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朝に花火やってみたくね?荒川の土手行こ

夏の醍醐味は朝だと思っている。騒がしい街もまだ静かで、蝉の声も少ない。誰もが開放的になっていて騒がしいのが夏なのに、静けさが漂っているのがとてもいいのだ。

中学生の私はそんな思いをまだ言語化できていなかったが、同じように「朝気持ちいいよね」などと話せる相手がいた。親友のミキだ。スクールカーストにおいて上位であるミキは、スクールカーストの上位から転落した私を、継続して気にかけてくれた。そして、ミキから言われた。「花火ってさ明かるいところでやるとどうなるの?朝に花火やってみたくね?」

中学校の夏休み。ガラケーで連絡を取り合って早朝に起きる。お互いにパンパンに腫れた顔を引っ提げて集合する。「こういう時はさ、荒川の土手だよね」と、高島平に向けてチャリを飛ばした。

高島平に向かうためには、中山道を通らなくてはいけないので、車の交通量が多い。しかし、早朝だと乗用車よりもトラックが多く、見慣れない風景だった。チャリを漕ぐ力がいまいち出ないが、二人でなんとなく話していたらあっという間に土手に着く。

「土手やば〜」アホ丸出しの感想を話しながら、花火ができそうなところを探る。周りにはランニングや散歩している人ばかりで、謎のテンションでうろうろしている私たちは浮いた。

「え、なんかもうどこでもよくね。火つけてみようぜ」。着火。手持ち花火から閃光が放たれる。しかし、本来であれば緑や赤で見える光がどれも白っぽく見えてしまう。花火が放つ閃光が太陽光に被り、煙だけがやけに目立つ。「うわ〜全然綺麗じゃないじゃん!」。私とミキは腹を抱えて笑った。

中学生のアホ二人は花火が終わると、目の前に大きな川と土手があっても、その自然を楽しむこともできない。「帰りドンキでも寄る?」「やってねーだろ」「え?24時間営業じゃないの」という会話しか生まれない。でも、花火は朝にやると綺麗じゃないというくだらないことを知れただけで結構満足だったりするのだ。

朝が終わる。陽が出てきて暑くなってきたので帰ることにする。ミキがディズニーのタオルで汗を拭う。私は腕をまくる。

朝が明けて騒がしくなってきた夏に私たちは帰っていく。朝に花火をやっても綺麗じゃないというどうでもいい事実が知れたことは、私たちにとっては大切な思い出になった。夏の醍醐味である朝を、親友と過ごせた経験が、私たちの人生を彩った。



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