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母はどうして

母さんどうして
育てたものまで
自分で壊さなきゃならない日が来るの?

宇多田ヒカル『Be My Last』より
 

私を産んだのはあなた
不妊治療を望んだのはあなた

それなのに

なぜあなたは私たちを置き去りにする?
三つ子を望まなかったから?
知的障がいの2人を望まなかったから?

命を産み落とす責任を果たせ
私はあなたを憎んでいる

父に全てを投げ出し

奔放に去る
その先にあなたの幸福があることを
私は決して望まない

生の苦しみがあることをあなたは知るはず
生の苦しみを与えたあなたは
然るべき報いがある
その報いを受けることを

私は望む

あらゆる不幸を撒き散らすのであれば

責任をとれ

僕が生きているのはあなたのおかげ
あなたがいなければ私はいない

あなたにはあなたの苦しみがあったことを理解する

その苦しみから逃げ出すことを許容する
あなたの幸福の中に僕らがいないことを、僕は許容する

あなたが僕を打ち捨てなかったことを、僕は歓ぶ

苦しみがなければ、幸せは起こり得ないのだから

打ち捨て、干からび、それが私の生であるのならば
それは不幸であり、幸福である

生の苦しみにしがまれることは歓びである
死の先にある世界を、僕は予想し得ないのだから

僕はどのような命のもとに生を授かったのか

三つ子の間に、理性を勝ち得たものとして

僕の責務はどこで終わりを迎えるのだろうか

走り抜けた先に安寧があることを望む

走り抜けた先が地獄であるのならば、僕は業火の中を突き進む

背負うことを受け入れる

唯一の勝ち得た理性のもと、正しいとする道標に従う

あなたが放棄した役割を受け継ぐ

幸せになることが、あなたに対する最大の報復である

あなたを心の底で嫌い、憎しみ、愛する

あなたがいなければ、僕は生まれないのだから

僕らは親を選べない
親もまた、子を選ぶことはできない

あるがままの現実を肯定することは弱さであり、否定することは強さでもある

風のまま流されることは弱さであり、強さである

もはや僕はあなたの顔も思い出せない

あなたが僕に声をかけた時、僕は泣いていたのだから

僕はどこから生まれたのかを、僕は知らない

あなたが僕を望んだのか、望まなかったのか

きっとその両方なのだろう

望みもすれば、望まれざるもする

現実にはその両方が内在する

あなたがのうのうと、のびのびと生を謳歌することを

否定する権利は持ち合わせない

僕の母親よ、どうかその生を楽しんで

僕を産んだ時点で、あなたの生にはお釣りがあるのだから

慣れない同士でよく頑張ったね
間違った恋をしたけど
間違いではなかった

宇多田ヒカル『Be My Last』より



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