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世間に誤解されてるのを知っていても、そんなにうまく振舞えるものでもないだろう。


祖母は嫌われていた。
近所で変わり者扱いをされていた。
道端をうろうろと歩いては、野良猫を見つけて、エサをあげようとする。
「ミィーちゃん、ミィーちゃん」
と、声を出しながら、屈んでいたり、見上げていたり、狭い道に入っていったりする。
ミィーちゃんというのは祖母にとっての野良猫の総称で、どんな野良猫を見つけても、
「ミィーちゃん、あら、ミィーちゃん」
と、声をかける。

何かを探している風だから、たまに、「何かお探しですか?」とか、「猫ちゃん逃げちゃったんですか?」なんて話しかけられたりするのだけれど、祖母は、何も言わず、そこから移動する。
気まずそうに移動する。そうすると、祖母の評判は悪くなる。
気持ち悪いと言われたりする。

僕は、バイトぐらいしかしていないで、基本暇そうに見えたのか、父親から、祖母がうろうろするのを止めさせてくれと、頼まれた。

「自分で言えばいいじゃん」
「いや、話聞いてくれないんだよ」

ということで、祖母が外に出る時に、なんとなくついていって、連れ戻してほしいということだった。

次の日、僕は部屋の窓辺から、祖母が外へ出ていかないか見ていた。
なんの時間だろ、これと思った。
「……あ」
と、祖母が外に出ていった。

僕は部屋を出て、祖母をつけてみた。
「ミィーちゃん、ミィーちゃん」
と、言って、歩いている。

ここで声をかけてもいいけど、まあ、しばらく見ていようかと思ってついていった。
結構、歩く。そして、猫が見つからない。
と、祖母が屈んだ。
「あら、ミィーちゃん」

僕も祖母に近づき、屈んだ。
猫がいた。猫は警戒するように、ジッとこっちを見ている。

祖母は、ビニールで巻いた煮干しを一つ取り出し、
「ほらミィーちゃん、煮干し、ミィーちゃん」
けど、猫もまだ近づかない。
けど、移動もしない。

祖母は、ゆっくりと近づき、煮干しを猫との中間地点に置く。
そして離れる。

無言。猫、祖母、僕、無言。

「……あたしが嫌われてるのは知ってるよ」
と、祖母がボソッと言った。
少しドキッとした。
「僕も似たようなもんだよ」

祖母が僕を見て、少し口元に笑みを浮かべた。
その時、
「あっ」
ミィーちゃんが一瞬で煮干しを奪い、去っていった。
「あら、ミィーちゃん!」
僕はケラケラと笑った。

それからは、僕もたまにミィーちゃんを探しに行く。
猫はなかなかなつかない。



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