今日も今日とて、運貯金。〜スペシャルなお月様だった〜

新月の夜。姿形は見えなくてもパワーを感じる、そんな夜。
新月の日にはお願いごとをすると叶うんだって。わたしもそっと、心の中で願った。

ここから満月に向かって、お月様が少しずつまぁるくなってぷっくりして行く姿がたまらなく好きだ。

わたしが今もお月様にこんなに魅せられているのは、あの日あんなことがあったからかもしれない。


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待ちに待っ(てない)た女子旅の電車内でわたしはみんなが向かい合ったボックス席からひとりだけ飛び出していた。

会社の同僚と、先輩と女子5人旅。

「星野ちゃんだけごめんね、そっちの席で」という先輩の声。

わたしは全然大丈夫なんです!
だけどもしかしたら、誰か1人でも隣の席に座ってくれた方が見栄えはいいかもしれないね。

でも、指定席なら仕方がない。

だけどもしかしたら、予約の時点で旅行会社の人も気を利かせて2席と3席でもよかったのかもしれない。けど。ひとりが好きなわたしはどっちでも特に問題はなかった。

別ボックス席にて、一緒になったおばちゃんたちに色んな食べ物をわけてもらいながらなんだかんだ楽しく目的地に向かっていた。

チーム変えして、おばちゃんたちについて行きたくなるほど仲良くなっていた。

今だから言うけど、本当は乗り気ではなかった女子旅。団体行動がちょっと苦手なわたしは気が重いながらもこの旅を盛り上げて行こうと言う気持ちだけは人一倍あった。

電車を降り、同じボックス席のおばちゃんたちに別れを告げて向かったのはその日に泊まるホテル。先輩が泊まりたいと言った評判の良い海が見えるホテルを予約していた。

盛り上げ隊のわたしは、部屋に入るなり両手をぐうにし、そのぐうを天高く上げ、

「うわーい、海だうみ…だ…」と、おおはしゃぎする予定がいきなり部屋に落ちていたガラスの破片を踏んでしまったのだった。

盛り下げ隊に降格しないためにも、
「いってぇーなんか踏んだー」とテンション高めに言っていると、靴下から赤いものが滲んでいた。

慌てて先輩が、フロントに電話をした。

「部屋に入っていきなり怪我ですよ?どう責任を取ってくれるんですか。他の部屋の人と同じ料金は払えませんから!」

と先輩は怪我をした当人を差し置いて、心配よりも先に値引き交渉をし出した。

足より心が痛い。

でも、笑うしかなかった!
ここでしょんぼりしたら始まったばかりの旅行が台無しよ!うん、値引き大事!

乗り気ではなかったなら断ればよかったんだ。
でも、断るのにも勇気がいるんだよな。
だからそこにわたしがいた。

コトが大袈裟になってしまい、病院に連れて行くのなんのって。
支配人まで出て来てくれたけど、

「今日は楽しい旅行なので」と入って、消毒液と絆創膏でその場を凌いだ。

大量に箱ごと渡された絆創膏に、「足りなければ買ってきますから!」と支配人。

そんなこんなで出オチみたいな珍道中。

足の裏に怪我をしたわたしは、温泉には入れずみんながお風呂に行っている時間に
目の前に広がる夜の海を見に行った。

なんというタイミングか、その日はちょうど満月だった。

真正面にぽっかり浮かんだまぁるいお月様。


あの日わたしは、初めて水面に映る月の道を見た。

あの道を渡って、直接神様に交渉しに行こうか、そんなことも思ったけれど

割れたガラスの破片が連れてきてくれた幻想的な景色。
痛かった。たしかに痛かったけど、わたしだけに与えられた特別な満月。
独り占めしたお月様がわたしを見て笑っていた気がした。

みんなはお風呂上がりに、いいお湯だったと言った。わたしは、いい月だったと言った。

それ以外の記憶は正直あまり残っていない。


ホテルをチェックアウトする時に、お詫びと言ってかわいい茶筒のお茶の葉を人数分頂いた。

先輩は一言

「おうちに買うお土産いっこ分のお金浮いた!」って喜んでたっけ。
そっか、それはよかったよかった。

わたしは、お茶の葉よりもはじめての月の道が見れたことが1番の思い出。
やっぱりわたしは、ラッキーガール。

新月のお願いごと、それは…

神様だけに聞こえるくらいの小さな声で。

ねぇ神様、聞こえる?


今日も今日とて、運貯金。
運を貯めて貯めて貯めまくって、いつかでっかい何かの時に貯金をおろすわたしの物語。


コロナ禍以前のお話です。
またこんな風に大勢で旅を…いや、これはやっぱり遠慮しときます。
わたしはひとり旅の方が性に合っているかもしれない。


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