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【エヴァ考察】 君の名は

今回はこれまで少しずつ触れてきた新劇場版のアダムに関する考察をまとめます.過去の記事と多少重複する部分もありますが、新しい内容を盛り込み刷新できたので最後まで読んでいただければと思います.
なお以下ではセカンドインパクトをセカンドと略します.

1.『:破』の脚本とカルヴァリーベース

アダムは新劇場版でその名が出てくることはついにありませんでした.しかもセカンド回想シーンで南極に登場したのはアダムではなくアダムスであったため、その存在自体が危ぶまれています.アダムスはアダムにとって代わる存在なのか等、諸説生まれて考察の対象になってきました.もっとも多くはアダムスの考察で、アダムはその裏に隠れていつしか忘れ去られたように思います.

とはいえ、脚本ではセカンド回想シーンに登場します.再び引用しましょう.

○セカンドインパクトのイメージ描写。(回想)※もっといいイメージを一考。
  南極に巨大な槍が運ばれている。
  天を覆う巨大な顔
  背中と頭上に光の輪を持つ4体の光の巨人。お互いの背中から光の尾が伸 
  びている。
  巨大な翼を広げる光の巨人たち。
  赤い海へ変わっていく南極大陸。
  爆心地に傾いたままそびえ立つ巨大な十字型の生命の樹らしき物体
  赤い色が海面を染めていく。
  を、見つめる少女。爆心地でのただ一人の生き残った人間。少女時代のミサ
  トである。
  手に父親の形見となった十字のペンダント。
加持の声「15年前に行われた、南極で発見されたアダムと呼ばれる物体の調査。彼女の父親はその指揮を取っていた。その調査中にセカンドインパクトは起こった。君と同じ14歳の時だ」

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 全記録全集 設定資料版』248頁(太字強調引用者)

おそらく「天を覆う巨大な顔」がアダム、「4体の光の巨人」がアダムス、傾いた生命の樹がアダムスの生き残りだと考えられます.また、視点を変えて制作スケジュールを加味すると、序の次回予告にアダムス4体が登場しており、上記脚本は序の制と同時期あるいは序の完成後のものです.

そこから、制作者の中ではアダムとアダムスは同じ絵に一緒に映ることが可能な、互いに別の存在であることがわかります.旧劇のアダムは新劇でアダムスになった、と単純には片付かない.

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ミサト「呪われたセカンドインパクトの爆心地、カルヴァリーベースか」

シン・エヴァ、旧南極爆心地跡でのセリフです.カルヴァリーとは聖書ゆかりの地でゴルゴダの丘を指します.そこはイエスはりつけの場でありアダムの墓があるとされる場所.しかも現実にある位置(現イスラエルのエルサレム)ではなく、旧作でアダムが発見された旧南極にあるのがポイントです.これが劇中唯一、直接アダムにつながるキーワードになります.
シリーズの最後に出してくるあたりが憎いですね.これでアダムの存在が濃厚になったといえるでしょう.

3.『:破』のコンテと白き月

もう少し制作段階を探ります.次のコンテはセカンド回想シーンのものです.

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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 画コンテ集』マーカー引用者

先ほどの脚本と合わせると、旧劇ラストで巨大レイの血が月に飛んだのと同じ事が新劇のセカンドでも起きたと想像つきます.「天を覆う巨大」アダムの血しぶきが月まで届いた.少なくとも制作初期段階ではそのような設定があったといえそうです.

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さて本編に移り、次の画像の月面の赤いものは南極の巨人の血糊ちのりと考えられそうです.2枚目では血糊が巨人に続いているように見えます.

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ところが月に関して公式が次の情報をリークしたのは周知かと思います.

Qで出現したこの格子柄の月が実は白き月だったのです.エヴァで白き月といえばもはや固有名詞.黒き月がリリスの卵であるように、白き月はアダムを中に入れた容器であり、旧作では南極の地下に埋まっていてセカンドの際に消失したという設定がありました.

これに対し新劇では地球の衛星となっていた.そして、空白の14年を経て格子柄が付いたものの月面の凹凸模様からは実際の月と同一視できます(たとえば下記Tweet).すなわちQ以降の月は序・破と同じ月と考えられます(『序』の月面「静かの海」(1.11特典)は実際の月にもある場所).

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さて、どのように理解することができるか.いったん上記血糊のコンテは忘れて、まずはセカンド回想シーンで地球から飛び出たように見える次の画像の黒い球体を白き月と考える理解はできないでしょうか.

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破コンテ

もっとも画像箇所は、コンテで「上空に黒い穴」(C-401)とあります.映像では球体のサイズが爆速で膨張していたので白き月ではなさそうです.むしろQのインパクトの際、ガフの扉の向こう側に現れるものを宇宙から見た描写に思えます(下記画像).

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それでは次に、Qの黒き月のように白き月が地表にり上がり最終的に地球の外まで移動したと考えられないか.旧劇を踏まえればあり得る話です.

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(26‘話C-304A〜C)
シゲル「エヴァシリーズおよびジオフロント、E層を通過。なおも上昇中」
MAGI「現在、高度22万キロ……F層に突入」

このように旧作の延長で理解することで新たな設定を持ち込まずに済むことは利点です.というのも、上記コンテの血糊のかかる月を白き月と考えた場合、いろいろと旧作にはない設定を持ち込まないと理解が難しいうえに、その設定の追加・変更にどのような経緯あるいは意味があるのかにも気を配らなければなりません(例えば一般的な旧作の理解からすれば、新劇では白き月は衛星になったのだから黒き月が先に地球に到着したことになりリリスがこの星の正統な継承者となる点どう考えるのか等).これでは真実から遠ざかる気がします.したがって上記血糊のコンテとつなげる理解はせず、上記コンテは衛星が白き月となる前の設定に基づいたものと考えます.

そうなるとどうしてそのような没案をコンテ集に載せたのか問題になりそうですが、月の赤い血のようなものが旧南極やセカンドに関連することを示す編集者の配慮と理解します(そうした理解を踏まえた以前の考察が下記リンク).

他方で、白き月は南極から移動してきたと理解する見解については、旧作から変更された理由が問われます.おおよそあたりはついているのですがまたの機会にまとめたいと思っています(記事になりました.末尾に添付).

3.アダム、EVA Mark.06そして第12使徒

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さて月の巨人はMark.06になり、真のエヴァンゲリオンと謳われます.

(破C-0829C)
ゲンドウ「——真のエヴァンゲリオン」
ゲンドウ「その完成までの露払いが、初号機を含む現機体の務めというわけだ」
冬月「それがあのMark.06なのか?」
(破C-0829D)
冬月「偽りの神ではなく、ついに本物の神を創ろうというわけか」

とにかくそれまでの機体とは異なるようです.

(破C-0303)
ゲンドウ「Mark.06の建造方式が他とは違う」

この違いは例えば「6号蘇生現場」(破全集94頁)、月のクレーターの壁面にて「発掘途中の巨人」(下記引用箇所)と描写されるように、月の巨人は一から作られたのではなくすでにそこに存在したもので、これに手を加えエヴァの形に整えるといったニュアンスがあります.また次の序の初期脚本にも注目します(追記①).

場所は月面、月の裏側である.(中略)
後方のクレーターの壁面から発掘途中の巨人(シルエット)が見える.
まるで巨大な墓を暴いているかのように見える.下半身は何かの保護材で包まれている状態.
顔にはリリスと同じゼーレの面.

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 全記録全集』382頁(太字引用者)

巨人がむくろであることが読み取れます.強引ながらこれまでの記述をつなげると、かつての南極にアダムが存在した、そのアダムは骸状態であり、その場所に存在した基地にはアダムの墓を意味するカルヴァリーという名が付いた(あるいはセカンドで骸になった).その爆心地から宇宙に移動した白き月、その月に横たわる後に真のエヴァとなる巨人.

……この巨人はアダムではないだろうか.南極でお亡くなりになり、その骸は月ごと宇宙に運ばれた.再起不能状態のため「蘇生」という表現が、完成品・既製品だから「発掘」という表現が与えられるのです.そしてカヲル君が同じ場所でしかも第1使徒として目覚めたのもこの巨人がアダムだと腑に落ちるでしょう.このように多くがつながっていくのです(とはいえ巨人がアダムスである可能性は排除できません.もっともアダムスと解する旨味を現時点では見出せないのでアダム説を推します).

さてそのアダムがMark.06になるわけですが、「真のエヴァンゲリオン」につながりそうです.

赤木ナオコ「アダムより人の造りしもの、エヴァです」(21話C-142)

聖書には神がアダムの肋骨からイヴを作ったという有名な逸話いつわがありますが、聖書ではイヴ(英語表記Eve)とエバ(ギリシャ語表記Eva)は語源を同じくする同じ意味の言葉です(日本の聖書ではイヴではなくエバ表記だとか).上記台詞に表れるエヴァの設定はこの聖書のくだんに負っています.

ところが、実のところ新劇場版のエヴァはほとんどがアダムス由来なのではないか(下記リンク).そうだとすれば上記設定があてはまる旧作の意味でのエヴァンゲリオンはMark.06だけとなります.唯一のアダム由来の機体.ゆえに「真のエヴァンゲリオン」という理解が成り立ちます.

以前、月の巨人=イヴ説を紹介させていただきました(上記リンク「アダム家とリリス家」の3).似たようなものですが今回あらためてアダム説を唱えたいと思います.月の巨人はあくまでアダムで、アダムからエヴァ=イヴを造ったと理解する方がより聖書に忠実だからです.また、旧作のエヴァがアダムのコピーから造られていたのに対し、Mark.06はアダムのコピーではなくアダム本体から造られたイヴであった.上述冬月先生の言葉の通り、偽り(コピー)ではなく本物の神をもとに造られた.Mark.06は聖書のイヴ誕生に準えることのできるただ一つの機体.聖書通り=“真の“.この意味でも真のエヴァンゲリオンなのでしょう.

Mark.06をイヴと捉えることを勧めたい理由がまだあります.すなわち、聖書でアダムから造られたイヴがアダムとは別の存在であることを踏まえれば、もはやMark.06は第1使徒とは認識されないことになります.アダムに装甲を被せた機体がQで第1使徒ではなく第12使徒として認識されていたことの理解に資するのです.


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話が変わり、以前、画像手前の5つ目の十字柱をアダムである可能性を指摘しました(下記リンクの2).慎んで訂正したいと思います(この柱は13号機の素体となるアダムスのもので、倒れているのははりつけから脱した“生き残り“を表す).

次に、この場にアダムがいたのならば、下の画像でアダムスたちに覗き込まれているは葛城親子でない可能性が多分に出てきます.アダムかアダムスの生き残りとなる者の目線なのでしょうか.

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4.14年越し

最後に.エヴァファンであれば必ずお世話になったといっても過言ではないこの方が、昔取りあげていたリリスの仮面問題.動画は、セントラルドグマの巨人の仮面が新劇と旧作で異なっていることと巨人の正体の関係を問うものです.直接月の方の巨人まで取り上げるものではありませんが、ほぼ答えに辿り着く考察を披露されており今なお興味深いです.
内容を簡単に紹介すると、旧作ではドグマの巨人は物語終盤でリリスと判明するまでアダムとされていました.カヲル君ですらこの巨人を目の前にして直ちにリリスとは気づけませんでした.このことと、新劇ではじめからリリスと紹介される巨人の仮面が使徒と同じものであることを合わせれば、旧作の仮面はアダムと誤認させるためのもので、本来アダムが付けていた仮面だった.

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ここまでお読みになった方はわかると思いますが、新劇では、実はこの設定にならい、旧作のリリスの仮面をしっかりアダムに装着させていたのでした.これは動画でも述べられている通り新劇ではリリスをアダムと誤認させる筋書きがないためでしょう.今となっては製作陣がヒントを出していたのですが、どうしてなかなか気づけないものです.シン・エヴァで情報が集まったことで、ようやく序以来の謎に答えが得られたのではないでしょうか.

新劇場版を観て、アダムどこ行ったと思った方の参考になればと幸いです.


今回は以上になります.最後までお読みただきありがとうございます.

本記事の姉妹編はこちら

また、本記事に始まるアダムシリーズの完結編はこちら

画像:©khara/Project Eva.

※追記①(2021/9/18)
月の巨人について序の初期脚本から引用を追加.

追記②(2021/9/26)
「3.『:破』のコンテと白き月」を大幅に修正


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