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【エヴァ考察】セカンドインパクトと13号機

今回はタイトルの2つが少し進展したのでその報告です.いつも通り混み入った話になりましたがよろしくお願いします.

1.セカンドインパクトのトリガー

(1)トリガーとは

まずこの“インパクトのトリガー“という用語を確認します.劇中で何回か、例えば次の台詞に登場します.

(破C-1831〜)
加持「数が揃わぬうちに初号機をトリガーとするとは.碇司令…ゼーレが黙っちゃいませんよ」

(Q・C-0809)カヲル「一度覚醒しガフの扉を開いたエヴァ初号機は、サードインパクトのトリガーとなってしまった」

前者はニアサー、後者はサードインパクトについて言っています.2つのセリフからどうやらインパクトが起きるところにトリガーあり、となりますがもっと言えばトリガー=引き金ということからして、インパクトをもたらすのがトリガーという存在と言ってしまって構わないでしょう.

そうなると、セカンドインパクトにもトリガーは存在したはずです.以下ではセカンドのトリガーについて検討していきます.

(2)アダムス

セカンドのトリガーについてとりあえず真っ先に思い浮かぶのは破のセカンドインパクト回想に登場したアダムスです.これについてマリが13号機を「アダムスの生き残り」(Q•C-1302)と認識していたことからはじめたいと思います.

マリのこの一言から、この世界では基本的にアダムスは失われた存在である可能性があります.マリはシンエヴァでNHG戦艦をアダムスたちと言いましたが、これらはアダムスのむくろを再利用して造られたと考えることができます.

つまり、アダムスは元々何体いたのか問題において、NHGはカウントしない立場に与するということです.

また、「生き残り」ということからセカンドインパクトで4体のアダムスと共に消えるはずだったがそうはならなかった1体が13号機の素体だったと推測できます.

さらに、次の諸々を総合するとこの「生き残り」がセカンドのトリガーだったことがみえてきます.

(1)脚本のセカンドインパクト回想シーンでは4体のアダムスとは別に、「爆心地に傾いたままそびえ立つ巨大な十字型の生命の樹らしき物体」(破全集248頁)の存在が確認できます.

(2)その物体はシンエヴァ本編で5つ目の傾いた十字架として登場します.その先端にウルトラマンエースのサインがあります(下記画像①).ウルトラマンエースは2人で変身するウルトラマンで、そのことが13号機のダブルエントリーとつながります.また、カヲルのプラグスーツ背部に「A」(エース)が印されていることも傾いた十字架と13号機をつなげます.

(3)生命の樹について.旧劇サードでは初号機が生命の樹に還元されて巨大化リリスに取り込まれる様子が描かれました(画像②).

(4)また新劇サードでも巨大化かつコア化したリリスの骸からサルベージされた者の存在が明らかに(画像③).それが初号機であり、同機体がサードの際に生命の樹となって取り込まれたと推測することは容易いでしょう.

画像①
画像②
画像③エヴァQ「新ネルフ本部 イメージボード」『庵野秀明展』

インパクトの際、生命の樹となって巨大化した神に取り込まれる者はトリガーの可能性が高いわけです.

したがって,セカンドで生命の樹になった「アダムスの生き残り」はトリガーだったと考えられるのです(取り込まれた先の巨大化した神も想像がつきます).そしてサードのトリガーについても,リリスに取り込まれていたのは初号機だったと推測できます.以上の議論はその多くを製作段階の資料に負っていますが、これについては記事の末尾で触れたいと思います.

話を戻すと、サードのトリガーが初号機という一応の結論を得られたわけです(問題の詳細は「第11使徒/マリの正体(仮)」の2).これでようやく次の台詞が素直に理解できることになります.

(Q・C-0809)カヲル「一度覚醒しガフの扉を開いたエヴァ初号機は、サードインパクトのトリガーとなってしまった.リリンのいうニアサードインパクト.全てのキッカケは君なんだよ」

(Q・C-1151)アスカ「ガギシンジ、またサードインパクトを起こすつもり?」

なお、シンエヴァの紫色の生命の樹らしき十字物体が,エヴァイマジナリーに取り込まれた可能性については「インパクトの方術試論」で考察しました.


2.セカンドインパクトの内容

引き続き上記に関連して、シンエヴァでNHGシリーズが次々光の翼を発生させているのを見たミサトとリツコの台詞が気になってきます.

ミサト「まさか、光の翼?セカンドインパクトと同じ方術でフォースを起こすつもりなの?」
リツコ「いいえ、ガフの守人として建造された船はトリガーにはできないはず.それに黒き月を取り巻く事象は計画とは違う.これはゼーレのシナリオにない、私たちの知らない儀式よ」

というのも、光の翼を生じさせるNHGシリーズを見てミサトが引き合いに出すのはセカンドインパクトであってサードではない,ということ.これには理由がありそうです.それはサードになくてセカンドにあった…たとえばアダムス4体が挙げられるでしょう.そしてこの4体に関連して、NHGがトリガーに使えない旨のリツコの返答は、翻ってミサトがこのときNHGをトリガーと見ていることを示唆します.つまり、ミサトの理解ではセカンドインパクトのアダムス4体はトリガーだったという推測が立ちます.そうするとあれれなんだかトリガーがいっぱい.

混乱しそうですが,実はこれを理解する糸口になるのがQのフォースインパクトです.

(Q・C-1339)ミサト「なんとしてもフォースの発動を食い止めるのよ!」

(Q・C-1325,1326)カヲル「フォースインパクト.その始まりの儀式さ」

指摘しなければならないのは、2人の台詞から示唆されるようにQで13号機の覚醒が招いた一連の結果はフォースインパクトに含まれるということです.これはシンエヴァで各インパクト回想シーン(1:35:20あたり)にQのインパクトが含まれていることにも表れています(さらにここでニアサーがサードに含まれていないことも伺えます).Qのラストはアスカの強襲に始まり様々なことが立て続けに起こってわかりにくいのですが、あの場面で注目したいのは地上に姿を現した黒き月です.

つまり、フォースの内容というのは「黒き月の復活と魂の浄化」ということではないか.これらを達成するのにインパクト2回分のエネルギーが費やされた.そしてインパクトと月は何やら関係がある.

では,セカンドインパクトに話を戻します.このフォースの理解に寄せてセカンドの内容を考えてみます.公式Twitterで白き月の存在が明らかになったことは覚えているかと思います.すると、セカンドインパクトの内容とは「白き月の復活と海の浄化」と考えることはできないか.

あー貴様やったな、計ったなと思われる方もいるかと思いますが(詳しくは「君の名は」)、とりあえずこれでアダムス4体をトリガーに白き月の復活を、1体をトリガーに海の浄化をそれぞれ起こしたという推測ができます(組み合わせは逆かもしれませんし、それらが同時に起きたのかも不明なので緩く考えたい).先ほどのトリガーがたくさんというのは、目的が複数あり多くのエネルギーが必要だったからといえそうです.

セカンドインパクトについては以上になります.個人的には見通しがよくなったのですが皆さんはどうでしょう.

蛇足ですが今後の課題として1つ.Qで格子柄となった白き月(コンテではコア化).上述フォース、セカンドと続いて、サードインパクトには白き月が関係した可能性がより明確になったのではないでしょうか.いったい何があったのか.

Qコンテ(マーカー引用者)


3.13号機について

続いて13号機です.素体がアダムスであることはマリの台詞もあって指摘してきたところです.くわえて腕が4本、眼も4つあることから素体に2体用いられている可能性も指摘されてきました.素体2体説については未だ一般的な説明がないと思われ、以下で少し検討してみます.(→完成版「13号機とシンクロ」)

まずは『3.333』映像特典の前田監督のイメージボード集です.ゲンドウらのいる基地で、ある機体が2つの異なる性質を持つよう描かれます.Qで新登場する13号機とみていいでしょう.

本編でいえばゲンドウがその少年とこのエヴァに乗れあたりか
ついに完成あたり.この後カヲルくんと搭乗

わざわざ色分けされるほど強調される異なる性質となればその候補はリリスではないか.そこでリリス=ユイという説を紹介します(下記動画8:25辺り).いささか乱暴に要約すると、ユイが神の世界にいたこと、Qの巨大レイの頭部に向かってユイと語りかけていたような描写からユイは神であるリリスというものです.

ユイが本編で裏に押しやられつつも要所要所で存在感を出すことに説得力を持たせます.もっともここで紹介したのは次の画像がつながるからです.

ユイがリリスならば、13号機の収納された両腕のポーズと手の甲の描写がユイのそれと著しく似ていたことがつながります.13号機の素体はアダムスとリリスということになりそうです.

また,そのように考えることで,13号機の装甲が初号機カラーなのはリリス由来だからという説明が可能となり,翻って新劇でも初号機の素体はリリスと考えられ、エヴァインフィニティが紫色なのも黒き月つまりリリスに由来するからでしょう.Qで14年間誰も侵入できなかったリリスの結界を13号機が突破できることも説明つきます.やはり,素体はリリスということでよさそうです.

(Q・C-1054)カヲル「これ〔結界のこと〕を突破するための13号機だからね」
〔〕内引用者補足

今回は以上になります.最後まで読んでいただきありがとうございました.
感想等あればよろしくお願いします.

それでは製作資料の扱いについて触れたいと思います.そうした資料を無批判に考察の根拠とするのは不安だと考える方もいるかと存じます.本編に採用されていないからでしょう.もっとも用いる資料が没になった理由はそれぞれです.それが内容上の変更を伴う没なのか、それとも単に尺の関係や流れの良し悪し等の内容上の変更を伴わない没なのか.言わずもがなそのいずれなのかの判断は以下で見るようにほぼ不可能です.
たとえば上記“イメージボード“.アニメ製作に関わったことがないのでなんとも言えませんが、庵野さん自ら師匠の1人として挙げる宮崎駿さんはイメージボードの作業をスタッフ共通の世界の原形を作るものと位置付けています(『出発点』58頁(1996年、徳間書店)).別のところでは「準備段階で、大雑把な方向や雰囲気を決めるために描くもの」とも(『もののけ姫』のあとがき(1993年、徳間書店)).彼に大きく影響を受けていることは庵野さん本人の弁です(「鈴木敏夫と庵野秀明の対話」『 風の谷のナウシカ』所収の音声特典).ここでも参考にしていいでしょう.もっとも宮崎さんの場合、脚本絵コンテより前の作業になるので本編からさらに遠のく資料といえますが、庵野さんの場合はNHKドキュメンタリーの熱海合宿では脚本決定稿を踏まえたイメージボード作成の様子が伺えるのでその位置付けは曖昧かもしれません.
また事態を複雑にさせるのは庵野さんの他に何人ものスタッフがイメージボードに従事していること(たとえば前田さんの他に串田さんも).さらに、世界観を支える背景となる基本設定について庵野さんはスタッフにあまり明かさないことです.破全集インタビューにはアフレコ現場でスタッフにも秘密の設定を声優に明かしその場にいたスタッフが驚愕したエピソードがあります(今のところ石田彰さんと坂本真綾さんがこれに該当か).そこから伺える情報秘匿度の高さから、軽く話題になった舞台挨拶、坂本さんがマリの秘密を墓まで持っていく騒動にも納得いただけるでしょう(その様子はこちら).
少し話が逸れましたが、以上から資料が本編に絵として現れていないことに触れることが途方もないことがわかると思います.資料を用いる側は当然内容変更を伴わないものとして扱っているのでそれを考慮して読んでいただければと思います.私自身としては内容変更を伴うものか否かの吟味を省略しているわけですが、それは当該資料を云々する大変さもありますが、1つは本編を理解するのに遠すぎる資料をわざわざ末端の我々の前に出さないだろうというある種の予測や信頼があるからです.ある程度作品の形になっていくまでに膨大な没の山が築かれていることが明かされています(樋口真嗣談.NHKプロフェッショナルアマプラ
前編24:20辺り).その中からたとえば『庵野秀明展』で個々の資料が展示される理由を想像すれば、この案が本編であのようなカタチになったそのプロセスを示す史料として価値があるからでしょう.たとえば下記画像のように2号機と8号機の飛行ユニットの展示は、上述前田イメージボードで描かれたセントラルドグマでのエヴァによる空中戦らしきものが庵野さんの案といった理解に資すると考えたから.我々の目に触れる資料はある程度本編に関係のあるものが選ばれているわけです(全集の編集がただならぬ作業であることも想像できます).
もっともそのような信頼は信用に足らないといえばその通りです.なので個人的には資料自体の吟味よりもその資料を用いて出来上がった解釈の出来不出来から資料の扱いも判断してよいのではと考えています.たとえば上の解釈が本編の他の事実と整合性がとれたり、新たな事実の解明につながったりすれば翻って当該資料の設定は採用されているという感覚です.すると資料の扱いに引っかかった読者にもやもやしたまま読み進めてもらうため、ある種負担をかけることになる点は申し訳ないと思いつつも、資料云々で文章が読みにくくなることをより危惧した結果であることに配慮いただければと思った次第です.
結局何が言いたかったというと皆さんも各自お手元の資料があるならためらうことなく積極的に考察に用いていきましょうということです.最後に、その際注意したいのがなるべく使用する資料は庵野さんが直接関わっているものに限ることです.理由は上述した通り本編に関わるスタッフすら基礎情報を知らされていないのに、庵野さんが関わらない資料はさらに心もとないからです.

マーカー引用者



画像:©khara/Project Eva.

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