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故人がVTuberとして活動する【故人系VTuber】実現性への考察

本稿は、何らかの死因によって亡くなった故人を、VTuberとしてインターネット上で継続的に活動させる試みについて考察する。
現代人として生まれ、そして亡くなっていった人物をVTuberにするには、どうすればいいか。
まずは偉人をVTuber化した例から故人の芸能・創作活動者を復活させようとした先行事例をあげる。その後に実現性について解説する。

VTuber過去事例

現時点で、故人をVTuber化した事例では、歴史上の人物としても知られる織田信長(織田信姫、おだのぶ)やペリー(黒船提督プリー)などの偉人があげられる。

彼ら彼女らは歴史上の人物としられる人物の姿をモチーフにしており、容姿は史料として残っている姿をある程度参考にしている。

なお、中には織田信姫のように織田信長の美少女した事例も存在する。
織田信姫は伝承から由来した人物像の反映が活動に対してあまりないと筆者は評価しており、他の活動する偉人を参考にしたVTuberにおいても、多くの場合は人物像動画投稿や生配信上のパフォーマンスの寄与度は低いと筆者は評価している。これは先述例として挙げたおだのぶ、黒船提督プリーに共通しているからだ。

先行事例としての人工知能=AI 美空ひばり

AIの分野では、歴史上の人物のみならず現代人として生まれた故人を再現する試みが存在しており、一定の議論を呼んでいる。

例えば、死後デジタル労働・D.E.A.D(Digital Employment After Death)。

死後の個人データ保護や肖像などの権利を問題提起しており、死後に利用されることを許可するか? アンケートを取るなど社会的実験を行っている。

もしも故人をVTuberにする際にはこうした倫理的な問題の解決が必要になる可能性があることは念頭に置くべきだろう。

日本の中でもこうした死後デジタル労働が行われた顕著な例として、歌手・美空ひばりがあげられるだろう。

美空ひばりは「川の流れのように」など多数の名曲を送り出した一方、1989年6月24日に呼吸器不全により52歳で死去。

2019年5月29日の日本コロムビアの発表では、フィジカルメディア(CD、レコード等)での売上は約1億1700万枚に達しており、伝説としての呼び声も高い。

そんな美空ひばりを復活させようという動きがあったのは2019年。すでにVTuberが流行し始めている時期だった。

NHKらは局内やレコード会社に残された映像・音源を収集し、それを学習データとして美空ひばりを現代によみがえらせる試みを行った。

映像は本人の顔に忠実に似せたリアリティのある3DCGを作成した上で、ホログラムで投影することで奥行きと等身大の姿を再現。
音声は、YAMAHA全面協力で声をAIの力で再現した合成音声・VOCALOIDを制作している。

この再現の様子はNHKスペシャルや紅白歌合戦などで放送されたが、国内で故人をAIにすることの是非について議論の呼び水となり、故人を蘇らせる技術が認知も深まった。

故人系VTuberの可能性

さて、故人をVTuberとして活動させる場合はAIを活用したVTuber=AI VTuberとして蘇らせることが適当だと思う。

AI VTuberは、紡ネンやごらんげ、しずくなど多数存在しており、AI開発ブームに乗って勢いが出てきている。
こうした既存の技術を使いつつ、より本人に近づけられれば故人がVTuberになることが可能だと筆者は考える。

実現性と課題

ビジュアル

ビジュアル面については、美空ひばりの例ではCGを活用することで再現をしていたことから同じ手法を使えばVTuberとのシナジーがある。

ただし、美空ひばりの例では一種不気味の谷現象(人間に近しい存在を見ると不気味に思うこと)にも似た社会現象が発生していたことから、それを超える必要が出てくる可能性があり、いかにそれを丸めるかが肝となる。

先述の例である、のぶひめのような先行例ではデフォルメイラストを使用していたことから、ある程度デフォルメにすることで和らげることが出来るだろう。
しかし、そのデフォルメした状態で「故人を再現した」と言い切るには、容姿がかけ離れてしまう問題が生じるかもしれない。

Twitterのアイコンなど限定的にはAIイラストも活用できる。ビジュアルについてはとことんAIを使い込めそうだ。

また、不気味の谷現象について触れたが、もし3DのVTuberにする場合は人間らしい動きが必要になる。

エピソードとして、ドワンゴなどで重役を努めていた川上量生氏は、過去にジブリでAIのプレゼンを行った様子がテレビで放映されたことがある。CGで生成した生き物の動きがあまりに奇妙だったことで、かの宮崎駿に「生命に対する侮辱を感じます」「極めて不愉快ですよね」と喝を入れられた。

これもまた崇高な再現をするか、何か受け入れられる動きをさせるかの選択になってくる。
最もなのは、生きた人間のモーションを取ることかもしれないが、もしあなたが「死んだ人間の役をやって欲しい」と言われたらどう感じるだろうか? 倫理的・心理的課題を抱えることになるだろう。

音声

また、音声をどうすればいいかという問題は既存のAI VTuberのように、合成音声を採用することで故人の再現を試みることができるだろう。

また、通常のAIを用いないVTuberによる合成音声化の流れもある。
中でも人気の高い可不は、バーチャルシンガー・花譜さんをサンプルし、制作した合成音声だ。
いかにオリジナル(花譜本人の声)に近いものを販売するかアンケートが行われていた。

これは最終的にはオリジナルに最も似た声を持つ合成音声は花譜本人と制作サイドが望まないものだとしてオリジナルと機械的な音声と間のものが採用されたのだが、生きる人間でもオリジナルに似せるか議論になるのだから、故人についても同様に議論が出るものと思われる。
しかしながら、現実的にオリジナルに似せる技術が確立されているともいえる。

実際の活動内容はどうするべきか?

既存のAI VTuberでは、新たにおもむろにAI VTuber自身が配信の内容の拡充をすることはまだ難しい。
雑談配信をするAI VTuberがプログラムされていないゲーム実況をすることは技術的に不可能だ。

美空ひばりのように、歌なら歌。
紡ネンのように、雑談や会話ならそれに限る。
ごらんげのように、ゲーム実況ならそれに特化させる。
開発を行えさえすれば、しずくのように可用性は広まるが、その分の生きた人間のリソースが削られることは念頭に置かなければならない。

また、配信をする場合にはそのためのソフトウェア開発や生きた人間の配信監視要員も必要になってくる。意外と故人系VTuberになっても、人間は誰かの力を借りなければ生きられないのだ。

また、VTuberの活動は配信や動画にかぎらず、広報活動も必要だ。TwitterについてはChatGPTのような文章系のジェネレーティブAIを活用できるだろうし、配信開始の告知についてもRSSやAPIによる開発連携で対応可能だろう。
結論、AI VTuberにすれば故人を再現することが叶うかもしれない。

故人系VTuberが本当に安らぐとき

故人がVTuberになって本当に安らぐとき。活動を終えるとはどういう状況なのかについても少し触れて締めようと思う。

  1. 運用者死去や停止判断など運用者を要因とする理由(運用不可能性等)

  2. ハード/ソフトウェアが復旧・開発不可能などの不具合が発生(運営不可能および再現可能性)

の大きく分けて2つが考えられるのではないだろうか。

先述したように生きた人間の力がなければAI VTuberは継続的に活動することは難しく、そのうち止まってしまう。

ただ、D.E.A.D.で提起されていた内容のように死後の労働は御霊は苦しめられることはないかもしれないが、ずっとそれを模したものは動き続けることになる。
蘇らせた故人系VTuberが止まるときこそ、故人の本当の安らぎかもしれない。

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