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雨用の靴。わたし用の人。

6.1 木

 雨が降りそうな空を見上げて仕事に行った。明日は台風らしい。

 雨用の靴を買った。
 持っている雨用の靴が最近痛くなった。つい最近まで私の足にピッタリだったのに。

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 年齢と共に〇〇用の〇〇が増えていく。

 雨用の靴
 雪用のブーツ

 若い頃は雨用の靴も雪用の靴も無かった。雨の日だってアディダスだったし、晴れの日だってアディダスだった。海外だってアディダスだったし雪国旅行もアディダスだった。
 アディダスで雪の上をふんばり、アディダスで水たまりを避けた。もちろんアディダスはただアディダスなのですぐにびちょびちょになったけれど。

 雨の日に足が濡れないという事がどれほど快適なのか。という事を知ったのはここ5年ぐらいだ。
 5年ほど前に持ち物にスノーブーツとレインシューズが増えた。

 〇〇用の〇〇は他にもある。年齢を重ねて快適である事を求める様になった。少々大変だけど身軽な生活とは別れをつげて。そして単純に自分のメンテナンスも必要になった。

 荷物がどんどん増えて行って埋もれそう。

 春夏絶対のサングラス(無いと偏頭痛がおこります)や日傘(最近太陽に負けすぎる)、夏の外出用の120mlの水筒(ひどい夏バテを起こしてから必須になった)・・など。

 旅行の時の荷物も増え、日々の基礎化粧品も増えて行く。

 アイクリーム、シワ用のクリーム、3時間多めに寝た様な効果が出る用のクリーム。肌のターンオーバー用の美容液に加えて、先日なんと化粧水の導入を促す用の美容液まで買ってしまった。
(自分でもそこは化粧水を信じろよ、と思う。)

 美容液やクリームって効果の実感は無くても使い始めるとやめられ無くなるんだよね。後戻りできない。

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 夜。やめられなくなった3時間多めに寝た様な効果が出る用のクリームで顔をもにもにと揉みながらソファーにもたれで床に座る。ソファーにはわたし用の人(夫)。しばらくするとテレビを見ていたわたし用の人が寝てしまったことに気がついた(1年の大半をこの人はここで寝てしまう)。

 わたし用の、最初からわたし用だったわけでは無い、いつのまにかわたし用になった人。海岸線の石みたいに。
 夫を見て、わたし用だなと思う。
 それでも、それでもと自分の中を探る、私の中にはまだちゃんと、このわたし用の人に別れを切り出された時用の強さが残っているだろうか。と(少々ややこしい)

 夫がわたし用じゃ無くなる未来を時々想像してしまう。私にぴったりだった雨用の靴が痛くなってしまう事がある。この人がわたし用じゃなくなる事も、いつか、あるだろう。
 そんなとき用の強さが、心の奥にそっと置いてある。と信じている。

 (し、離婚時用の貯金もしてある)

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 書いていて夫とはまた違うわたし用の人だった人を思い出した。昔、私のびちょびちょになったアディダスをしょっちゅうドライヤーで乾かしてくれていた人。(最初は私どれだけ愛されてんだと思った、靴を。ドライヤー。だよ)
 あの人がわたし用じゃ無くなった時、とても悲しかったなぁ。

痛くなってしまった雨用の靴

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