歌集『アーのようなカー』(寺井奈緒美氏)を読む。-ひねりと親しみやすさの両立-
歌集『アーのようなカー』を読んだ。
不思議なタイトルは、歌集のある一首を読むことで分かるという工夫がある一冊。
五首選
今と過去が交差することで、それぞれの瞬間の切実さやかけがえのなさを感じる。
花びらとビニール傘の取り合わせも景が綺麗だと思う。
「面長の動物は横顔で絵を描かれがち」という発見も内包されている一首。
「向き合うんだ今日は」の部分だけ見ると、大変な出来事への決意のように見えるが、内容はほっこり系だと思う。
適当なオリジナルソングを歌いながら機嫌よく歩く様子が伝わってきた。
機嫌が良いように読めたのは「夏の畦道」の持つ字面やイメージのせいだろうか。
バルーンアートが創造行為のように描かれている一首。
遺伝子から風船プードルへの飛躍の間に無理のない工夫とひねりが加えられている。
青の色が持つ人工的で無機質なイメージが、生身の生き物のプードルと風船プードルとの違いを強調しているように思えた。
知らない家族の知らない子供がシャボン玉を吹いている光景を見るとワクワクする。
それを踏まえて「青空が産卵をする瞬間に立ち会うような」という比喩は上手いと思った。
確かに、シャボン玉の丸さは卵のようであり、シャボン玉が吹かれる様子は産卵を見ているのような高揚感がある。
まとめ
独特な味わいの歌集で、それだけではなく短歌に工夫やひねりがある。
なおかつ、生活詠や食べ物についての短歌も多く親しみやすさもある。
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