新宿は、朝とともに僕を迎え入れてくれた
この世にはたくさんの「東京」という曲がある。「東京」がタイトルの一部になっている、歌詞の内容が「東京」のことを歌っている、みたいなやつまで入れると数え切れないほどある。
大御所からインディーズまで「東京」を歌い、今もなお「東京」は量産されている。
人によってお気に入りの「東京」があるのではないかと思うけれど、僕が1番好きな「東京」は、2014年にきのこ帝国がリリースした楽曲だ。
2014年は、僕が地方転勤することになって、はじめて東京を離れた年だった。
ワンルームの壁に寄せて置いていたシングルベッドの上でゴロゴロしていたときに、その曲と出会った。
東京という街が物理的に遠くなり、家族や友だちになかなか会えず、お気に入りの場所や食べ物屋に行けなくなったことで萎んでいた自分の心に、曲調や歌詞の切なさが染み渡ってきた。
東京を離れてみて分かったことは、僕は自分が思っていた以上に東京が好きだということだった。
そのことをはっきりと自覚してからは、少しでも休日が続けば、無理してでも東京に帰るようになった。東京に帰る前日はいつも浮き足だった。
帰る手段は新幹線や、車を交替で運転することが多かったけれど、たまにひとりで新宿行きの夜行バスに乗ることを選んだ。身体的にはキツかったけれど、夜行バスで帰るのは結構好きだった。
その理由は、朝の新宿の風景にある。
バスに乗り込んだ時には真っ暗だし、休憩でサービスエリアに降り立つ時も真っ暗。
だけど目を瞑って揺られているうちに、次第にバスのカーテン越しに光が差し込んできたのに気付き、少しずつ目が覚めてくる。
「まもなく新宿に到着します」
運転手のアナウンスとともにカーテンを開けられる頃には、新宿のビル群が見えてきた。
その瞬間、いつもすごくホッとした。
やっと、東京に帰ってきた。
東京を出るまでは、新宿は苦手だった。高校生の時に模試を受けに行ったのに迷って辿り着けなかった経験や、歌舞伎町の居酒屋で喧嘩してスマホを割った事件もあった。苦い経験の数々が浮かぶような街だった。
だけど、帰る場所になった新宿は、朝とともに自分を迎え入れてくれる、優しい街に映るようになっていた。
新宿のビル群を見ながら、東京に着いた嬉しさを噛み締めている僕の頭の中には、きのこ帝国が流れていた。
東京 / きのこ帝国
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