見出し画像

見かけても声をかけない相手。


たぶん二週間だけ一緒に働いたことがある人。
名前も、しっかりと思い出せない。
三年ぐらい前。短期の仕事で、清掃作業。

その時に、一緒に働いていた人。
最近、よく見かける。
たぶん、近くに住んでいるのだろう。
なので、この三年の間にも、何度か見かけたりもしたと思うのだけれど、気になりだしたのは最近。

バスに乗った時に、その人が斜め前に座っていた。
ふと、目に入った斜め横顔に、
「ん?」と、思い、あれ、どっかで。となって、

その人がバスを降りてから、
「あぁぁ……」と、思い出した。

年齢は相手が二回りぐらい上だし、特に仲が良かったわけでもない。
話しかけて、思い出したとしても、「ああ、どうも」なんて、言って、その後、どうするかっていうと、別に何もないだろう。

と、言うことで声をかけてない。
けど、月曜と、金曜の帰りのバスでは必ず一緒だということも分かってきた。
なんとなく気まずい。
毎回、声をかけようかと一応思う。けど、してもしょうがないさとかけない。
もしかして、すごく気が合って、どこかに食事に行ったりする仲になる可能性がないわけでもない。けど、望んではいない。

実際に、一緒に働いた期間よりも、バスで出くわす時間のが長くなってきた。

そして、ずっと忘れていたけれど、その一緒に働いていた二週間の間、休憩時間に、ちょっとした会話をしていたことを思い出した。
「私はもう、あと十年生きられるか分からないですから」
みんなで、「これからの十年」の話をしていた時に、その人に話を振られ、確か、そう言ってた。
「あれ、いくつでしたっけ?」
「六十九です」
「いやいや、まだまだっすよ」と、誰かが励ました。

その言葉を聞いて、「将来」に先送りしない年齢っていうのがあるのかもと、少し考えた。そうか、あの人だ。

今日は月曜日。
あの人を見かける。
最近、髭を伸ばしたようだ。
なかなか似合っている。



よろしければサポートお願いします。大切に使わせていただきます。