見出し画像

【小説】媒介 その一

猫が鳴いている。みゃーみゃーみゃーと、か細くも耳に残る声。ここいらに猫などいたかと、ふと考え始めた時、自分は猫嫌いだったことがパッと頭に浮かんだ。
普段は猫の声など気にも留めない。なのに。
考えれば考えるほど、頭が冴える。そして映画館を出る時の強烈な眩しさ、穏やかさが目に甦った。
子供の泣き声だ。
か細い声であることに何故か安堵してしまうが、すぐに子供のことが気になりだした。 
泣き止まない理由とは。
子供の姿を見ればわかるに違いないとベランダに足を向けた。
身を乗り出し、外を見やる。
手を顔に当て、泣いている子供。ときおり、顔を上げると恨めしそうに辺りをうかがい、また泣き始めた。
迷子になるような年齢か。ちょっと大きくやしないか。いや、何か困っているのなら大人だって泣きたい。
どうする。声をかけるか。
ぐるぐると、まだエンジンがかからない脳みそを回転させていると。
コーヒー淹れたよ、という彼女の声が回転をストップさせた。
ああ。声にもならない返事をし、家の中に入るが。
子供の泣き声、いや叫びは止まらない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?