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大河内健志短編集

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2020年4月の記事一覧

月夜に吠える狼(『 龍馬が月夜に跳んだ』より )

あたりが薄墨を塗り重ねるように暗くなってくる。色の境がくっきりとしてきた。黒はより深みを…

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未来日記『パティスリー☆ハウスマウスの思い出』

 2020年9月15日(火) 晴れのち曇り  ずっと書いていない日記を今日からまた書きます。 …

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短篇『ダイヤよりも光り輝くもの』

「どうしても出来ないのやったら、せんでもかまへん。その代わり、この会社はもう終わりや。80…

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涙が出るほどおいしいメロンパン

焼きたてのクッキーの香りが、部屋中に漂う。 香ばしくて、鼻の奧が生クリームで満ち溢れるよ…

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宝石屋さんの不思議な古時計

 「キクちゃん、早う寝なさい」  お母さんは、そう言うと階段をきしませて降りていかはりま…

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『饗宴 』(前半)

 人通りが少なくなった。  道行く人は、誰もが伏せ目がちに、逃げるように急ぎ足で行き交う…

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『饗宴』(後半)

 前半 https://note.com/okouchi1959/n/n5036b4842e38  突然、光を浴びせられた。  目の前に、顔を半分覆い隠す黒光りするマスク、眼鏡ではなくゴーグル、頭には料理人のコック帽をかぶっている男。白衣に染み込んだアルコールのにおいと手に持ったペンライトで、それが医師であることが分かる。それにしても奇妙な格好をした医師だ。  ペンライトが近づく。  医師のゴム手袋をはめた生臭い指が、無理やり瞼をこじ開ける。ペンライトの光が、その中に

日はまた昇る

「coronavirus」 何と美しい言葉だ 言葉とは裏腹に、何処に世界中を震撼させて、人々を不幸…

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輪廻転生(『仮面の告白 第二章 』より)

「エイ!」 森田必勝君の気合と共に、 「ゴツン」 頭をバッドで思いっきり殴られたような…

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「もう大人に騙されるな!」

若者に告ぐ! 「もう大人に騙されるな!」 私は、この世に再び現れて驚いた。わが目を疑った…

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色褪せてしまうもの

4月の半ばを過ぎても、まだうす寒い。 桜の花が未練がましく残っていて、薄曇りの空のグレーに…

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小説『スカイフック』第7話 襲いかかる魔の手

街は、すっかり闇に包まれた。人々は我が家に帰り、光を少しも漏らさないように工夫して、声を…

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『スカイフック』第8話  命中!

「敵編隊、最後尾通過。全機で249機。敵編隊、最後尾通過、全機で249機」 監視所にから…

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『スカイフック』第9話 軍隊の本質

「命中」 射手が思わず叫んだ。他の班員からも、叫び声を上げて飛び上がらんばかりになった。米田上等兵だけが表情を変えずに、また手帳に何やら書き込んでいる。口をぎゅっと締め、首を傾げ納得のいかない様子であった。 尾翼を鶏の鶏冠のように歪になったB29は、あろうことか狂った老牛のように尻を振りながら糞をするように、爆弾を投下し始めた。こちらに向かってくると思えば、遠く東山の方へ向かい、その間にも爆弾を撒き散らす。東山には米田上等兵が勤務していた高校があった。付近にも、生徒の家が