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小4のとき、親に自作小説をプリントアウトされた話

あれは小4の夏休みだった。よく覚えてる。

ある日、お母さんに
「これあんたが書いた?」
と、プリントアウトされた小説を渡された。

見覚えがある。

「ーーーーーっっ!!!?!」

私が、親のPCでこっそり書いていた小説が紙の束になって、親が持っている。

小学生の頃の私は、小説や漫画を書くのが大好きで、でも恥ずかしくて、誰にも知られたくなかった。

「え、なんで、え..」
「違う物印刷しようとしたらこれが出てきちゃってさ」

穴があったら入りたい、という言葉を当時の私が知っていたら真っ先に使っていたと思う。顔が真っ赤になった。

「ちょっと見ちゃったんだけどさ、すごいねぇ。あんたキャバクラなんて知ってるの?」

キャバクラ。
その小説の内容だ。
3つ上の姉を持つおかげで、私は小4にして結構マセていて、主人公の姉である結衣にキャバ嬢という設定を持たせていた。。

結衣は、爽やかな好青年から真っ直ぐな好意を寄せられるが、キャバ嬢であることを隠しながら付き合っていってもいいのか葛藤しているキャラだった。
突然暴力団らしき集団が、結衣と青年のもとを襲ったりする。そこはきちんと小4らしいストーリー展開だ。

結衣に対する思い入れが強すぎて、結衣こそ主人公なんじゃないか?という内容だったことを覚えてる。
主人公については、名前すら覚えていない。

そんな内容の小説を母親に勝手に見られたことが、恥ずかしくて恥ずかしてくてしょうがなかった。

わざわざPCを使わず、手書きで書いていればよかった、と思った。

実は、この作品(以下、「結衣小説」)を書く前までは、自作の小説やら漫画やらはすべてノートに手書きで残していた。

最初は、物語を続かせることがなかなかできず、ノートのページ3枚くらいで終わってしまうから、特に手書きで制作活動をすることに問題はなかった。
強いて言うなら、右手の外側が真っ黒になることくらいだった。

しかし、結衣小説を書き始めたら、スラスラと筆が進み、頭の中の構想に右手がおいつかなくなった。
書きたいことに手が追いつかないという体験をしたのは初めてだった。

「あれ、これ...PCで打っちゃった方が早いんじゃない?」

それからは、親のPCのメモ帳機能を使って、毎日少しずつ書き溜めていた。

書き溜めたものは、適当な名前をつけたフォルダに入れていた。

今思えば、私がPCの使い方を覚えたのも、あの時期だったのかもしれない。

そして、話を戻すと、親に小説を書いていたことがバレた。

しかも中身も読まれている。

キャバ嬢が青年と恋愛して葛藤している小説を書いていることを知られたのが、なんだか無性に恥ずかしかった。
これが、「夢」とか「スポーツ」を題材にしていたら、あそこまで恥ずかしくはなかったかもしれない。

恥ずかしさでしどろもどろの私に対して、母親はこう言った。

「よく書けてるね。文章がしっかりしてる。」

その言葉が、当時の私にとってはすごく嬉しかった。

初めて自分の作品が評価されたと思った。

それからしばらくして、中学校に上がってからは、小説や漫画は一切書かなくなった。

プリクラを撮りにゲーセンに行ったり、海に行って日焼けしたり、土手で花火をする日々だった。

高校生の頃は、恋愛に夢中だった。

片思いしてた人に2度告白して振られたり、同じクラスの男子と付き合って非常階段でキスしたり、受験前に別れて気まずい思いをしたりしていた。

大学生になってから、私は人と打ち解けるのがわりと得意だなと気付いてきた。
人に対する興味がかなり強く、初対面の人とも物怖じせずに喋れる。
より親しくなるには自己開示することが重要だということも、自然と身につけていた。

だから、たまに「実は小学生の頃は、ずっと家で小説書いたり漫画描いたりしてたんだー笑」とネタにすることもあった。

そうすると大体、「ええー?!やばくないそれwww」とか「暗かったんだーー、意外」という反応が返ってきた。

その経験から、これは笑える黒歴史ネタとして使えるんだなぁと学んだ。

だけど、

だけど、

社会人になった今、また文章が書きたくなってしまっている。

黒歴史だと思っていた「結衣小説プリントアウト事件」を、脳で何度も反芻している。

黒歴史ネタとして使っていくはずだったのに、もう今はネタなんかじゃなくなっている。

あのとき、親に褒められた嬉しさとか、自分で手書きからPCに切り替えたことに対する達成感とか、完結させられなかった悔しさとか、色んな気持ちがブワーーッと頭を駆け巡る。

本当は、小4以降だって色んな思い出があった。

高校の時、税金の作文書いて、県に表彰されたね。莫大な量の色ペン、もらったね。
「何で作文で賞取って色ペンなのよw」って笑って友達に話してたけど、本当は色ペンでも嬉しくて、もったいなくて使えなかったね。

大学受験の時、センター試験でD判定が出て、担任の先生に志望校変えろって言われたね。
でも、二次試験の小論文で巻き返す自信があったから、志望校は絶対に変えなかったよね。
二次試験の日まで、毎日小論文書いて先生に添削してもらってたね。あれ、全然苦じゃなかったな。
結果は合格だった。
根拠のない自信が、根拠のある結果になった日だった。

大学3年の時、その時付き合っていた彼氏が浮気して、別れることになった。
「別れよう」なんて言葉、2人とも言わなかったけど、私が書いた最後の手紙に、初めて長文で返事をくれたね。
彼が泣いた姿は見たことなかった。
だけど、その返事を読んだら、私の手紙を読んで号泣してくれたってすぐにわかったよ。

たくさんの、文章の思い出。
黒歴史だって思ってた。
恥ずかしいことだって思ってた。
今も、ちょっと恥ずかしい。

それに、私なんて、上手な文章書けないし。
面白い文章も書けないし。
才能ないし。どうせ書ききれないし。

たくさんやらない理由は浮かんだ。
もっと挙げようと思えば挙げられる。

でも、それを凌駕しちゃうのが、今この文章を書いているときの私の心臓音だ。

バクバクバクって聞こえてくるくらい、興奮している。

ああ、明日からはスマホじゃなくてPCで書こうかな。

今日が、人生で2度目の、手が脳に追いつかない日になった。

つづく

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