることとなる木材の来歴や、磔刑たっけい後の十字架が起こす数々の不思議なエピソード集です.これらは『黄金伝説』という書物にまとめられています.

『黄金伝説』
13世紀末にイタリアのジェノヴァで大司教を務めたヤコブス・デ・ウォラギネが記したもの(このタイトルは同氏ではなく周りが付けたもの).同書は聖人などの数多あまたの人物の言行や生涯を神話化した聖人伝説です(十字架伝説はそのほんの一部分).ギリシャ神話や中国武勇伝のような神話・英雄伝のキリスト教版で、聖書と同じくらい広く読まれました.

で、その内容ですがエヴァと関係するのは十字架に用いられた木材の来歴です.同書では木が十字架になるまでという順ですが,ここでは順番を逆にして,十字架から木に遡るかたちで紹介します(第64章「聖十字架の発見」を再構成).

キリストの受難(磔刑)が近づいた頃ひとりでに池に木が浮かびユダヤ人がこれを拾い十字架を作りました.
 ↓
浮かんできた木はその昔ソロモン王が大地の奥深くに埋めたもの.そこに自然と池が湧き、その池水は万病に効いたとか.
 ↓
ソロモンが木を埋めた経緯は次の通り.はじめ彼はその木を神殿の建材に用いようとしたが、なぜか正確に切っても尺足らずになるため橋の材木に利用した.しかしシバの女王がソロモン王に会いにいく道中その橋を渡ろうとした際、心眼で世界の救い主が将来この材木に架けられることを見て、これを彼に伝えたというものです.
 ↓
ソロモンが見つけた木は大昔にアダムの子セツが植えたもので、ソロモンが見つけた当初は大木でした.
 ↓
セツが植えた経緯は次の通り.彼が重い病に伏せた父アダムのために地上の楽園の門に行って相談したところ、大天使ミカエルがセツに小枝を与え、植えた木が実をつければ健康を取り戻すと伝えました.実はその枝はアダムが罪を犯す原因となった木の枝(善悪を知る木)でした.セツが戻るとアダムはすでに亡くなっており、彼はその枝をアダムの墓に植えた(カルヴァリーの丘).

ここから指摘したいのは次のことです.

④木の根元でアダムが亡くなっていること
⑤彼の墓に植えた知恵の木が大木となること

死海文書の絵そのままです.


(3)結

以上が,パレンケのレリーフと聖十字架伝説の概要,そしてそれらとエヴァ本編との関連性です.絵的にも内容的にもエヴァとリンクすることから,死海文書の絵のモチーフになっていることがわかると思います.では,得られた①〜⑤を参考にして死海文書の絵を,たとえば次のように読むことはできないか.

①死海文書中央の十字物体は世界樹あるいは生命の樹である
②根元の人型は亡骸(死と再生)
③亡骸をにえとして樹が誕生
④木の根元でアダムが亡くなっている
⑤アダムの墓に植えた木が大木になる
     ↓
・樹の根元の人型はアダムの亡骸である(②④)
・アダムを贄にセフィロトの木あるいは世界樹が誕生(①③⑤)

この理解は,聖書においてアダムの墓があるとされるカルヴァリーの丘が,劇中で南極の基地名に用いられていたことにつながります.

ミサト「呪われたセカンドインパクトの爆心地.カルヴァアリーベースか」

アダムの墓地なのでカルヴァリーの名がついているのでしょう.以上から、新劇場版にも南極にアダムが存在したと考えるのが妥当と思います.



2.生命の樹(十字物体)/世界樹

ここからは少し細かい話になります.上述の考察は新たな疑問を生じさせます.たとえば、

・破脚本の「生命の樹らしき物体」との異同

・世界樹どこいった

(1)2つの生命の樹

1つ目がどういう問題なのかを説明しましょう.まずはお馴染み破の脚本、セカンドインパクト回想シーンからはじめます.

○セカンドインパクトのイメージ描写。(回想)※もっといいイメージを一考。
 南極に巨大な槍が運ばれている。
天を覆う巨大な顔
 背中と頭上に光の輪を持つ4体の光の巨人。お互いの背中から光の尾が伸 
 びている。
 巨大な翼を広げる光の巨人たち。
 赤い海へ変わっていく南極大陸。
爆心地に傾いたままそびえ立つ巨大な十字型の生命の樹らしき物体
 赤い色が海面を染めていく。
 を、見つめる少女。爆心地でのただ一人の生き残った人間。少女時代のミサ
 トである。
 手に父親の形見となった十字のペンダント。
加持の声「15年前に行われた、南極で発見されたアダムと呼ばれる物体の調査。彼女の父親はその指揮を取っていた。その調査中にセカンドインパクトは起こった。君と同じ14歳の時だ」

破全集248頁(太字強調引用者)

この傾いた「生命の樹らしき物体」と、死海文書でアダムの上にある生命の樹とはどういう関係なのかという疑問です.

結論から言うと別物と考えるのがよさそう、というものになります.ここでは2点だけ述べたいと思います.

1つ目は、脚本の「生命の樹らしき十字物体」は5体目のアダムスが変身したものということです.検討済みの問題なので要点だけ述べます(「セカンドインパクトと13号機」).まず脚本の十字物体は「傾いたまま」爆心地に立っていることから,シンエヴァで登場する旧南極のアダムスの十字架,その傾く5つ目のものです.

画像手前の十字

そしてこの十字架のウルトラサイン(エース)からそれは「アダムスの生き残り」(13号機の素体)のものというようにつながります.

死海文書のセフィロトの樹は、樹の左右の者たちがその実を手にしていることから、生命の実がそこから方々に渡ったことの表現として理解できる.

脚本の生命の樹らしき十字物体は“アダムス”の木で実際に劇中で存在したもの.死海文書の“アダム“の生命の樹は絵としての表現.ここでは別物と考えたいということです.

で、この十字物体なのですが旧劇を参考にするとわかりやすいです.引用した脚本の「天を覆う巨大な顔」(おそらくアダム)と十字物体の描写は,旧劇サードインパクトの初号機とリリスのように,「アダムスの生き残り」が十字物体である生命の樹に還元され,巨大化アダムに取り込まれる現象を描写したもの,と.

こんな感じ.26話‘C-375

次に2点目です.そもそも脚本の生命の樹と死海文書の生命の樹の関係という疑問は、死海文書に描かれたカバラーのセフィロトの木が生命の樹とも呼ばれることが招いたものです.もっともエヴァの作中で生命の樹と呼称されるものは旧劇26話‘の初号機と槍の融合物、つまり十字物体のみです.

そこでさしあたりカバラーの方は“セフィロトの木”、劇中の十字物体を“生命の樹“と呼称し分けることで対応することにします.

結局、この生命の樹と呼ばれる十字物体の正体がわからないことが諸々の原因です.現時点では混乱を避けるため両者は別物と扱いたいと思います.この辺りは今後の課題となります.


(2)世界樹設定をめぐって

では,次に世界樹のゆくえです.破のコンテ、Qのイメージボードの段階まで爆心地の跡地には世界樹が生えていました(コンテだと十字物体…).

宇宙からの旧南極爆心地・破コンテ(マーカー引用者)
前田監督のQイメージボード『庵野秀明展』より
同上(下線引用者)

これら制作資料の理解ですが、最初の画像の画コンテではセカンドインパクトの爆心地に世界樹が存在していたことがわかります.そしてこれとの対比で,前田監督のQイメージボードの「天ガイとしての世界樹」(画像下線部)は,Qの舞台が主として東京のネルフ本部であることから,サードインパクトの爆心地を描写したものと考えることができます.

また、劇中及び制作資料でもサードインパクトの爆心地にはリリスの骸がありました.するとセカンドの爆心地にはアダムの骸があったとの推測が立ちます.

以上から当初は爆心地=神の墓となり,そこに世界樹が現れる予定だったことがわかります.先ほどの石棺レリーフや十字架伝説の元ネタを経由すれば制作資料はそのように理解可能です.

次に世界樹を生じさせた制作陣の意図です.どうして世界樹なのか.漠然とした憶測になりますが、Qのフォースインパクトでチラッと見えた十字物体(ゴルゴダオブジェクト)が関係するのではと睨んでいます.

どういうことかというと、このゴルゴダオブジェクトはシンエヴァで「神の世界」と説明されました.上の画像からも感じ取れますが,神の世界と聞いて連想するのは天上界です.思い出したいのは、一般的に世界樹が複数ある世界をつなぐものとして描かれることです(例えば先ほどのマヤ文明では地下界-地上界-天上界の3世界をつなぐ存在でした).

つまり、制作当初はインパクトでガフの扉が開き天上界への通路が現れたことの名残りとして世界樹が描かれたのではないでしょうか.人類補完計画が“神の子“への進化を目的とするならば、その儀式であるインパクトの際に“神の世界“が現れるのもおかしくないわけで、上記画像の絵づくりには得心がいきます(上記画像).

上の画像はシンエヴァ前に天上界=神の世界=ゴルゴダオブジェクトを暗示するもの(伏線?)として世界樹は描かれた可能性はないでしょうか.

さて制作段階はこれくらいに本編に向かいます.世界樹はQでカヲルのピアノの脇に苗木大の大きさになっていたことが判明します(下記公式ツイート).

トネリコとは北欧神話における世界樹(あるいは宇宙樹)ユグドラシルの樹種とされているものです(文末参考文献参照).

制作段階ではセカンドインパクトもサードインパクト同様、神の亡骸の上に世界樹が立つ構造だったことを考えれば、旧南極にもトネリコの木が生えていたことは想定できます.

したがって、同じ上記2つ目の世界樹どこいった問題の回答としては、サイズダウンしたもののインパクト跡地にちゃんと存在している、というものになります.

先ほど世界樹を立てさせた理由をなんとなく予想しましたが、では苗木サイズに変更になった理由はどうか.よくわかりません.仮に制作段階の世界樹を本編にも登場させると、死海文書のセフィロトの樹と混同されるおそれが生じます.これを危惧したのでしょうか.

また、世界樹のモデルも元ネタのパカル王の石棺のレリーフからすればセイバの樹なのですが、北欧神話のトネリコが採用されていることも気になります.北欧神話を引くことに何か意図があるのでしょうか.謎が謎を呼びます.



3.生命の樹の果実

(1)木の実の行方

再び

では次に,アダムが転々とする様子をみていくことにしましょう.具体的には死海文書の中心の樹から,何やら実を取得している左右の陣営?の検討になります.

樹の絵の左に使徒およびエヴァっぽい何かが並び,右には老人?の後ろにエヴァっぽい何かと聖獣が続きます.手にする実が同じ物なのかどうか絶妙に隠されており見る者の解釈に委ねられていそうですが,生命の樹から採れるのは生命の実に決まっているではないか.根元の人型がアダムと分かればお茶の子さいさいさ.

さて左側の列が生命の実を食した存在だとして,右側人類が生命の実を得たというのはどういうことでしょう.途端に様々な問いが発生しそうです.絵の中の生命の実は多分に比喩である可能性があり,この絵だけ眺めていても仕方がない.そこで例えば,それってエヴァの素体を得たということ?と具体的なものに置き換えてみるのが得策でしょう.以下では具体的な劇中のシーンを取り上げて検討していきます.

(2)Mark.06
先ほどは死海文書の右側の老人を漠然と人類と捉えました.左側の使徒に見られる翼を持たないことから知恵の実由来の存在と思われるからです.もう少し具体的な人物を仮定できないか.候補の筆頭はもちろんゼーレです.

破C-303 

画像のMark.06は冬月をして「本物の神」と言わしめるゼーレの新型エヴァです(破C-829D).エヴァの世界で神とは知恵の実と生命の実を備える存在でした.

(23話C-0317)リツコ「人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした.だからバチが当たった.それが15年前〔のセカンドインパクト〕.せっかく拾った神様も消えてしまったわ.でも今度は神様を自分たちで復活させようとしたの.それがアダム」〔〕内引用者補足

(26話’C-0164〜)冬月「使徒の持つ生命の実とヒトの持つ知恵の実.その両方を手に入れたエヴァ初号機は神に等しき存在となった」

つまり死海文書の老人をゼーレと考えた場合、その者が樹の実を得た絵の理解としては、彼らが生命の実を備えたエヴァMarkシリーズを建造したことを描いている、という理解が可能になります.

そしてゼーレがその建造技術を独占したいこともゲンドウらを月面基地に上陸させなかった本編の描写からうかがえます.

このように辻褄が合ってきました.旧作は上記リツコが語るようにアダムを手に入れ損ったようですが、新劇でゼーレはアダムから何やら手に入れている.

(3)4号機事件

破C-807

次に新劇の4号機事件についてです.旧作と異なり余裕のないゲンドウが印象的でした(旧作の話は「量産機の数/翼の枚数」).おそらくこの事件がゼーレによって起こされたことに関係するのでしょう.ゼーレが首謀者というのは次の没シーンから伺えます.

破コンテ

第9使徒の実験と殲滅を兼ねた3号機がアメリカから東京本部に送られましたが、これはゼーレの意図してのことだったと台詞から分かります.すると送られてくるそもそもの原因である4号機消失もゼーレが画策したと考えられるということです.

次に、新劇でも4号機は「稼働時間問題を解決するための新型内蔵主機」の実験機でした.これは旧作にいう生命の実を食した使徒が有する$${S2}$$機関をエヴァに備えさせようとする技術といえます.

先ほどのMark.06同様,生命の実の技術を独占したいゼーレにとって,ゲンドウが$${S2}$$機関類似の機能を備えるエヴァを手にすることは由々しき事態だったはずです.このことから4号機事件には3号機の他にもゲンドウの戦力増強を阻止するゼーレの思惑があったと考えられます.

同上

なお旧作の北米ネルフの実験は第4使徒から得た$${S2}$$機関を用いた実験でしたが、新劇では使徒が形象崩壊してしまうことからゲンドウらが$${S2}$$機関の実物を手に入れていないことが上記コンテの“擬似”から読み取れます.

ちなみにここで気になることが1点.

(破C-814)マヤ「北米ネルフの開発情報は赤木先輩にも十分に開示されていないんです」
ミサト「知っているのは…」

E計画担当責任者であるリツコも4号機に詳しくないことです.E計画とはエヴァ建造計画なのでその責任者である博士にも秘密にしたかったことになります.ちなみに旧作にはこうした描写はありません.

この事実の追加は何を意味するのか.ちなみにミサトが情報を持っていると踏むのは台詞の後カットが変わってゲンドウらが写されることから推測するにゲンドウでしょう.では、彼はなぜリツコを外して実験を進めたのか.

その後の展開を踏まえて考えれば,それは将来彼女と敵対することをゲンドウが見越していたから、となります.ネルフ対ヴィレを予測してあえてリツコに情報を回さなかったのではないでしょうか.

話をゲンドウに戻しましょう.4号機事件の際,彼は沈黙しますが旧作ゼーレのように「血相を変えて」はいない様子.ゲンドウとてエヴァの稼働時間問題を解決したいはずなのに落ち着いています.痩せ我慢なのでしょうか.

それは彼の切り札である初号機の覚醒計画をまだ残しているからではないでしょうか.4号機事件も、「……(やはりそう来たか〜)」というのが心の内だったのでは.

つまりゲンドウとしては,初号機が直接使徒から生命の実を得ることで神の機体を揃える算段だった.これによってMark.06およびゼーレに対抗しようとしています.その両者の対決の1つの結末が、空白の14年のサードインパクトで描かれるはずなので,映像化本当によろしくお願いしますというわけです.

パパのバイザー装着シーン楽しみ

今回のまとめ
・シンエヴァ劇中に登場した死海文書のセフィロトの樹について
モチーフは古代マヤ文明のレリーフとキリスト教の聖十字架伝説
→樹の根本の人型はアダムと推定できる.

・制作資料の世界樹
上記モチーフの名残り&神の世界=ゴルゴダオブジェクトの予告.

・劇中のセフィロトの樹について
樹の右側に並ぶ知恵の実陣営が生命の実を得たとすると本編の諸々がつながる.


今回は以上になります.最後までお読みいただきありがとうございました.
ご意見、感想等あればよろしくお願いします.


・参考文献
青山和夫『マヤ文明を知る事典』(東京堂出版、2015年)
実松克義『マヤ文明』(現代書館、2016年)
嘉幡茂『図説 マヤ文明』(河出書房新社、2020年)
ヤコブス・デ・ウォラギネ(前田、山口訳)『黄金伝説1−4』(平凡社、2006年)
トム・バーケット『図説 北欧神話大全』(原書房、2019年)
クロード・ルクトゥ『北欧とゲルマンの神話事典』(原書房、2019年)
ロベール=ジャック・ティボー『北欧・ゲルマン神話シンボル事典』(大修館、2021年)

画像:©khara/Project Eva.

※追記(2022/8/7、2022/8/17)
「2.生命の樹(十字物体)と世界樹」」世界樹に係る記述を大幅に変更
目次タイトルを変更

※追記(2022/9/25)
「1.死海文書のセフィロトの樹」内のアニミズム信仰に加筆

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