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【エヴァ考察】量産機の数/翼の枚数

今回は旧劇サードインパクト周辺と光の翼の2本立てです.

1.ゼーレのシナリオ修正

(25話’C-656)ゲンドウ「ゼーレのシナリオとは違いますが——」

旧劇ではすべてはゼーレのシナリオ通り…には進まなかったようです.旧作の謎が解かれぬまま始まった新劇場版の完結後も、相変わらず謎であり続ける彼らのシナリオ.当初の計画が不明なうえ、ここで彼らが指示する修正シナリオも結局ゲンドウの計画が横槍的に絡んでくるためその内容の把握は難しいです.

今回そんな彼らのシナリオに接近する方法として、それを修正することになった原因から探るといったことを試みます.劇中でゼーレにとって不都合な事態はいくつかありました.ロンギヌスの槍を失ったことや初号機の覚醒などです.

その中でも量産機の数が足りないことからアプローチしたいと思います.

(26話‘C-40)ゼーレ09「いささか数が足りぬが、やむをえまい」


(1)足りない原因

まず、エヴァ量産機は$${S^2}$$機関を搭載する機体でした.$${S^2}$$機関とは永久機関であり、生命の実を与えられた使徒に備わる機関という設定です.これにより使徒は強力なパワーと永遠の命を持つということでしょう.

(25話‘C-402)冬月「$${S^2}$$機関搭載型を9体全体投入とは.大げさすぎるな」

さてゼーレが足りないと言った原因に4号機事件が考えられます.

(17話C-20,21)マヤ「エヴァンゲリオン4号機ならびに半径49キロ以内の関連研究施設は全て消滅しました」
シゲル「タイムスケジュールから推測してドイツで修復した$${S^2}$$機関の搭載実験中の事故と思われます」

4号機は$${S^2}$$機関を初めて搭載する機体でした.したがって、その実験の趨勢は同じく$${S^2}$$機関を備えることになる量産機に影響するはずです.したがって北米での実験は量産機を用いるゼーレにとって重要なものだったと言えます.

台詞の「修復した$${S^2}$$機関」とは第4使徒戦で入手したもので、このサンプルが基地ごと消えてしまった結果、量産機の生産にも遅れが生じた.ということが推測できます.

3話C-326.ほぼ元型をとどめた使徒の亡骸を回収していた

北米の実験が重要であることは次の台詞にみられます.

(17話C-120以下)
冬月「4号機の事故、委員会にどう報告するつもりだ?」
ゲンドウ「事実の通り、原因不明さ」
冬月「しかし、ここに来て大きな損失だな」
ゲンドウ「4号機と第2支部はいい.$${S^2}$$機関もサンプルは失ってもドイツにデータが残っている.ここと初号機が残っていれば、十分だ」
冬月「しかし、委員会は血相を変えていたぞ
ゲンドウ「予定外の事故だからな」
冬月(冷笑含みで)「ゼーレもあわてて行動表を修正してるだろう」
ゲンドウ「死海文書にない事件も起こる.老人にはいい薬だろう」

この「委員会」とは人類補完委員会であり、その実態はゼーレとほぼ同義です.彼らの焦りが伺われます.

それにしてもゼーレと異なりゲンドウには余裕があります.その様子から事故は彼の計画にとって差し支えのないものだったことがわかります.ゲンドウにとってネルフ本部(MAGIオリジナルとリリス?)とユイを取り込んだ初号機が必要であり($${S^2}$$機関も初号機が後に取り込むことですし)、量産機は彼の計画に必要ないのでしょう.

ちなみに4号機事件の首謀者をゲンドウと理解するのはむずかしいかもしれません.たとえばゼーレを邪魔したいのなら上述ドイツに残る$${S^2}$$機関のデータを抹消しない不徹底さが気になるからです.仮に彼が首謀者なら、基地ごと吹き飛ばす暴挙に出られるのでドイツのデータを消すこともやってのけられそうですし、自身の計画に必要ないものならなおさらだからです.

ちなみに4号機事件は量産機不足の伏線だけでなく、3号機が日本に押しつけられる口実としても物語上機能します.ストーリーが緻密に作り込まれていることが伝わります.


(2)セフィロトの樹

さて量産機の数は足りないものの、本編ではロンギヌスの槍が戻ったことで初号機と9体の計10体でサードインパクトを起こします.そして空中にカバラーのシンボルである生命の樹が現れます.

26話‘C-64

カバラーとは…(「説明しよう!!」)
12世紀以後形成された秘義的教理を持つユダヤ教神秘主義です.神は名前も形もなく捉えることのできないエンソーフ(無限)とされ、神との結合を目指すのがカバラ主義者.そして人が神と結合するための段階を描いたものが生命の樹.

この生命の樹を構成する10のセフィロートは神からの流出物の器(セフィロートで構成されるのでセフィロトの樹ともいわれる).各セフィラー(セフィロートの単数形)をつなぐ経路には神聖なるエネルギーが流れています.また、生命の樹は神の物質界への降下を描いた地図であり、人間が肉体を持ったまま神の元へと上昇する道でもあります.

さらに、10のセフィロトあるいはそれが構成する生命の樹は全体で神を意味したり(ローズマリ2006、2016)、アダム・カドモンをあらわしたりします(グスタフ2004).アダム・カドモンとは天界の人間で、アダムとエヴァとは異なり完璧な状態の存在で人の根本的元型とされています.

以上の説明は、後掲する参考文献の記述を筆者が独自にまとめたものであること記しておきます.気になる方は各自で確認してみてください.

話をエヴァに戻すと10機のエヴァで描いた生命の樹はアダムカドモンあるいは神を再現し、神とつながることを目指すものだったといえます.

26話‘C-141

(26話‘C-139,140)
シゲル「エヴァシリーズのATフィールドが共鳴
マコト「さらに増幅しています」
冬月「レイと同化し始めたか」

26話‘C-375

以前指摘しましたがリリスはこの世界では神のような存在なので、上記量産機が巨大化レイ(リリス)と同化したことや、初号機がレイに取り込まれる描写は、これまでの説明からすると神との結合を意味します.このように旧劇のサードインパクトの描写はカバラーの思想を背景に理解できることになります.

また、槍が融合した初号機からなる生命の樹が逆さまとして描かれるのも、カバラーの生命の樹が神のエネルギーが降下し物質世界に流れる図として描かれていることに関係しています(いわば栄養と水が天から運ばれるため根が上になっている).

26話‘コンテ(マーカー引用者)
OPのこれも.下が枝と葉.

なお旧劇サードのセフィロトの樹は実は上下逆さまなのですが、これは「クリフォトの樹」を表しているといわれます.これについては調べきれなかったので今回はその指摘にとどめます.

アタナシウス・キルヒャー『エジプトのオイディプス』(1652)の生命の樹.本来はこの向き.



(3)本来の数

話を戻し、「数が足りない」として本来量産機は何体の予定だったのか.

(23話C-275)以下の男はともにゼーレ
男E「エヴァンゲリオン、すでに8体まで用意されてつつある」
男F「残るはあと、4体か」

この台詞をめぐり諸説あります.例えば上記12体にネルフのエヴァは含まれるのか否かで見解が分かれたりします.わたしの結論は量産機は本来12体造られる予定だった(あるいは11体).

これは新劇を参考にしたものです.新劇ではインパクトを起こす際に儀式の祭主である神を再現していました.具体的には巨大化レイ(リリス)を再現していて、その翼12枚を模した12の光の翼またはエネルギー流を発生させます(「インパクトの方術試論」で引用の資料参照).

それと同じことをゼーレは旧劇で行おうとしていたと予測できます.これは、実際にインパクトで行われたカバラの生命の樹の再現が神の再現だったことからも、そうした推測を支えるでしょう.

もっとも11体か12体か曖昧なのは初号機の扱いに困っているからです.例えば「悠久の時を示す赤き土の禊」としてエヴァシリーズが$${S^2}$$機関を解放して衝撃波を放つ際、初号機の$${S^2}$$機関も同じく解放していたのかよくわからないため、初号機が量産機と同じシリーズ扱いなのかまだ判断つかないのです.

ちなみに12という数字は聖書では特別な数字です.たとえば12小予言者、イスラエル(族長ヤコブ)の子12部族、12使徒などで登場します.いずれかに掛けているかもしれませんが、特定できない現状で今のところ魅力的なのが上述12枚の翼となります.


(4)アダム・カドモン新劇場版

本来前半はここまでですが、せっかくなのでアダム・カドモンに関しもう少しだけ.カバラーでは、神が自らの姿に似せて造ったのがアダム・カドモンです.また、アダムらの楽園追放と地上への堕落を境に〈アダムとエヴァ〉と〈アダム・カドモン〉は区別されます.具体的にはアダム・カドモンは両性具有に加えて完璧な状態という扱いで、アダムらは不完全といった具合です.

そして聖書には神がアダムのあばら骨からエバを造った逸話がありました(創世記2:22).ここから私の解釈になりますが、このエバ誕生の逸話と上の話とつなげるとアダムの肋は欠けているが、アダム・カドモンは完璧ゆえに肋は欠けていないという解釈が可能です.

何の話かお気づきかもしれませんが、エヴァの腹部装甲が3枚の機体と2枚の機体がありました.この違いはアダム・カドモンとアダム(エヴァ)の違いを意味するのでは、と指摘したいわけです.

Q・C-1346

装甲が3枚の機体はパッと思いつくだけでMark.06、アダムスの器 、13号機です.これらの機体はそれまでのエヴァと異なり使徒の力を備えている点に特徴がありました(例えばQの13号機は2号機8号機と異なり充電不要).つまりこれらはアダム本来の力を備えた完璧な機体.

これに対しネルフのエヴァはそれが欠けた不完全な機体といえます.「真のエヴァンゲリオン」の誕生を望むゼーレがそれまでの機体を軽視する理由はこの性能の違いだったのかもしれません.

破C-1861

(破C-0828D)ゼーレ03「試作品の役割は、もはや終わりつつある」
(破C-0829D, E)
冬月「偽りの神ではなく、ついに本物の神を創ろうというわけか」
ゲンドウ「ああ.初号機の覚醒を急がねばならん」

また、アダムとリリスは聖書ではそれぞれ男性と女性であり、エヴァの世界では神に性別はないためそれぞれ生命の実と知恵の実を象徴する存在でした.するとアダム・カドモンの両性具有がエヴァで意味するところは、生命の実と知恵の実の両方を備えた存在ということになります.

上記台詞では、ゲンドウが覚醒によって初号機を生命の実を備えた機体にし、もってMark.06に対抗しようとする意図がよりはっきりと見えてきます.この構図を踏まえると、破の最後は片腕を失い満身創痍ながらも使徒を取り込み神同等の存在となった初号機と、満を持して月から降下するエヴァの完成形といえるピカピカの新型Mark.06の初顔合わせのシーンは、対照的なパイロットとも相まって少し印象が変わってくるかもしれません(というより情報量が多い).

少しそれましたが、腹部装甲の違いはアダム・カドモンとアダム(とイヴ)の違いを表していた.

これで以前の課題が一部ですが片付きました.

前半は以上になります.
後半はこれまでより分量が少ないのでもう少しお付き合いください.



2.翼の数

次は旧作の光の翼についてです.まずセカンドインパクトのアダムが4枚でした.

『DEATH (TRUE)²』C-15

そしてリリスは先ほどの12枚.これだけ見るとアダムは4枚でリリスは12枚という理解になりそうです.しかし初号機にも光の翼が生えたので確認してみると…

25話‘C-585
26話‘C-46
26話‘コンテ(マーカー引用者)

まず2枚で、そこから4枚に増えました.そして最終的に12枚になります.

26話‘C-437

したがって翼の数はアダムとリリスで異なるというよりも、段階を経て増えていくものと見ることもできます.ではどうして段階を設けたのか.

(1)覚醒とシン化

これについて、まず新劇の擬似シン化形態が思い出されます.第1覚醒形態、第2覚醒形態とシン化のステージがありました.もっとも新劇の場合、光の翼が段階的に増えるといった描写はないためまったく同じと考えることはできませんが、覚醒、進化の段階という観点は参考にはなるでしょう.結論をいえばこれらと天使の階級が組み合わさったものではないかと考えられます.

聖書に登場する天使の数は多いためか度々整理が試みられたようです.なかでも有名なデュオニュソスの『天上位階論』では、各3層からなる3つの序列に整理されます(下記表).

大貫ほか2002:780頁の図を参考に作成.位階を取っ払った階級序列をカッコ内数字にて追加.

この中で智天使ケルビムが4枚の翼を持つ姿で描かれます(ときに6枚.詳しくは「アダムスの翼」).そしてサタンと同一視されるルシファーの翼は12枚といわれています(ローズマリ2006:479頁).また堕天前のルシファーは、天使の階級で最上級である熾天使のさらに上の存在です.天使の各階級には固有名を持つ天使が1人または複数名、王として君臨しており、ルシファーは最高位ゆえに智天使の階級においてもその王に数えられたりします(グスタフ2004:181頁).

以上を総合すると、覚醒した初号機は、天使(2枚)が上級の智天使(4枚)に昇格、さらに智天使の王あるいは最上の天使ルシファー(12枚)に進化を遂げた、という話が見えてきます.

劇中で使徒はときに「ANGEL」表記でした.もしかしたらあらゆる使徒を含むアダムとリリスに由来する全生命体の頂点を意味する者として12枚の翼のルシファーを引っ張ってきた可能性もあります.また、ルシファーは最上の天使であり、堕天後は魔王サタンと同視される存在でもあります.そうした二面性を持つ存在として持ち出されたのかもしれません.

(26話‘C-168,169)冬月「この先はサードインパクトの無からヒトを救う方舟となるか、ヒトを滅ぼす悪魔となるか.未来は碇の息子に委ねられたか」

もっとも、天使の進化という概念は私が考察のために作り出した独自の設定です.仮にこれが作品の理解として正しいとしても、これまでエヴァで見かけた聖書からの借用に比べて、変則的な印象を受けるところです.もしかしたら以上のようなややこしいものではなく、もっとシンプルな話なのかもしれません.

(2)巨大化アダムと新劇

続いて、再び旧劇アダムに話は戻ります.下の画像はセカンドインパクトにおけるアダムです.その見た目からリリスの巨大化前と同じ状態だと理解できそうです.また新劇破のセカンドインパクト回想シーン、その脚本のアダムと比べても画像ものはサイズが小さいように思えます.

OP C-69

○セカンドインパクトのイメージ描写。(回想)※もっといいイメージを一考。
  南極に巨大な槍が運ばれている。
  天を覆う巨大な顔
  背中と頭上に光の輪を持つ4体の光の巨人。お互いの背中から光の尾が伸 
  びている。
(中略)
加持の声「15年前に行われた、南極で発見されたアダムと呼ばれる物体の調査。

破全集248頁(太字強調引用者)

巨大な顔が天を覆うという描写は明らかに旧劇サードの巨大化レイを意識しています.すると新劇アダムは巨大化ステージに進んでいたことがわかります.ここから新劇セカンドインパクトは旧劇のそれとは異なる内容だったという理解につながります.まず旧劇セカンドの内容はミサトさんから説明がありました.

(25話‘C-303A〜D)ミサト「(前略)15年前のセカンドインパクトは、人間に仕組まれたものだったわ.けどそれは、他の使徒が覚醒する前にアダムを卵にまで還元する事によって被害を最小限に食い止める為だったのよ」

すなわち、旧劇はアダムを卵へ還元するためのやむを得ない覚醒なので巨大化には至らなかった.新劇の場合それとは異なる目的だからアダムを巨大化に至らせた.その結果、南極のみならず地球の海全域が赤く染まった.全ての生命をコアに変える儀式の1つ「海の浄化」が主たる目的だったからです(隠れた目的については「セカンドインパクトと13号機」).

破の脚本でアダムが巨大化していたことには以上の意味があったといえます.さらにアダムが巨大化するなら…

これやってた説.旧劇でもっとも美しいシーンの1つ.
「まさか、光の翼?旧劇サードと同じ方術でセカンドを起こすつもりなの?」

以上の理解は、白き月の状況が旧作と新劇で異なることにもつながってくるのではないでしょうか.旧作ではセカンドインパクトと共に消失したとされています.新劇では地球の衛星になっていましたね.


今回は以上になります.最後までお読みいただきありがとうございました.
質問・感想・ご意見等あればよろしくお願いします.

・参考文献他
大貫隆ほか監修『岩波キリスト教辞典』(岩波書店、2002年)
グスタフ・ディヴィッドスン(吉永健一監訳)『天使辞典』(創元社、2004年)
ローズマリ・エレン・グィリー(大出健訳)『図説天使百科事典』(原書房、2006年)
同(金井美子他訳)『悪魔と悪魔学の事典』(原書房、2016年)


画像:©khara/Project Eva.


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