ホンダが世界初のレベル3自動運転車 自動運転の今と課題:前編(思惟かねのWeekly News 22 Vol.9)

この記事は、Youtubeで水曜日に放送している「思惟かねのWeekly News 22」第6回で放送した内容の記事です。


◆ニュースの概要

今月3月5日、本田技研工業株式会社は世界で初となるレベル3自動運転システムを搭載した自動車となる新型「レジェンド」を発売しました。
価格は1100万円、先進技術のかたまりというべき車にふさわしいお値段となっています。

というわけで、今週のWeekly News 22は「自動運転」特集。
ホンダが先駆けとなった「レベル3」自動運転。今まで実用化されてきたレベル2とはいったい何が違うのか?
自動運転技術について掘り下げるとともに、この次に待つ「レベル4」の自動運転も見据えながら、その法的・社会的課題についてもピックアップしたいと思います。

今回は内容がもりだくさんのため、前・後編でお届けします。前編は、

・レベル3自動運転とは?
・自動運転の仕組みとそれを支える技術
・自動運転に向けたインフラ整備

この3トピックについてお話していきます。


◆自動運転とは?:レベル2とレベル3の違い

さて、皆さんは自動運転機能の付いた車を運転したことがあるでしょうか?
先ほど紹介したホンダ「レジェンド」は世界発のレベル3自動運転車となりますが、レベル2の自動運転機能は既に多くの車種に搭載されています。

例えば日産であれば「スカイライン」「セレナ」「エクストレイル」「リーフ」などにプロパイロットと名付けられたレベル2自動運転システムが。スバルの「レヴォーグ」にもアイサイトXの名前で自動運転システムが搭載されています。

また海外メーカーでは、特にドイツのアウディなどが自動運転領域でかなり先行していて、少し込み入った話もあるのですが…これについては、また後半で。

ではまず、この自動運転レベルとはなにかについて説明しましょう。
自動運転のレベルは、アメリカの自動車規格団体であるSAEが2016年に定めたSAE J3016で決めれれている区分です。ISOやJISのような規格の一つといえば分かりやすいでしょうか。
このSAE J3015では、自動車を自動運転機能がないレベル0から、完全自動運転であるレベル5まで6段階でこのように定義しています。
参考:SAE J3016の日本語版であるJASO TP18004

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ポイントになるのは、ドライバーと自動運転システムがお互いにどこまで運転という仕事を分担するのか?という点です。
例えばレベル1は、あくまで責任は全てドライバーにあります。システムは加減速やブレーキなどで、それをサポートするという立場です。
なので、今や大半の車に搭載されていて、皆さんもTVのCMでおなじみの、歩行者や障害物を検知して自動でブレーキをかけてくれる先進安全ブレーキも、SAEの定義だと実は「レベル1」の自動運転にあたるのですね。

これがレベル2になると、特定の動きに限ってはシステムが大半の仕事をやってくれるようになり、自動運転らしさが増してきます。
例えば一定のスピードで走り続けてくれるクルーズコントロールや、車線に合わせて自動でハンドルを切ってくれるレーンアシストなどです。アクセルやハンドルの操作を、システムが肩代わりしてくれるわけですね。
ただし「高速道路に限る」とか「速度何km/hから何km/hに限る」というように、システムが動作できる条件は限られています
こうしたレベル2の自動運転システムが、先ほども紹介したように、自動運転技術の高いメーカーの売れ筋の車に搭載され始めています。

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ただし、これもあくまでシステムは「補助」という立場です。
システムにアクセルを任せていても、ドライバーは必ず周りに注意を払って、危険を感じたら自分で操作しないといけません。

例えば、私も今このレベル2の車に乗っています。高速道路などを60km/h以上で走っている時にシステムをオンにすると、ハンドル操作とアクセル操作を自動でやってくれます。前に割り込まれたり、渋滞に遭遇した時も自動でブレーキをかけてくれます。
けれど、ハンドルから手を放していると車が警告してきますし、もしシステムが不調なのに気づかずに事故を起こしてしまたら、それは私が注意を怠ったのが悪いということになります。


さて、ここまでが今までの自動運転の状況なのですが、ではレベル3の自動運転になると何が変わるのか?

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最大の違いは、この常にドライバーが周りに注意を払わなければいけないという制約が取り払われることです。
あくまで「システムが動作できる条件内で」、例えば今回のホンダ・レジェンドであれば高速道路で渋滞により車速が50km/h以下である場合のみながら、自動運転システムが動作している限り、運転はシステムが責任をもって行い、ドライバーが周りの状況に注意を払わなくていいのがレベル3の最大の特徴です。

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例えば、今まではスマホのながら運転や、カーナビでテレビを見るといったことは、道路交通法違反になっていました。
しかし2020年4月の道路交通法改正により、運転についてシステムが責任を持ってくれるレベル3の自動運転中はこうした行為がOKになりました。ただし、もし自動運転が難しくなった場合にすぐにドライバーが交代できることが条件なので、居眠りや飲酒などは依然アウトとなります。

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運転手をシステムがサポートする「レベル1」、システムを運転手がサポートする「レベル2」だとすれば、「レベル3」はシステムが一時的に運転を代わってくれるものだと言えます。

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レベル2の自動運転は、あくまでドライバーが周りに注意を払って…いうなればシステムをサポートしてくれていることを前提にしていました。
それに対して、レベル3ではそうしたサポートがなくてもシステムが十分対応できるので、ドライバーが運転中の法的な義務から一時的に解放されるようになったのです。

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もっとも裏を返せば、この道交法改正以前は、システムに任せてドライバーが運転中の義務を怠ることは、どれほど正確なシステムだったとしてもれっきとした法律違反だったわけです。
こうした点からも、自動運転という新しい技術を迎えるにあたって、法律をはじめとする社会の側もそれに合わせて変化していかなければならないことが分かりますね。


◆自動運転を動かす技術

さて、ここからは少し自動運転の技術的な面を掘り下げてみましょう。
自動運転とは、いったいどんな風に成り立っているのでしょうか?

私たちの運転は、大きく分けて3つの段階で成り立っています。つまり、

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認知:周りを見てどんなものがあるかを識別する
判断:周囲の状況からどんな操作が必要か(加減速、ハンドルをきる、目的地までの運転ルートなど)を考える
制御:アクセル、ブレーキ、ハンドルなどを操作して実際に車両を動かす

この3つを、様々な機械によって肩代わりするわけです。


例えば認知を担うのは、車両に搭載された多種多様なセンサです。
例えば人間の「」にあたる、周りを認識するセンサが「光学カメラ」「ミリ波レーダー」「LiDAR」「超音波センサ」などになります。

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これらはそれぞれに長所と短所があって、上手くお互いに補い合うことで幅広い状況で周囲を認識できるようになっています。
例えば光学カメラは昼間はよくても夜は苦手です。一方他のセンサはレーダー波や赤外線など信号を自分から出すので、こうした状況でも動作します。あるいは光学カメラやミリ波レーダーは距離を測れるが、LiDARや超音波センサは苦手、といった具合です。

実際、今回レベル3自動運転車として発売されたホンダ・レジェンドは、車両のあちこちに光学カメラを2個LiDARミリ波レーダーをそれぞれ5個も搭載しています。

また、周りの状況把握の他、どんなルートを走るか?を決めるためには、自分がどこにいるか把握する必要があります。
ここで使われるのが、GPSなどでおなじみの位置測位システムであるGNSS(全球測位衛星システム)と、IMU(慣性計測装置)と呼ばれるセンサです。これにより自己位置推定を行い、車をナビゲーションします。

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GPSは電波を受信しないといけないので地下やトンネルでは使えませんが、IMUはどこでも使えます。IMUは加速度センサですが、加速度を積分していけば移動距離が分かりますからね。
ただしこれにも累積誤差が生じるので、GPSの信号で補う訳です。ここでもお互いの弱点をカバーしあっているのですね。


さて、次に2つ目の予知と判断を担う部分…いわゆる「AI」について触れましょう。
もっともAIというといまいちピンと来ない方も多いと思いますので、少し説明すると、AIとは言い換えれば、機械学習によって作られた、総合的な状況判断のためのすごく複雑なソフトウェアだと思ってもらえればよいです。

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たとえば、エアコンのように温度を一定に保つシステムを考えてみましょう。
この場合、システムは部屋の温度が基準より高ければ部屋を冷やし、低ければ冷房を止めればよいです。つまり「判断」は、室温を測るセンサの信号が基準より高いか低いかだけなので、とてもシンプルです。

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けれど、この「判断」の材料がものすごく多くなったらどうでしょう?
部屋の温度だけでなく、例えば湿度電気代、部屋にいる人数、その人が動き回っているかどうか…そんなたくさんの判断材料が与えられた時、冷房をオンにするかオフにするかはどうやって判断すればよいでしょうか?


実を言うと、人間はこれを深く考えることなくやっています。
たくさんの入力から「なんとなく」答えを出す。これは「AならばBする」という命令の組み合わせであるただのソフトウェアには真似できないことです。
こうしたたくさんの入力から「なんとなく」判断ができる、人間のような複雑なソフトウェアがAIなのです。

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そして、先ほどもお話ししたように自動運転にはたくさんのセンサの情報が必要です。
この多様な情報から、例えば「ここに車道の白線があるからハンドルを少し切る」「あそこに人がいるからブレーキをかける」あるいは「目的地はあそこだから、この角で曲がる必要がある」というような様々な「正解」の判断を出すために、自動車にはAIが搭載されているのです。

このAIはいわゆる機械学習によって、たくさんの「お手本」を元に勉強することで作られます。
例えば、目の前に「人がいる」パターンの情報を何万パターンも学習することで、AIは様々な状況でも「人がいる」と識別できるようになります
こうした「学習」が必要だからこそ、自動運転を研究している各社は公道での自動運転テストを大々的に行っているわけですね。

こうしてAIが判断した情報を元に、ハンドルに取り付けたモーターや、ブレーキの電動システム、エンジンなどを制御して実際に自動車を動かすわけです。

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自動運転と、それを支える認知・判断・制御のプロセス。
言葉にするとごく短いですが、これをできる自動車を実際に作るには、ものすごく複雑なシステムの研究開発が必要なことが、少しは伝わったのではないしょうか。
事実、トヨタ自動車は年間4000億円あまりという巨大な研究開発費をこの自動運転関連に投入しているといいます。

自動運転は、最先端のセンサ技術とAI技術、車体制御技術の結晶なのです。

現時点では、今回世界初となるのホンダ・レジェンドのレベル3自動運転機能「トラフィックジャムパイロット」がそうであるように、高速道路での渋滞のようなかなり限定的な状態でしか本格的な自動運転は実現していません。
けれど世界的に熾烈な研究開発が続いていますから、数年内にはこの自動運転が適用される範囲もどんどん広がっていくでしょうし、搭載される車両も増えてくると思われます。


◆インフラ側からの取り組み

さて、現状では自動運転は「高速道路」「渋滞」のような限定的な環境でしか実現していません。
これは特に歩行者や自転車などが混在する一般道では、センサによる「認知」もAIによる「判断」も難易度が跳ね上がるためでです。

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また高速道路でも、レーンの白線のかすれ破線のような誤認識の要因、ジャンクションやSA/PA出口などでの合流など、自動運転を難しくする要因は少なからずあります。
トンネルや山間地などでは電波が届かないことによる位置推定の誤差の問題も、自動運転を阻む要因の一つです。

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こうした点について国土交通省の検討部会は、自動走行車専用レーンの設置や、位置情報の取得をサポートするシステムの提供、合流を信号待ち方式にするランプメーターリングの導入などを提言しています。
つまり、自動運転を推進するために、自動車だけでなく道路というインフラの側からも変わっていこうという取り組みが行われているのです。
中国などでは100km近い自動運転専用レーンが設置されるなど、世界的にもインフラ側からの大掛かりな取り組みが進んでいます。

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また白線の消えかかりや消し残し、イレギュラーな舗装、見通しの悪い横断歩道や街路樹などの街並みについても、自動運転を見据えて対応を検討するべきである…つまり、街並みそのものを自動運転に合わせて変えていくことが提案されています。

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ただ、これを見て、ただの自動車の技術革新に対応するために、ここまで大掛かりなことをする必要があるの?と思われる方もいるかもしれません。
しかし実のところ、自動運転はこのように国を挙げてインフラ整備をしてでも進めていくだけの価値があるのです。それは自動運転が、自動車に乗る人だけにとどまらず、社会全体にとって利益があるからです。

例えば、無人運転によって山間部や過疎地で無人バスや無人タクシーが走るようになれば、廃線などにより公共交通が無くなった地域でも、車無しで生活が成り立つようになります。
都市部でも、車社会がもたらした郊外店主体の生活が変わり、市街地に人が戻ってくる効果があるとされます。
また、今まで車以外の交通手段がない地方の観光地などのアクセスが向上し、観光業の活性化も期待されています。

あるいは、自動運転の普及により、こちらのニュースで解説したMaaS社会が実現すれば、交通量が減って渋滞も解消されますし、電車などのCO2排出量の少ない交通機関が活用されることで環境負荷の低減も図れるでしょう。

このように、自動運転はただ車が便利になるというだけにとどまらず私たちの生活全体を大きく変えていく可能性を秘めたものなのです。技術が社会全体を、生活を変えていく…つまり自動運転とは、次世代の巨大なイノベーションなのです。

だからこそ、自動運転をインフラの側からも支援していく姿勢がうちだされているのですね。
私たちが生きているこの令和は、そんな風に自動運転という技術が、街並みや生活までもを大きく変えてしまうような、世界の大転換期なのです。


◆前半のまとめ

というわけで前半はここまで。

今回は、ホンダ・レジェンドが世界初のレベル3自動運転を取り上げながら、レベル3自動運転とはそもそも何か?ということについて。
次に自動運転に用いられている、各種のセンサやAIなどの技術についての解説
最後に、自動運転実現のために道路などのインフラ側からの取り組みとその理由について取り上げました。

自動運転について、少しでも皆さんの理解が深まったのなら幸いです。

続く後編では、皆さんが予想もしなかったであろう自動運転にまつわる「国際法と国内法の問題」と、「自動運転による事故の責任問題」という、ちょっと違った角度からのトピックをお届けしたいと思います。

では、また後編でお会いしましょう!

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この他にも技術・政治・科学ニュースの解説や、VRやVTuberに関する考察記事を投稿していますので、お時間あればぜひごらんください。

また次の記事でお会いしましょう。
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今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。
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