篤があつしに変わるまで 13 『3,000冊を自腹購入!?』
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ボクの履歴書と本の企画書を読み終えた東新宿出版の青森編集長は、原稿に目を落としながら言った。
「これが完成品ですか・・・」
そして、ボクが「はい、そうです」と答えるよりも早く、信じがたい条件付きで出版を確約してくれた。
「5,000冊、刷りましょう。その代わり、そのうち3,000冊は大村さんが購入してください」
「え!?」
「2,000冊は、当社が店頭で売ります。ただ、最低3,000冊売れる保証がなければ、この企画に乗るのは少しリスクが大きすぎますから」
ちょ、ちょっと待ってよ。
定価が2,500円として・・・。
3,000冊で・・・。
750万円!?
反射的に暗算を終えたボクの頭が、悲鳴を上げろと命令を下す。
「750万円じゃないですか! 私にその金額を負担しろとおっしゃるんですか! それでは、自費出版と変わらないじゃないですか!」
「いえいえ、違います。きちんと東新宿出版として出版します。当然、書籍コードも取得して、全国の書店に並べます。それに、もちろん大村さんが個人で3,000冊所有していても仕方ありません。2,000冊はうちが売りますので、3,000冊を売りさばけるルートをご自分で開拓してください、ということです」
よほどの馬鹿でない限り、この時点で諦めるであろう。
しかし、ボクはその「よほどの馬鹿」であったようだ。
「わかりました。すみませんが、1ヵ月お時間をいただけますか。心あたりを徹底的にあたってみます」
「心あたり」などあるはずがない。
あったら、誰も好き好んでこんな苦労を背負い込むはずもない。
しかし、ここで3,000冊を売りさばけるルートを見つけなければ、今度という今度は、完全に「ジ・エンド」だ。
さて、どこに声をかける?
専門学校か? パソコンスクールか?
それとも、日本中の書店を回って、本を置かせてもらおうか?
ちなみに、ご存じない方に説明すると、書籍というのは基本的に「委託販売」である。書店は、通常の商品のように、書籍を仕入れてそれを販売しているわけではない。書籍自体は無料で仕入れて、それを店頭に並べ、売れたら、その数十%を仕入れ値として卸し(取次)に支払い、それが出版社の売上や著者の印税となるのだ。逆に、売れなければ、書店は情け容赦なく返本する。
かなり簡略化しているが、書籍とはそのような特殊な商品であり、書店とは、乱暴な言い方をすれば、書籍を消費者に売るというよりも、書籍を置くスペースを卸し(取次)や出版社に棚貸ししている、極めて特殊な店舗なのである。
当時の無知なボクは、そんな仕組みすら知らずに、書店を一店一店回って本を売りさばこうと本気で考えていた。
本当に無知とは恐ろしい・・・。
家路に向かう新幹線の中で、絶望の崖っぷちに立たされながらも、無知なボクはまだ悪あがきをしていた。
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