【映画レビュー】シモーヌ(2002):今こそ見たい18年前に”VTuber”を描いた作品

圧倒的な美貌と演技力で世界中を一躍熱狂させた謎の映画女優「シモーヌ」。誰もがその正体を知らない秘密のベールに覆われた彼女の真の姿は、実は監督の冴えないおじさんが演じるCGであった…。

と、もうそのあらすじだけで面白そうな映画。それがアンドリュー・ニコル監督の2002年の映画「シモーヌ(原題: S1m0ne)」。
ひょんな事からお友達に勧められて見たこの映画は、想像以上に面白く、何より今の時代を18年も前に先取りしていた驚きは鮮烈という言葉では足りませんでした。

今回は唐突ながら、この映画についてレビューし、この2020年にこそ見てほしい映画として紹介したいと思います。

画像1


◆バーチャル女優「シモーヌ」を生み出した見事な技術考証と演出

主人公のタランスキーは鳴かず飛ばずの芸術肌の無名の映画監督。しかし、とあるきっかけから彼は、誰もがCGと見破れないほど精巧なモデルを作り、そして演じることのできるコンピュータ・システムを手に入れます。
彼が生み出した女優「シモーヌ」は、タランスキー監督の理想そのままの圧倒的な演技力と、過去のあらゆる女優の表情の美しさの粋を集めた美貌によって、映画の大ヒット共に一躍世界的なスターにまで上り詰めるのです。

当然というべきか、誰もが「あの女優は誰だ」とシモーヌの正体を探り始めるのですが、マスコミ、共演者、映画会社のビジネスマンなどなど、誰もが躍起になりながら、その手がかりすら見つけられない。
誰も彼女がCGだとは全く気付かないことに驚きながら、タランスキー監督は自らの「理想の女優」を守るために、必死であの手この手の偽装工作に駆けずり回る…というのが、「シモーヌ」の序盤のストーリーです。


アイデアの面白さと、それを下敷きにコメディとしての面白さを生む人物の構図の良さは、既にこの映画が凡作ならぬことを教えてくれるかと思います。
しかしこのアイデアを、見事にディテールに至るまで具体化し映像化した事。なによりそれが2020年という「シモーヌ」が誰もが手の届く現実となった今見ても、全く陳腐に見えない出来栄えであることが実に素晴らしいです。

例えば、タランスキー監督がシモーヌを「操演」するシーン
タッチパッドとマイク、カメラと大型スクリーンがセットになったデスクに座れば、タランスキー監督の手や顔の動きは鏡写しにそのまま「シモーヌの演技」となり、彼の話した言葉は早さやトーンそのままに「シモーヌの声」となります。
これこそ2020年現在、私たちVTuberの間ではありふれた技術となっているリアルタイム処理での「フェイストラッキング」「ボディトラッキング」と「ボイスチェンジャー」そのものです。
なるほど、これならできるよね」と、現代のVTuberなら誰でも思えるであろうことが、この見立てのすごさです。

また、姿一つ見えぬ「シモーヌ」の存在を疑う共演者たちに「シモーヌと話をさせる」ために、スピーカーでのリモート通話をつなぎ、裏でタランスキー監督がリアルタイムでシモーヌをボイスチェンジャーを使って演じて受け答えをするシーンも、見事といわざるを得ません。
これも現代のボイスチャットやWEB会議、あるいはVTuberの「コラボ」と瓜二つです。製作当時の2001年といえば、ようやく10月にMSN MessengerがWEB通話サービスを提供し始めた頃。ちなみにSkypeのサービス開始はさらに2年後の2003年。
これも2020年現在では一見して何の変哲もないシーンですが、それこそこの映画が圧倒的に時代を先取りしていたことの証明に他ならないでしょう。


また、技術的な考証から少し離れれば、こうした表現を映画の中の現実として実に確からしく見せた演技・演出についてもスポットを当てるべきでしょう。
タランスキー監督があたかもシモーヌに「ボイスチェンジ」したように見せる、彼の発音を一音一音なぞるような主演女優レイチェル・ロバーツの演技
また実物の人間である彼女を逆にCGめいて見せる絶妙な所作と、それをバックアップするメイクと映像効果
それらが合わさってこそ、CGによって作られたバーチャル女優(Virtual Actress=Vactressシモーヌは、2002年においてすら大きな説得力を持ったのだと思います。


◆今なお「未来」を感じさせる描写と起伏に飛んだストーリー

しかしこの映画は、最初の30分ほどで失速する「出オチ」映画だろうな、というのが見ていた時の正直な思いでした。

こうした斬新なアイデアをコアにした作品とは、往々にしてそのアイデアの「美味しい所」が終わった瞬間につまらなくなります。何より私自身がタランスキー監督がシモーヌの正体隠しに奔走する場面を見つつ、そこからさらにストーリーが面白くなるのを想像できずにいたのです。
続くシモーヌの「正体バレ」のシーンが近づくと、私の脳裏は「いったいどうやってオチをつけるんだろう。というか、まだ1時間ぐらいあるのだけど…」という思いでいっぱいでした。

…が、ここからがこの映画のすごい所でした。
詳細はネタバレになってしまうので伏せますが、結局すんでのところでシモーヌの真実は明かされることなく、どころか映画以外にも雑誌やテレビ番組に「リモート出演」することで、彼女の「実在」はますます強固なものとなっていきます。

そして実在しないはずのシモーヌの存在は、しかし世界中のファン、マスコミ、タランスキー監督の離婚した妻である映画プロデューサーのエレイン、果てはタランスキー監督本人など多くの人々を狂わせていきます
その様は実にリアルで、「シモーヌ」に翻弄される様々な人々の姿を、SF的な非現実感とは無縁な人間的な情感を交えて描いたフィルムは、コメディ的な面白さと同時に「これは」と唸らされるものがありました。

考えてもみれば、私たち一般人は、映画スターを実際に目の当たりにすることはほとんどありません。ただテレビの映像や雑誌の表紙を飾る様に、その「実在」を感じ、信じているわけです。
とすれば、彼彼女らが実在しているかどうかというのは、実質的にはほとんど問題ではないのです。「実際に存在する」から見える・感じられるのではなく、見える・感じられるからこそ「実際に存在するに違いない」という認識上の逆転が起こるのです。

こうした錯誤のはざまに存在するのが「バーチャルな存在」、実際には存在しないが誰しもが「そこにいる」と思う存在…例えばシモーヌであり、例えば私たちVTuberなのです。
シモーヌという映画は、ただ2020年の「常識」を先取りしていたにとどまらず、こうした実際には存在せず、人々のイメージの中にしかいないバーチャルな存在が世界を揺り動かす様を…つまり、2020年現在ですら一部の人々しか認識していないさらに未来の常識を、ありありと描き出した点で今なお新しい、まこと出色の作品であるといえるでしょう。


◆まとめ

先の通り、予想を裏切るストーリー展開は、私をハラハラさせながら二転三転し、最終幕では急転直下の展開を見せながら見事に結ばれます。
そこはぜひその目で見て確かめて頂きたいのですが、一つ言えるのは「シモーヌ」のオチの付け方は実に見事で、やや苦笑いしつつも迷いなく拍手を送るに足るものだったということです。

まとめると、シモーヌという映画は2002年当時としては驚異的なまでに未来を見通した作品であり、その演出面での努力もあって、18年後の今に見てもまるで古さ、陳腐さを感じさせないどころか時代の先端を行く驚くべき作品でした。
特に中盤の、バーチャルな存在であるシモーヌの実在を世界中の誰もが疑わず、熱狂するシーンは今なお現在進行形での未来の姿であることでしょう。

また人物の構図その情動や葛藤の描写ストーリーの起承転結も実に見事であり、斬新なアイデア一本の作品かと思いきや、主人公のタランスキー監督を軸にしたヒューマンドラマとしても十分に見ごたえのある、序盤から終幕まで終始飽きの来ない作品に仕上がっていました。

2020年の今こそ見るべき、そしてこの先の時代を見通すうえで広く勧められる名作でした。
機会があれば、ぜひ一度見てみることをおすすめします。

---------------------------------------------------------
この他にもちょっとしたエッセイや、VRやVTuberに関する考察記事を日々投稿しています。
もしよければぜひnote、Twitterをフォローいただければ嬉しいです。

また次の記事でお会いしましょう。

---------------------------------------------------------
【Twitterでのシェアはこちら】

---------------------------------------------------------
今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。
引用RT、リプライ等でのコメントも喜んでお待ちしています。

画像2

Twitterhttps://twitter.com/omoi0kane
Youtubehttps://www.youtube.com/channel/UCpPeO0NenRLndISjkRgRXvA
マシュマロ(お便り): https://marshmallow-qa.com/omoi0kane
notehttps://note.com/omoi0kane

○引用RTでのコメント:コメント付のRTとしてご自由にどうぞ(基本的にはお返事しません)
○リプライでのコメント:遅くなるかもしれませんがなるべくお返事します

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?