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Old Soldier の複業探訪(8)

「あなた様の登録情報にマッチングする公募案件をお届けします!」
そのメールに気付いたのは、金曜日の夜だった。勇躍リンク先を開いてみると、その案件とは期待したソフトウェア品質プロセスに関するものではなく、意外な事に、ロボットについてのものだった。
ロボットの制御ソフトは、私が社会人になって初めて担当した仕事である。10年以上の経験があり経歴書に書いた事は事実だが、それはソフトウェア開発の経験が長い事をアピールする為のもので、このスキルが複業につながるとは思ってもみなかった。とは云え、オファーが来たのである。急ぎPR文を作って応答したところ、週明け直ぐに返信が来た。
聞けば、ロボットを開発するにあたり、いわゆる Inverse-Kinematics で悩んでいるとの事。これは私が最も得意とする分野である。話はあっけない程とんとん拍子で進み、翌週の月曜日に面談する事となった。初めての複業。スポット・コンサルティングの契約成立である。

オファーが来てからと云うもの、年甲斐もなく小躍りするような高揚感に包まれる日々だったが、決まってみると一抹の不安もあった。得意分野とは云っても、既に30年近く前の話である。そして、Inverse-Kinematics は方程式が「解けてなんぼ」だ。先方も、解けないからこそアドバイザーを求めている訳で、「私にも解けません」では詐欺みたいなものだろう。
そんな、ドキドキとワクワクが交錯する気分で迎えた週末の朝、新車が我が家にやってきた。さっそく妻と乗り込み遠方に住む次女の元へと向かうが、運転を楽しみながらも、頭の中では「復習」を繰り返していた。Inverse-Kinematics 以前の、ユークリッド幾何学で云うところの同次変換から始め、
解法へと進むが、「三つ子の魂、百まで」とはよく言ったもので、道中の半ばを過ぎる頃には、概ね思い出す事ができていた。

思えば若き日々、全力で取り組んだ仕事である。大学で余り勉強をしてこなかった私が休日返上の猛勉強で身に付けた技術は、今も深く、私の中に息衝いていたのである。なにより、それに気付けたことが嬉しかった。そして、大学で機械工学を専攻しながらソフトウェア・エンジニアを志した、その茨の道と、チャンスをくれた当時の上司の事なども鮮やかに蘇り、ノスタルジーに満たされたひとときを楽しむ事もできた。
ロングドライブを終えて自宅に戻ると、先方から事前の質問状が届いていた。これに対する回答書をWORDでしたためたが、当時のようにとまではいかないものの、淀みなく数式が湧き出てくる事に、自分の事ながら驚いた。

「大丈夫だ」
本番の準備はできた。(続きは次回に)

ここまでお読み頂いて、ありがとうございました。
このとおり、老兵の複業探訪を不定期で、時折、世相に対する世迷い事を織り交ぜながら発信して参ります。

どうぞ、よろしくお願い致します。


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