夏の通院(歯医者→自己免疫性肝炎)
私はテトリスのようにきっちり隙間を埋めていくのが苦手だ。いや、むしろ得意過ぎて失敗した時のショックが大きすぎるから、なるべくしないようにしている。
2020年8月14日は久しぶりに訪れたテトリスみたいな一日だった。
元はと言えば、自己免疫性肝炎の診察が12時予約になったことが発端だ。いや、だからこそ、これだけ予定を詰めことむことができたのだろう。診察時間以外の予定を組んだのは私だし、よくまぁここまで手順のいいタイムテーブルを作れたもんだ。
前回の通院の際、金曜朝の採血ルームは意外と混んでいることを知った。だからこの日も私は余裕をもって病院へ向かった。駐車場到着10時過ぎと言ったところか。特に何も言われてないが、採血の際に糖の値が悪いとショックを受けそうなので、薬を飲むために食した朝食は野菜のみ。これだけでこれから始まる忙しない一日をこなせるはずのない私は、車を停めるとまずは腹ごしらえ用のパンを買った。そしてそれをカバンにしまって病院入り口へ。
久しぶりに出た外は夏、真夏だった。ジリジリと感じる太陽がコンクリートを焼き、その照り返しと相まって私の周りの空気を灼熱へと変化させる。ここ最近、全く外出していない。近所のスーパーどころか、ベランダ、玄関すら出ていないだろう。感染リスクで人混みを避ける旨の指示はあったが、紫外線についてはとやかく言われていない。けれどあまり積極的に陽ざしを浴びたくなくて、完璧引きこもり宣言状態な日々を送っていた。だから、暑い。夏ってこんな感じだったっけという感覚がよみがえる。
家の中で止まっていたかのような私の心の時計。その感覚と違う速度で進んでいる季節を浴びながら思った。私、何してたんだろうって。
受付を済ませると採血ルームへと向かった。予想通り混んでいる。「次の予定は11時。間に合うよね?」時計をちらちら見ながら待つこと約20分。6本分の血を採って採血ルームを後にした私は、次なる場所へ移動する。
時計の針は10時40分を指していた。移動時間含めて完璧じゃん。こういう自画自賛をしてしまう私。テトリス的なことは得意らしい。
「こんにちは」
細い廊下を通りたどり着いたのは、入院中に先生が予約してくれた病院併設の歯科医院。前回、骨粗鬆症に影響のある虫歯予防のための検査をした際の続きとして、歯垢のお掃除をお願いにきた。この歯科医院はとてもいい。病院併設ゆえ診察までに終わるよう調整して予約ができ、何かあれば病院と連携がとれる。便利さ極まりないが、病院の診察がある日くらいにしか通いたくないというのが難点だ。だからこそ、今日みたいな12時診察の日は、ここに来るのに絶好のチャンスと言えよう。
軽く歯の状態を確認し、色んな機械を使って掃除される私の歯。水圧が歯茎を刺す感覚が、痛くないのに痛さを感じる。きれいになって気持ちいいはずなのに、この痛くない痛さが歯医者を遠ざける要因なんだろうと思いながら、ぼーっと口を開け、されるがままにされる私。
歯並びをキレイにして、ホワイトニングしたいなって、若い頃思ってた。芸能人は歯が命。いや、芸能人ではないけれど、歯が印象を変えるのはなんとなく感じていたから、メンテナンスしたいと思っていた。思いながらも、お財布と時間という制約に自分がつぶされ、できていなかったことを改めて思い出す。
歯一本一本が綺麗になるのとともに、あの頃抑えていた気持ちも少しづつ洗浄されいく。
できなかったことが、やっと今できるようになったのかもしれない。
本日のメンテナンスが終わると鏡を渡された。なかなか落ちない着色汚れもきれいになっていた。詰め物の段差で落としきれない部分について、気になるようであれば別途予約する旨を伝えられる。ここまで来ると、徹底的にきれいにしたくなるところだが、本日はこれにて終了。
11時50分を指す時計に
「間に合いましたね」
と笑顔で対応してくれる看護婦さんに笑みを返し、本日の自己免疫性肝炎の診察ルームに向かった。診察室前の掲示板を確認すると、10時台の最後の方を診察中だった。12時台予約の私、まだしばらく待つみたい。
よし。
軽くガッツポーズをすると、私は食堂の近くのベンチに移動し、朝仕入れておいたパンを食べることにした。お腹空いたよ。パン買っておいてよかったでしょ。ちょうど正午。予想は完璧だった。このあたりのバッファを読み込むところも含めて、テトリス的なことに長けているなと改めて自分で自分を褒め称えてみた。
午前中の完璧な時間配分からやっとたどり着いた本日のメインイベントの診察は、プレドニンの減量もなくあっけらかんと終わった。前回の通院の時ほど感じていない副作用がそうさせたのかのかもしれない。もちろん検査結果も異状なかった。
白血球数: 8.8
赤血球数: 4.61
ヘモグロビン: 14.2H
ヘマトクリット: 43.2
MCV: 93.7
MCH: 30.8
MCHC: 32.9
血小板数: 169
PT: 97
PT-INR: 1.03
APTT: 28.8
APTT-Cont.: 30.6
フィブリノゲン定量: 179L
総蛋白: 6.7
アルブミン: 4.2
総ビリルビン: 0.9
直接ビリルビン: 0.1
AST: 19
ALT: 31
乳酸脱水素酵素: 120
アルカリフォスファターゼ: 190
γ-GTP: 26
コリンエステラーゼ: 166L
中性脂肪: 81
グルコース: 92
CRP: <0.03
アンモニア: 38
IgA: 141
IgG: 1214
IgM: 186
ALBIスコア: -2.79
ABI grade: 1
2020年8月1日から始めた、プレドニン17.5mg生活。この日でちょうど2週間だった。前回感じていた副作用の違和感も弱まりかなり落ち着いた日々を送れている気がする。
副作用でひとつだけ気になるとすれば睡眠か。
いただいている睡眠剤「ロゼレム」は、飲んでも飲まなくても夜は4時間くらいで目が覚める。そして、薬を飲んでいると日中にとてつもない睡魔に襲われお昼寝、飲まないと一日寝ないで生活できる日々。全く眠れないわけでも、寝付けないわけでもないが、さすがに4時間睡眠が続くのはまずいかなと相談すると、次回までは毎日薬を飲んでみて、それでも生活に沿わない場合は薬の変更も検討することとなった。
次回の通院は2週間後。この安定した状態が保たれているかをみて減薬の検討らしい。
プレドニン 25mg*7日 → 20mg*10日 → 17.5mg*28日 → 15mg*...?となるのだろうか。10mgまで減らせればリスクがかなり落ちるらしいが、果たしてそれはいつどのタイミングか。この流れのどこで仕事に復帰しようか。どこから普通の生活に戻すべきなのだろう。
先生は言った。
「今後はこんな感じで2週間~1か月毎に通院してもらうことになると思うよ。ロックダウンとwithコロナの関係と一緒で、ちょうどいいバランスを見極めて仕事復帰も検討してもいいかもね。」
難病やステロイドという言葉にビビりがちな心に、ゆるくアプローチかけていくところがこの先生の特徴で、このアプローチが、”大したことない感”からの”安心感”を生み出しているような雰囲気を悟った。大それた言葉や、重たすぎる表現、納得出来ない矛盾、厳しすぎる規則などは心と体を停止させる。そんな抑圧されて止まってしまったものを、自分の違和感のないスピードで動かすにはどうしたいんだろう。自問自答してみた。答えはまだみつからなかった。
そういえば、いまだに血糖を下げるお薬が処方されている。これはいつまでで続けるんだろう。夜の血糖測ってないけど、もう血糖値大丈夫そうなんだよね。そんなことを思いながら会計を済ませてラストスパートの薬局へ。
プレドニンをいただくようになってから、薬は服用毎の個包装になった。それゆえ準備にとても時間がかかる。
時計の針は14時を回っていた。処方箋を提出すると、お薬を待つ間に車に向かった。病院の駐車場から薬局の駐車場へ移動させるために。このあたりの時間の使い方もぬかりない。細かく自分を褒めておく。細かい隙間に物事をつめこむテトリスが上手そうに見えるように。
薬局の駐車場を出発したのは15時半だった。パン食べておいてよかった。時計と一緒に動く腹時計対策も完璧だった。
あの頃動いていた私の時計は、いつから止まってたんだろう。いっぱいあったやりたいことを、色んな言い訳作って我慢し続けて、気づいたら時間ばかりが過ぎていて、病気をきっかけにそんなことに気が付いた2020年の夏。この歌は2002年の夏。日韓ワールドカップの年のこと。
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