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遠い存在と決めていたのは私だった

春の匂いを感じると、学生時代がふと蘇る時がある。
特に高校生の頃のことだ。
今、胸を張って親友だと言える行天、桃香、美香は高校の同級生だった。ただ高校時代、桃香と美香とは話したことがある程度で、大学生になってから本格的に仲良くなった。
思い返してみると、私が彼女2人を”遠い存在”と決め、深い接触を避けてしまっていたように思う。

「うちの学校、可愛いギャルのグループあるよな」
同級生が噂にするほど派手な女子グループがあった。そのメンバーだったのが桃香だ。
あることないことの噂が飛び交い、見た目の派手さも手伝って同級生の中で浮いた存在だった。
グループの人たちでたくさん話し、笑い合う姿はスクールカーストの上位を感じさせる力があった。先輩とも自然に仲良くなっているようで、掴めない存在だった。

そんな桃香とは高校3年で同じクラスになった。
だが、これまでの派手な印象とは裏腹に、同じクラスの人たちとご飯を食べ、よく携帯をいじっているな〜程度の印象だった。
目立った行動もしないし、だからと言って地味なわけでもない。淡々と楽しそうに過ごしている感じだった。

そして文化祭。高校生になると3年生の有志グループでファッションショーをやるのだが、そのモデルの一員だったのが桃香だった。
ファッションショーを見て、「やっぱりすげー、可愛い〜」とか思いながら、ショーが終わったあとに写真を撮ってもらった。
そんな憧れのような、遠いような存在だった。



美香は、桃香がモデルとして歩いたファッションショーのチーフだった。
美香はよく古着を着ている子で(学校は服装自由だった)、「ファッションデザイナーを目指しているらしい」と噂で聞いていた。
高校1年だったか2年だったかのとき、同じ沿線に住んでいたこともあり、何度か電車で一緒になった。お互いの友人を通して認知はしていたものの、あいさつをする程度だった。

そんな美香が高校生の自分にとっては想像もできないようなファッションショーをやってのけた。音楽も洋服もメイクも全部がかわいいと思った。
美香が作った洋服を桃香、そして行天も着てショーで歩いていた。
「あ〜〜!?行天〜〜〜!?」と驚きながら、私は携帯で写真をバシバシ撮っていた。
美香の作った洋服は、特に色使いが特徴的で一瞬で好きになった。
「こいつら、すごすぎないか?俺バレーしかできないぞ」と思っていた。
よくわからないミーハー心を丸出しの状態で、一緒に写真を撮ってもらっていた。


そんな状態で高校を卒業し、行天などの共通の友達を通して、桃香と美香と顔を合わせることが多くなった。
2人と話すようになって感じたのは、「あ、こいつら仲間じゃん」ということだった。

美香は夢に向かって邁進している人だった。
ファッションを基軸に、人の役にたったり、社会のためになることがしたいと燃えていた。
当時、マスコミ業界を目指していた自分にとって、そのマインドに共感できることが多くすぐに意気投合した。
物を作ることとは。
ファッションやメディア、そして友達と話すことで見えてくる自分や他人とは。
自分がやりたいこととは。
そうやって大人になる過程を一緒に作り上げる仲間になれると思った。

桃香は気を遣う人だった。
それ故に皮肉っぽいところもあり、ときには感情で割り切れないけど面白いことなどを分かち合えた。
一緒にライブやクラブに行って、展示を見て、インターンや就活のことを考え行動に起こしていった。
その道程で見える、互いの疲労も大事にしている価値観も讃え合いながら、前に進んできた気がする。
桃香の気遣いやアイロニーは、自分にも持っているものがあり、共感が絶えなかった。



振り返ると、高校時代から美香や桃香と話す機会は沢山あった。
共通の友達がとにかく多かったので、その話で盛り上がることはできたはずだし、通学や帰宅の時に姿が見えた時に声を掛ければよかった。
なんとなく目を逸らしたり、恥ずかしがったりしていたあの時間は、なんだったのだろうと感じる。
勝手に憧れや期待を抱き、遠い存在と決めつけて逃げていたのは私なのだ。

今も、月に1、2回のペースで会っている。
話す内容は緩やかに自分たちのステージに合わせながら変わっていくが、くだらないことや笑いのツボみたいなところは相変わらず同じだ。
時に仕事や人間関係のことで真面目な話になり、その話がひと段落するとイントロクイズみたいなことをして盛り上がったりしている。
代え難い存在だ。

春。
出会いや別れの中で、あと一歩踏み出せない人もいるだろう。
けど頑張って欲しい。遠くに見えていた人たちは、案外近い存在だったりするから。



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